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第一章
んじゃ、お望み通りにしてやるよ 12
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そう言ってパチン、と指を鳴らす。
途端、地の底からの地響きと共に、足元の地面が大きく前後左右へと揺れ出した。
「うわああっ……地面が、地面が割れている!?」
「なん、なんだ!?」
「や、山がっ……山が崩壊しているぞ!」
砂が土台の地面に大きなヒビのような亀裂が入り、ガクン、ガクンと段階的にシンとレイヴンは下へ沈んでいく。レイヴンが暮らしていた山は大きく揺れ動き、心なしかこちらへと傾いているように見えた。まるで天変地異。いや、天地がひっくり返るような現象に、村人達は叫換し、混乱する。それでも、彼らの魔法は解けないでいるのか、皆が蠢く地面に貼り付いたままだ。
「この……この化け物め……! 村に何をしたぁ!?」
男が一人、シンに食ってかかった。先に沈み行くシンは「化け物ねぇ」と煩わしそうに呟くと、男の質問にこう答えた。
「オレはこの村に何もしていない。ただ、お前らの望み通りに、レイヴンをこの世界から消すだけさ」
清々しく言い切るシンだが、彼はレイヴンが離れないよう強く抱いた。
轟音と共にどんどんと沈んでいく地面の割れ目からは、先の見えない闇が顔を出していた。怒りよりも、恐怖に顔を歪める村人の一人がこう叫んだ。
「ああっ……神様! 神様! お助けくださいい!」
「聖女は殺せというのに、神は乞い願うんだな。都合が良い……そんなんだから、罪なんてもんを呼んだんじゃねえの?」
皮肉を言うシンだが、もはや誰もシンを気にしていない。ただ一人、レイヴンを除いては。
「し、シンさんっ……!」
「さて、レイヴン。今からオレと心中だ」
「そんな……シンさんが死んじゃうなんて……そんなの、そんなの嫌です!」
声を張り上げ、珍しく必死な様子を見せるレイヴンに、シンは豪快に笑った。
「あはははっ! オレが死ぬのが嫌? 自分じゃなくて? 最っ高だな、レイヴンは!」
笑い事でも、笑う状況でもないというのに、シンは心底可笑しそうに笑っている。今から死ぬというのに、だ。
やること為すことが滅茶苦茶で、何を言っているのかわからないことが多い、そんな不思議なシンにレイヴンは今更、心惹かれていることに気づいた。
「おっと……!」
とうとう足場が崩壊し、シンはバランスを崩した。二人の顔がグンと近くなり、互いの息が吹きかかるほどの距離になる。
シンは二つの翡翠を、レイヴンの双眸に合わせた。
「お前の願いはオレがこの村から去ることだったな。村人達に気づかれずってのは守れなかったが……まあ、概ね叶えたことになる。サービスはここまでだ。それ以上の願いは聞いてやれない。だがもしも願うなら、その身体、その寿命、その力、その感情、その罪……お前のすべてをオレに捧げろ」
どこまでもシンらしい、とレイヴンは思った。滅茶苦茶な命令だったが、レイヴンの暗かった瞳に光が戻った。
「はい……!」
「いい答えだ。んじゃ、とりあえず……一緒に逝くぞ」
迷いなく答えたレイヴンはシンに強く抱かれながら、そのまま深い闇の底へと堕ちていった。
途端、地の底からの地響きと共に、足元の地面が大きく前後左右へと揺れ出した。
「うわああっ……地面が、地面が割れている!?」
「なん、なんだ!?」
「や、山がっ……山が崩壊しているぞ!」
砂が土台の地面に大きなヒビのような亀裂が入り、ガクン、ガクンと段階的にシンとレイヴンは下へ沈んでいく。レイヴンが暮らしていた山は大きく揺れ動き、心なしかこちらへと傾いているように見えた。まるで天変地異。いや、天地がひっくり返るような現象に、村人達は叫換し、混乱する。それでも、彼らの魔法は解けないでいるのか、皆が蠢く地面に貼り付いたままだ。
「この……この化け物め……! 村に何をしたぁ!?」
男が一人、シンに食ってかかった。先に沈み行くシンは「化け物ねぇ」と煩わしそうに呟くと、男の質問にこう答えた。
「オレはこの村に何もしていない。ただ、お前らの望み通りに、レイヴンをこの世界から消すだけさ」
清々しく言い切るシンだが、彼はレイヴンが離れないよう強く抱いた。
轟音と共にどんどんと沈んでいく地面の割れ目からは、先の見えない闇が顔を出していた。怒りよりも、恐怖に顔を歪める村人の一人がこう叫んだ。
「ああっ……神様! 神様! お助けくださいい!」
「聖女は殺せというのに、神は乞い願うんだな。都合が良い……そんなんだから、罪なんてもんを呼んだんじゃねえの?」
皮肉を言うシンだが、もはや誰もシンを気にしていない。ただ一人、レイヴンを除いては。
「し、シンさんっ……!」
「さて、レイヴン。今からオレと心中だ」
「そんな……シンさんが死んじゃうなんて……そんなの、そんなの嫌です!」
声を張り上げ、珍しく必死な様子を見せるレイヴンに、シンは豪快に笑った。
「あはははっ! オレが死ぬのが嫌? 自分じゃなくて? 最っ高だな、レイヴンは!」
笑い事でも、笑う状況でもないというのに、シンは心底可笑しそうに笑っている。今から死ぬというのに、だ。
やること為すことが滅茶苦茶で、何を言っているのかわからないことが多い、そんな不思議なシンにレイヴンは今更、心惹かれていることに気づいた。
「おっと……!」
とうとう足場が崩壊し、シンはバランスを崩した。二人の顔がグンと近くなり、互いの息が吹きかかるほどの距離になる。
シンは二つの翡翠を、レイヴンの双眸に合わせた。
「お前の願いはオレがこの村から去ることだったな。村人達に気づかれずってのは守れなかったが……まあ、概ね叶えたことになる。サービスはここまでだ。それ以上の願いは聞いてやれない。だがもしも願うなら、その身体、その寿命、その力、その感情、その罪……お前のすべてをオレに捧げろ」
どこまでもシンらしい、とレイヴンは思った。滅茶苦茶な命令だったが、レイヴンの暗かった瞳に光が戻った。
「はい……!」
「いい答えだ。んじゃ、とりあえず……一緒に逝くぞ」
迷いなく答えたレイヴンはシンに強く抱かれながら、そのまま深い闇の底へと堕ちていった。
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