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第一章
んじゃ、お望み通りにしてやるよ 10
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「そんなもの……そんなものぉ! 知ったことかっ! すべてっ……すべてそいつがいるから悪いんだ! 昔は栄えて、食物も魚や米だけじゃないっ……牛や豚が食えたんだ! 女子供は太って当たり前、金品も腐る程献上された! それがどうだ! 俺達は生まれた時から親父に殴られた! 女も醜女ばかりでどいつもこいつも痩せていて、抱くに抱けん! 生まれるガキ共は揃いも揃ってうるさい! こんな日々を過ごすようになったのも、その男の聖女が生まれたせいだ……! すべてそいつが悪い! かつての栄光の日々を取り戻すまでっ……そいつは罰せられるべきなんだ!」
肩で息をするほど、大声で喚き散らかした男の目は激しく血走り、怒りで何も見えていないようだった。先ほど、シンが手首を落とした男とは別の男だが、憤る様が同じだった。シンは自分にだけ聞こえるように、「アレが核か」と呟いた。
その男の怒りは自分の内だけに留まらない。両隣、前後、そして周囲の者達へと移るまでに、時間は秒ほどもかからなかった。
「そうだ! 男の聖女が……レイヴンが生まれるから俺達はこんな目に遭っている!」
「これ以上、惨めな思いをするのはごめんだ! レイヴンを罰しろ!」
「罪から逃げるな!」
「そんな聖女は殺してしまえ!」
「殺せ!!」
始まる自身への罵倒にレイヴンは独り言のように「ごめんなさい」と呟いた。その表情は酷く暗く、瞳からはすっかり光が消えていた。
けたたましい人々の声の中、シンはレイヴンに語りかける。
「どうする? レイヴン。こいつらはお前を殺さないと気が済まないらしいぞ」
「それだけのことを、しましたから……」
「覚えがあるのか?」
別段驚いた様子もなくシンはレイヴンに聞き返し、対してレイヴンはシンの顔を見ることなく、俯いたまま質問に答える。
「皆さんの言うことは、本当です。初めてこの村に生を受け、そして聖女の力を授かった僕は……この手で人を、殺しました。その上で、村を焼いたんです」
レイヴンの頭の中で、ある一つの情景が映し出される。今の自分ではなく、過去の自分が経験した出来事ゆえか、それはどこか他人事のように静かに語られた。
「昔は今とは比べ物にならないほど村が栄えいて、いつも活気に満ちていました。僕も聖女として周りから尊ばれ、持て囃され、特別に扱われていました。僕自身もこの力を、村の為に惜しむことなく使っていました。でも僕は……人を殺しました。殺した人は、この村の首領候補の男性で、若く、賢く、力もあり、村中の人々から好かれていました。そんな彼を、当時の僕は山へ呼び出し、深い谷底へと突き落としました。殺した理由は朧げで、はっきりと思い出せませんが……たぶん、妬ましかったんだと思います。僕が聖女として村の為に身を粉にして働いているのに、何の努力もせずに皆から好かれる彼が……」
そこまで言って、饒舌になる自分にハッとした。まるで誰かに明かす時、過去に犯した罪の理由を、予め用意していたかのように、口からつらつらと出たからだ。
レイヴンはゴクン、と唾を飲み込み、息を整えてから再び話し出した。
「それから、殺した後で村に火を放ちました。えっと……人殺しの罪を有耶無耶にしたくて……です。それが僕の罪です。そして罪人の僕は、それ以来ずっとこの村で聖女として生まれては死に、生まれては死にと、転生を繰り返し生きています。これでもう何度目の転生になるのか、数えるのも止めてしまいましたけれど……過去の僕も、今の僕も、別の誰かであって同じ自分です。今の僕は村の人達に対して直接害を与えたわけじゃないけれど、罪を犯した自分も自分だから……だから、村の人達が僕に死ねと言うのなら、それも仕方のないことだと思います……でも……」
それ以上は語れなかった。自分が今ここで死んだとしても再び転生し、この村で生を受けることになる。殺しても無駄。それはレイヴン自身ではなく、村人達にとっての絶望になる。
肩で息をするほど、大声で喚き散らかした男の目は激しく血走り、怒りで何も見えていないようだった。先ほど、シンが手首を落とした男とは別の男だが、憤る様が同じだった。シンは自分にだけ聞こえるように、「アレが核か」と呟いた。
その男の怒りは自分の内だけに留まらない。両隣、前後、そして周囲の者達へと移るまでに、時間は秒ほどもかからなかった。
「そうだ! 男の聖女が……レイヴンが生まれるから俺達はこんな目に遭っている!」
「これ以上、惨めな思いをするのはごめんだ! レイヴンを罰しろ!」
「罪から逃げるな!」
「そんな聖女は殺してしまえ!」
「殺せ!!」
始まる自身への罵倒にレイヴンは独り言のように「ごめんなさい」と呟いた。その表情は酷く暗く、瞳からはすっかり光が消えていた。
けたたましい人々の声の中、シンはレイヴンに語りかける。
「どうする? レイヴン。こいつらはお前を殺さないと気が済まないらしいぞ」
「それだけのことを、しましたから……」
「覚えがあるのか?」
別段驚いた様子もなくシンはレイヴンに聞き返し、対してレイヴンはシンの顔を見ることなく、俯いたまま質問に答える。
「皆さんの言うことは、本当です。初めてこの村に生を受け、そして聖女の力を授かった僕は……この手で人を、殺しました。その上で、村を焼いたんです」
レイヴンの頭の中で、ある一つの情景が映し出される。今の自分ではなく、過去の自分が経験した出来事ゆえか、それはどこか他人事のように静かに語られた。
「昔は今とは比べ物にならないほど村が栄えいて、いつも活気に満ちていました。僕も聖女として周りから尊ばれ、持て囃され、特別に扱われていました。僕自身もこの力を、村の為に惜しむことなく使っていました。でも僕は……人を殺しました。殺した人は、この村の首領候補の男性で、若く、賢く、力もあり、村中の人々から好かれていました。そんな彼を、当時の僕は山へ呼び出し、深い谷底へと突き落としました。殺した理由は朧げで、はっきりと思い出せませんが……たぶん、妬ましかったんだと思います。僕が聖女として村の為に身を粉にして働いているのに、何の努力もせずに皆から好かれる彼が……」
そこまで言って、饒舌になる自分にハッとした。まるで誰かに明かす時、過去に犯した罪の理由を、予め用意していたかのように、口からつらつらと出たからだ。
レイヴンはゴクン、と唾を飲み込み、息を整えてから再び話し出した。
「それから、殺した後で村に火を放ちました。えっと……人殺しの罪を有耶無耶にしたくて……です。それが僕の罪です。そして罪人の僕は、それ以来ずっとこの村で聖女として生まれては死に、生まれては死にと、転生を繰り返し生きています。これでもう何度目の転生になるのか、数えるのも止めてしまいましたけれど……過去の僕も、今の僕も、別の誰かであって同じ自分です。今の僕は村の人達に対して直接害を与えたわけじゃないけれど、罪を犯した自分も自分だから……だから、村の人達が僕に死ねと言うのなら、それも仕方のないことだと思います……でも……」
それ以上は語れなかった。自分が今ここで死んだとしても再び転生し、この村で生を受けることになる。殺しても無駄。それはレイヴン自身ではなく、村人達にとっての絶望になる。
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