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第二章
ようこそ、異世界へ 5
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レイヴンは眉を顰めたものの、それ以上は何も言わず押し黙った。
その様子を見てシンはレイヴンから手を離すと、ゴブリンに向かって朗らかに尋ねた。
「よし、次は何だ? 服か?」
「ふく。あたらしいの、つくってる。まだだめ」
ゴブリンはふるふると首を振る。それを聞いたレイヴンは、自身が身に纏うシャツと呼ばれる上衣の裾を握った。
ぶかっとしたそれは華奢なレイヴンには肩が余り、袖も長く、明らかに寸法が合っていない。また今の彼は下肢には何も着けておらず、シャツの裾で膝上までを隠している状態だ。
なぜそのような格好をしているのかというと単純な話、ここにはレイヴンの身体に合う衣服がなかったのだ。ここ数日は傷を治す為に横になっていた為、特に必要がなかったものの、歩けるようになれば話は別だ。今日は朝から採寸し、レイヴン用の衣服をここにはいない別のゴブリン達が仕立てているのだ。
髪を切るにあたり、ひとまずはシンの衣服を借りたのだが、隠れているとはいえ下着すらつけていない状態では居心地が悪いらしい。
対してシンは、自身の体躯に合ったものを纏っている。シャツにズボンと呼ばれる下衣。青と赤を織り交ぜたような色味の布地で作られたそれは村では見ないタイプの意匠だが、シンの整った体躯をよく見せるそれは着物よりは合っていると、レイヴンは一人納得していた。
シンはうんうんと頷きつつ、「となると、飯か。そっちは?」とすかさず尋ねた。
「えさ、もうできる。こめ、ぱん、まめ、どれがすき?」
「だとさ。何が食いたい?」
シンとゴブリンが揃ってレイヴンを見た。まさか食事の好みを聞かれるとは思っていなかっただけに、レイヴンは戸惑った。
「え、と……あの……僕は……その……た、食べたいもの、なんて……」
ぐうう。
言い淀んでいる間に、自分の腹から答えが出た。サッと両手で腹を押さえるももう遅い。シンはきょとんとした顔を見せた後、豪快に笑った。
「あっはは! 身体の方が正直だなぁ」
側にいるゴブリン達も同じようにクスクスと笑っており、レイヴンはますます居心地が悪くなった。
熱くなる顔をそのままに、彼はボソリと「お米が、食べたいです……」と目の前のゴブリンに答えた。
ゴブリンはコクリと、そして嬉しそうに顎をしゃくった。
「イヴはこめ。イヴはこめ」
「すーぷはみそ。すーぷはみそ」
掃除と片付けを終えたゴブリン達は、呪文のようにそれを呟き繰り返す。「みそ」という単語に耳聡く反応したのはなおも笑い続けるシンだった。
「おお、味噌汁か! それならオレにも用意してくれ。飲みたかったんだ」
「あい。まおーさま」
そういえば、シンは村で過ごした際も複数の調味料を尋ねていたことをレイヴンは思い出した。それらのすべてがあの小屋にはなく残念がっていたので、よく覚えていた。
よほどの好物なのか、子供のように喜んでいる彼の横顔が、不覚にも可愛いとレイヴンは思ってしまった。
「んじゃ、行きますか」
「ふわっ!?」
唐突に、シンはレイヴンを椅子から抱き起こすと、彼をその両腕に抱えこむ。急に浮いた身体に驚き、声を上げたレイヴンは、咄嗟にシンの首に抱きついた。
「あ、あのっ……何を……」
「何って、飯を食いに行くんだよ。ようやく起きることができたんだ。今日からレイヴンも食堂で食うぞ」
言いながら、シンはレイヴンを抱いたままスタスタと歩き始めた。
そういう理由ならと、レイヴンはシンから逃れるように控えめにパタパタと足を動かした。
「でしたらっ……僕、自分で歩けます……だから……!」
「却下」
「シンさん……!」
しかし言い終える前にその申し出は却下されてしまい、レイヴンは困ったようにシンを呼んだ。
呼ばれた当人は「まあ、歩いてもいいんだが……」と独り言のように呟きつつ、レイヴンを抱かえる手の片方をそっと伸ばし、彼の秘部へと触れた。
「んっ……!」
途端、ビクン! と、身体を強張らせるレイヴン。一層強く首に抱きつく彼に、やや満足そうに微笑むシンは、ゴブリン達に聞こえないよう耳元で囁いた。
「今歩こうものなら、この可愛い尻の中に挿れたもんが出ちまうだろ」
「そ、れは……」
やがて観念したように項垂れるレイヴンは、それ以降は大人しく、シンに抱えられたまま部屋を後にした。
その様子を見てシンはレイヴンから手を離すと、ゴブリンに向かって朗らかに尋ねた。
「よし、次は何だ? 服か?」
「ふく。あたらしいの、つくってる。まだだめ」
ゴブリンはふるふると首を振る。それを聞いたレイヴンは、自身が身に纏うシャツと呼ばれる上衣の裾を握った。
ぶかっとしたそれは華奢なレイヴンには肩が余り、袖も長く、明らかに寸法が合っていない。また今の彼は下肢には何も着けておらず、シャツの裾で膝上までを隠している状態だ。
なぜそのような格好をしているのかというと単純な話、ここにはレイヴンの身体に合う衣服がなかったのだ。ここ数日は傷を治す為に横になっていた為、特に必要がなかったものの、歩けるようになれば話は別だ。今日は朝から採寸し、レイヴン用の衣服をここにはいない別のゴブリン達が仕立てているのだ。
髪を切るにあたり、ひとまずはシンの衣服を借りたのだが、隠れているとはいえ下着すらつけていない状態では居心地が悪いらしい。
対してシンは、自身の体躯に合ったものを纏っている。シャツにズボンと呼ばれる下衣。青と赤を織り交ぜたような色味の布地で作られたそれは村では見ないタイプの意匠だが、シンの整った体躯をよく見せるそれは着物よりは合っていると、レイヴンは一人納得していた。
シンはうんうんと頷きつつ、「となると、飯か。そっちは?」とすかさず尋ねた。
「えさ、もうできる。こめ、ぱん、まめ、どれがすき?」
「だとさ。何が食いたい?」
シンとゴブリンが揃ってレイヴンを見た。まさか食事の好みを聞かれるとは思っていなかっただけに、レイヴンは戸惑った。
「え、と……あの……僕は……その……た、食べたいもの、なんて……」
ぐうう。
言い淀んでいる間に、自分の腹から答えが出た。サッと両手で腹を押さえるももう遅い。シンはきょとんとした顔を見せた後、豪快に笑った。
「あっはは! 身体の方が正直だなぁ」
側にいるゴブリン達も同じようにクスクスと笑っており、レイヴンはますます居心地が悪くなった。
熱くなる顔をそのままに、彼はボソリと「お米が、食べたいです……」と目の前のゴブリンに答えた。
ゴブリンはコクリと、そして嬉しそうに顎をしゃくった。
「イヴはこめ。イヴはこめ」
「すーぷはみそ。すーぷはみそ」
掃除と片付けを終えたゴブリン達は、呪文のようにそれを呟き繰り返す。「みそ」という単語に耳聡く反応したのはなおも笑い続けるシンだった。
「おお、味噌汁か! それならオレにも用意してくれ。飲みたかったんだ」
「あい。まおーさま」
そういえば、シンは村で過ごした際も複数の調味料を尋ねていたことをレイヴンは思い出した。それらのすべてがあの小屋にはなく残念がっていたので、よく覚えていた。
よほどの好物なのか、子供のように喜んでいる彼の横顔が、不覚にも可愛いとレイヴンは思ってしまった。
「んじゃ、行きますか」
「ふわっ!?」
唐突に、シンはレイヴンを椅子から抱き起こすと、彼をその両腕に抱えこむ。急に浮いた身体に驚き、声を上げたレイヴンは、咄嗟にシンの首に抱きついた。
「あ、あのっ……何を……」
「何って、飯を食いに行くんだよ。ようやく起きることができたんだ。今日からレイヴンも食堂で食うぞ」
言いながら、シンはレイヴンを抱いたままスタスタと歩き始めた。
そういう理由ならと、レイヴンはシンから逃れるように控えめにパタパタと足を動かした。
「でしたらっ……僕、自分で歩けます……だから……!」
「却下」
「シンさん……!」
しかし言い終える前にその申し出は却下されてしまい、レイヴンは困ったようにシンを呼んだ。
呼ばれた当人は「まあ、歩いてもいいんだが……」と独り言のように呟きつつ、レイヴンを抱かえる手の片方をそっと伸ばし、彼の秘部へと触れた。
「んっ……!」
途端、ビクン! と、身体を強張らせるレイヴン。一層強く首に抱きつく彼に、やや満足そうに微笑むシンは、ゴブリン達に聞こえないよう耳元で囁いた。
「今歩こうものなら、この可愛い尻の中に挿れたもんが出ちまうだろ」
「そ、れは……」
やがて観念したように項垂れるレイヴンは、それ以降は大人しく、シンに抱えられたまま部屋を後にした。
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勢いで書いたら、思いっきり間違えた。レイヴンじゃなくてシン。シンのことです。
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こちらの方も読み返してくださりありがとうございます。
シンさん格好いいですか!?やった~(*´艸`*)
第二章以降も彼はきっといい意味で活躍してくれると思います。お待たせしてしまい申し訳ありませんが、更新再開しましたらまたお付き合いくださると嬉しいです♪
再読です。改めて読むと、冒頭登場シーンのレイヴン恰好良すぎて吐きそうです。はぁー良き。
ご感想くださりありがとうございます(^^)
や〜嬉しいです!!
ただいま第二章が始まりましたが、これからレイヴンがどうなっていくのか、最後まで見守ってくださると嬉しいですm(_ _)m