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第一章
んじゃ、お望み通りにしてやるよ 9
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「ライト」
シンが一言そう言うと、頭上に不思議な光が照らされた。暖かみのないそれがぼんやりと周囲を明るくする。そんな不思議な事態を不審に思ってか、離れた民家からぞろぞろと、男の妻達が姿を現した。
「これは、いったい……」
「平伏せ」
「きゃあっ!!」
事の次第も知らない女達が、全員その場で倒れた。男達同様、シンの前で頭を伏せ、両手を前に揃えさせられた。自分の妻かもしれない女の悲鳴に、男達が口々に妻の名を呼び叫ぶも、全員が見えない何かによって唇を塞がれる。
くぐもる声の中、シンは滔々に語り出した。
「換気しても酷い臭いだ。小屋全体じゃなく、村全体が腐ってやがる。レイヴンが住むあの小屋を中心とした周りは天国並みに居心地が良かっただけに……最悪だ。反吐が出そうなほどの瘴気に満ちている。虫けら……いや、肥溜め以下だな」
誰かが一際大きな唸り声を上げた。肥溜め以下と耳にして逆上したのだろう。しかしシンは語るのを止めない。
「瘴気についてはこの際置いておくとして、だ。だいたいお前ら、変だと思わないのか? そのレイヴンの罪とやらは、いったいいつの話だ? お前らが体験したのか? 実際に害を被ったのか? 家族を失ったのか? 何かを奪われたのか? 違うだろう。最初からこの状況だったんだろうが。実害を受けてないお前達になぜ、他者を責める権利がある。近隣の村から迫害されている? 馬鹿を言うな。お前らが拒んでいるだけだろうが。なぜこちらから動かない? 過去の栄光とやらに縋りつき、ふんぞり返る頭を地につけられないのか」
語気は強いがその眼差しは真剣だった。低くも玲瓏な声は、説くように語りを続ける。
「この村で唯一客観視ができるオレの目からして、この村はさほど貧困に喘いでいるとは思えん。お前ら男は言わずもがな、女達も痩せこけてはいない上に、子供らも餓鬼のように腹が出ているわけではない。この村には乳を得る家畜があり、米もある。裏手の山は食材が豊富で野草やキノコから栄養を取ることもできる。土地は広く、高低差もあり、雨も降る。味噌も作れるし、醤油だって作れるだろう。好条件じゃないか」
味噌、醤油、という聞き慣れない単語に、村人達は内心首を傾げるも、シンの発する提案には目から鱗といった様子だった。
罰を受けるしかないと諦めていたレイヴンにも、それは同様だった。現状を打破する考えがあるとは、思いもしなかったからだ。
これで村が良い方向へと傾くならば、自分の持ちうるすべての力を村の為に費やそうと思った。
(だからといって……僕の罪がなくなるわけじゃないけれど……)
その一瞬の考えが、レイヴンの顔に影を落とした。それにはシンも気づいたものの、彼は続けて村人へと語り、尋ねた。
「栄枯盛衰は世の常だ。お前達がすべきことはレイヴンを嬲ることではない。現状に納得がいかないのであれば、互いに知恵を振り絞り、解決策を模索し、仲間と共存する為に行動することだ。その上でもう一度聞こうか? なぜ、レイヴンを嬲る必要がある?」
今度は全員の口が開放された。唸るしかなかった口が急に開き、しばし呆然と皆が口元へと手を当てる。
そして互いに顔を見合わせ、シンの問いかけについて意見を交わそうとした。
その時。
「そんな、もの……!」
シンの背後から一人の男が、獣のような声を張り上げた。
シンが一言そう言うと、頭上に不思議な光が照らされた。暖かみのないそれがぼんやりと周囲を明るくする。そんな不思議な事態を不審に思ってか、離れた民家からぞろぞろと、男の妻達が姿を現した。
「これは、いったい……」
「平伏せ」
「きゃあっ!!」
事の次第も知らない女達が、全員その場で倒れた。男達同様、シンの前で頭を伏せ、両手を前に揃えさせられた。自分の妻かもしれない女の悲鳴に、男達が口々に妻の名を呼び叫ぶも、全員が見えない何かによって唇を塞がれる。
くぐもる声の中、シンは滔々に語り出した。
「換気しても酷い臭いだ。小屋全体じゃなく、村全体が腐ってやがる。レイヴンが住むあの小屋を中心とした周りは天国並みに居心地が良かっただけに……最悪だ。反吐が出そうなほどの瘴気に満ちている。虫けら……いや、肥溜め以下だな」
誰かが一際大きな唸り声を上げた。肥溜め以下と耳にして逆上したのだろう。しかしシンは語るのを止めない。
「瘴気についてはこの際置いておくとして、だ。だいたいお前ら、変だと思わないのか? そのレイヴンの罪とやらは、いったいいつの話だ? お前らが体験したのか? 実際に害を被ったのか? 家族を失ったのか? 何かを奪われたのか? 違うだろう。最初からこの状況だったんだろうが。実害を受けてないお前達になぜ、他者を責める権利がある。近隣の村から迫害されている? 馬鹿を言うな。お前らが拒んでいるだけだろうが。なぜこちらから動かない? 過去の栄光とやらに縋りつき、ふんぞり返る頭を地につけられないのか」
語気は強いがその眼差しは真剣だった。低くも玲瓏な声は、説くように語りを続ける。
「この村で唯一客観視ができるオレの目からして、この村はさほど貧困に喘いでいるとは思えん。お前ら男は言わずもがな、女達も痩せこけてはいない上に、子供らも餓鬼のように腹が出ているわけではない。この村には乳を得る家畜があり、米もある。裏手の山は食材が豊富で野草やキノコから栄養を取ることもできる。土地は広く、高低差もあり、雨も降る。味噌も作れるし、醤油だって作れるだろう。好条件じゃないか」
味噌、醤油、という聞き慣れない単語に、村人達は内心首を傾げるも、シンの発する提案には目から鱗といった様子だった。
罰を受けるしかないと諦めていたレイヴンにも、それは同様だった。現状を打破する考えがあるとは、思いもしなかったからだ。
これで村が良い方向へと傾くならば、自分の持ちうるすべての力を村の為に費やそうと思った。
(だからといって……僕の罪がなくなるわけじゃないけれど……)
その一瞬の考えが、レイヴンの顔に影を落とした。それにはシンも気づいたものの、彼は続けて村人へと語り、尋ねた。
「栄枯盛衰は世の常だ。お前達がすべきことはレイヴンを嬲ることではない。現状に納得がいかないのであれば、互いに知恵を振り絞り、解決策を模索し、仲間と共存する為に行動することだ。その上でもう一度聞こうか? なぜ、レイヴンを嬲る必要がある?」
今度は全員の口が開放された。唸るしかなかった口が急に開き、しばし呆然と皆が口元へと手を当てる。
そして互いに顔を見合わせ、シンの問いかけについて意見を交わそうとした。
その時。
「そんな、もの……!」
シンの背後から一人の男が、獣のような声を張り上げた。
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