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第一章
んじゃ、お望み通りにしてやるよ 5(過激・残酷な表現注意)
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出刃包丁を握る男は、一瞬呆気に取られたものの、その蟀谷にはたちまち筋が浮き上がり、血走る眼で怒号した。
「余所者の野郎に誑かされやがって……もういい。てめえは今夜、処刑する!」
「えっ……で、でも、それはルールが……ひいいっ!」
「こいつを殺してもどうせまた生まれるんだろ、新しい聖女が! だったら次の聖女を徹底的に躾けんだよ! 歯向かうっていうことすら考えつかねえような……従順なイヌによぉ!」
男は異議を唱えようとした仲間に対しても、手にする出刃包丁を振りかざし、唾を飛ばした。誰にも手がつけられない。皆、男からじりじりと後退りながらも、彼を宥めようと口を開いた。
「で、でもよ……こいつを殺したら……今後、困らねえか……? せっかくのいい玩具だったのに……」
「そ、そうだよなぁ……村の女は、ほら……面やあっちの具合がその……アレだし……」
「その点、レイヴンは孕まない上に、面もいいから……な? 今ここで手放すのは……」
「うるせえ! 殺すっつったら殺すんだよ!」
男達の説得にも聞く耳持たないのか、一際大きな声を張り上げた男はレイヴン目掛けて出刃包丁を振り上げた。
ブン! と、風を切るように振り下ろされる男の腕。しかし振り下ろされたものは出刃包丁ではなく、真っ赤な血飛沫だった。
「え……?」
その場にいた全員が同じ顔をしていたに違いない。皆、何が起きたのかがわからず、きょとんと目を丸くさせた。それまで出刃包丁を握っていた男も、いったい何が起きたのかと自身の手元を見つめた。そこにはあるはずのものがなかった。出刃包丁ではない。たった今まで己の一部であったはずの五本の指ごと、忽然と消えていたのだ。
「うぎゃあああ!?」
剥き出しになった骨と肉の間から噴出される血液が、辺りを真っ赤に濡らしていった。目の前で腕を振り下ろされたレイヴンの顔には、男達によって散々かけられた白濁の体液のみならず、この男の鮮血までもが振りかけられたのだ。
絶句するレイヴンと、叫換する男達。
突然の惨状に辺りが慄然とする中、出刃包丁を握る手を"握る"男がただ一人、静かに怒りを顕にしていた。
「猿の分際で処刑だの殺すだの宣ってんじゃねえよ。何様のつもりだ」
そして男はツカツカとレイヴンの下まで歩み寄ると、目の前で片膝を地につけた。続けて自身が羽織るマントをその身から剥がすと、一糸纏わないレイヴンの身体にそっとかけた。
「まったく……わざわざオレが見せた芸当に縋ることなく、こうなる運命を受け入れたお前には頭が下がるよ。全然呼んでくれないんだもんなぁ」
「し……シン、さん……」
そう言って苦笑する男の名を呼び、レイヴンはポロポロと真珠のような涙を零した。
シンはあからさまにふう、と嘆息すると、
「言いたいことも、叱りたいことも山ほどあるが、説教はオレの分野じゃない。お喋りは好きだが、今はどうにも余計なことを言いそうで駄目だ。だからな、オレがお前に告げる言葉はただ一つだ」
そしてシンは、その大きな手をレイヴンの頭にポンと乗せた。
「頑張ったな」
「…………っ…………ぅ……うん……!」
それは長きに渡り罰を受け続けてきたレイヴンの中で、すべてが報われる言葉だった。
「余所者の野郎に誑かされやがって……もういい。てめえは今夜、処刑する!」
「えっ……で、でも、それはルールが……ひいいっ!」
「こいつを殺してもどうせまた生まれるんだろ、新しい聖女が! だったら次の聖女を徹底的に躾けんだよ! 歯向かうっていうことすら考えつかねえような……従順なイヌによぉ!」
男は異議を唱えようとした仲間に対しても、手にする出刃包丁を振りかざし、唾を飛ばした。誰にも手がつけられない。皆、男からじりじりと後退りながらも、彼を宥めようと口を開いた。
「で、でもよ……こいつを殺したら……今後、困らねえか……? せっかくのいい玩具だったのに……」
「そ、そうだよなぁ……村の女は、ほら……面やあっちの具合がその……アレだし……」
「その点、レイヴンは孕まない上に、面もいいから……な? 今ここで手放すのは……」
「うるせえ! 殺すっつったら殺すんだよ!」
男達の説得にも聞く耳持たないのか、一際大きな声を張り上げた男はレイヴン目掛けて出刃包丁を振り上げた。
ブン! と、風を切るように振り下ろされる男の腕。しかし振り下ろされたものは出刃包丁ではなく、真っ赤な血飛沫だった。
「え……?」
その場にいた全員が同じ顔をしていたに違いない。皆、何が起きたのかがわからず、きょとんと目を丸くさせた。それまで出刃包丁を握っていた男も、いったい何が起きたのかと自身の手元を見つめた。そこにはあるはずのものがなかった。出刃包丁ではない。たった今まで己の一部であったはずの五本の指ごと、忽然と消えていたのだ。
「うぎゃあああ!?」
剥き出しになった骨と肉の間から噴出される血液が、辺りを真っ赤に濡らしていった。目の前で腕を振り下ろされたレイヴンの顔には、男達によって散々かけられた白濁の体液のみならず、この男の鮮血までもが振りかけられたのだ。
絶句するレイヴンと、叫換する男達。
突然の惨状に辺りが慄然とする中、出刃包丁を握る手を"握る"男がただ一人、静かに怒りを顕にしていた。
「猿の分際で処刑だの殺すだの宣ってんじゃねえよ。何様のつもりだ」
そして男はツカツカとレイヴンの下まで歩み寄ると、目の前で片膝を地につけた。続けて自身が羽織るマントをその身から剥がすと、一糸纏わないレイヴンの身体にそっとかけた。
「まったく……わざわざオレが見せた芸当に縋ることなく、こうなる運命を受け入れたお前には頭が下がるよ。全然呼んでくれないんだもんなぁ」
「し……シン、さん……」
そう言って苦笑する男の名を呼び、レイヴンはポロポロと真珠のような涙を零した。
シンはあからさまにふう、と嘆息すると、
「言いたいことも、叱りたいことも山ほどあるが、説教はオレの分野じゃない。お喋りは好きだが、今はどうにも余計なことを言いそうで駄目だ。だからな、オレがお前に告げる言葉はただ一つだ」
そしてシンは、その大きな手をレイヴンの頭にポンと乗せた。
「頑張ったな」
「…………っ…………ぅ……うん……!」
それは長きに渡り罰を受け続けてきたレイヴンの中で、すべてが報われる言葉だった。
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