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第一章

蜂蜜よりも甘いもの… 13

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 それからシンが戻ってきたのは、レイヴンが気も漫ろに小屋の中の血溜まりをすべて取り除いた後のことだった。シンは「ただいまー」と、散歩にでも出ていたかのようなのんびりとした口調で挨拶をしたかと思うと、マントを取り外しながらシーツを変えたばかりのベッドの上に、仰向けになって寝そべった。

「あ~……疲れたぁ。あの野郎、無駄に重いんだよ」

「ほ、本当に、村まで……?」

「ああ。バレないように山林付近に置いてきた。でかい男だし、外にいても死ぬことはないだろう。大事なアソコは情けで隠しといた」

 シンの顔を見るなり、驚きと安堵が入り混じった表情を浮かべたレイヴンだったが、すぐに眉間に皺を寄せてシンの傍に駆け寄った。

 寝そべりながらも、シンが服の前を開いて止血の代わりにしていた手拭いを取った為だ。そこにはベタリと、赤黒い血が大輪のように丸を描いて広がっていた。

「血が、こんなに……!」

「少し裂けただけで、内臓はほとんど傷ついてないぞ?」

「でも……」

 怪我自体はレイヴンの預かり知らぬところとはいえ、治りかけていたものを壊してしまった起因は自身にあった。自分のせいで人を傷つけてしまったことに対する罪悪感が、レイヴンを苛んだ。

 シンは伏せるレイヴンの顔を見つめていたが、おもむろに彼の頬に手を添え、自身の視線と合うように固定した。

「オレが勝手にやったことだ。お前が責任を感じるな」

 二つの翡翠が、力強くも真っ直ぐにレイヴンへ断言する。

 鳩が豆鉄砲を食ったようだった。レイヴンにとって、罪は押し付けられるもので、責任は背負うものだった。シンをこんな目に遭わせたのも、当然自分の責任だと思っていた。

 だが、シンはレイヴンを責めなかった。それ以上、責任の所在を問うこともしない。マキトへ放っていた怒りはとっくにシンからは消えており、ただ疲弊した様子を見せてぐったりと寝そべるだけだ。

(この人を助けて……本当に、良かった……)

 この時、何かがレイヴンを突き動かした。

 レイヴンはシンの両頬を、その小さな手で包んだかと思うと、実にゆっくりとした動作でそれを行った。

「…………ん、はぁ……ん……んぅ……」

 レイヴンの薄い唇は、シンの形良いそれにしっとりと重ねられた。そのまま、レイヴンは自身の舌をそろりと出したかと思うと、シンの唇の隙間に挿し込み、奥にある彼のそれと触れ合った。

 児戯のようにぎこちなくも、シンの上で行われるそれは、彼が自分に行うものとは比べ物にならないほどの出来栄えだ。数え切れないほどの転生を繰り返したレイヴンだが、性技……とりわけ、キスに特化した舌技は備わっていない。およそこんな感じだろうかと手探りで行っているのだから、仕方ないといえばそれまでだが、レイヴンは懸命に唇と舌を動かした。
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