46 / 68
第一章
蜂蜜よりも甘いもの… 13
しおりを挟む
それからシンが戻ってきたのは、レイヴンが気も漫ろに小屋の中の血溜まりをすべて取り除いた後のことだった。シンは「ただいまー」と、散歩にでも出ていたかのようなのんびりとした口調で挨拶をしたかと思うと、マントを取り外しながらシーツを変えたばかりのベッドの上に、仰向けになって寝そべった。
「あ~……疲れたぁ。あの野郎、無駄に重いんだよ」
「ほ、本当に、村まで……?」
「ああ。バレないように山林付近に置いてきた。でかい男だし、外にいても死ぬことはないだろう。大事なアソコは情けで隠しといた」
シンの顔を見るなり、驚きと安堵が入り混じった表情を浮かべたレイヴンだったが、すぐに眉間に皺を寄せてシンの傍に駆け寄った。
寝そべりながらも、シンが服の前を開いて止血の代わりにしていた手拭いを取った為だ。そこにはベタリと、赤黒い血が大輪のように丸を描いて広がっていた。
「血が、こんなに……!」
「少し裂けただけで、内臓はほとんど傷ついてないぞ?」
「でも……」
怪我自体はレイヴンの預かり知らぬところとはいえ、治りかけていたものを壊してしまった起因は自身にあった。自分のせいで人を傷つけてしまったことに対する罪悪感が、レイヴンを苛んだ。
シンは伏せるレイヴンの顔を見つめていたが、おもむろに彼の頬に手を添え、自身の視線と合うように固定した。
「オレが勝手にやったことだ。お前が責任を感じるな」
二つの翡翠が、力強くも真っ直ぐにレイヴンへ断言する。
鳩が豆鉄砲を食ったようだった。レイヴンにとって、罪は押し付けられるもので、責任は背負うものだった。シンをこんな目に遭わせたのも、当然自分の責任だと思っていた。
だが、シンはレイヴンを責めなかった。それ以上、責任の所在を問うこともしない。マキトへ放っていた怒りはとっくにシンからは消えており、ただ疲弊した様子を見せてぐったりと寝そべるだけだ。
(この人を助けて……本当に、良かった……)
この時、何かがレイヴンを突き動かした。
レイヴンはシンの両頬を、その小さな手で包んだかと思うと、実にゆっくりとした動作でそれを行った。
「…………ん、はぁ……ん……んぅ……」
レイヴンの薄い唇は、シンの形良いそれにしっとりと重ねられた。そのまま、レイヴンは自身の舌をそろりと出したかと思うと、シンの唇の隙間に挿し込み、奥にある彼のそれと触れ合った。
児戯のようにぎこちなくも、シンの上で行われるそれは、彼が自分に行うものとは比べ物にならないほどの出来栄えだ。数え切れないほどの転生を繰り返したレイヴンだが、性技……とりわけ、キスに特化した舌技は備わっていない。およそこんな感じだろうかと手探りで行っているのだから、仕方ないといえばそれまでだが、レイヴンは懸命に唇と舌を動かした。
「あ~……疲れたぁ。あの野郎、無駄に重いんだよ」
「ほ、本当に、村まで……?」
「ああ。バレないように山林付近に置いてきた。でかい男だし、外にいても死ぬことはないだろう。大事なアソコは情けで隠しといた」
シンの顔を見るなり、驚きと安堵が入り混じった表情を浮かべたレイヴンだったが、すぐに眉間に皺を寄せてシンの傍に駆け寄った。
寝そべりながらも、シンが服の前を開いて止血の代わりにしていた手拭いを取った為だ。そこにはベタリと、赤黒い血が大輪のように丸を描いて広がっていた。
「血が、こんなに……!」
「少し裂けただけで、内臓はほとんど傷ついてないぞ?」
「でも……」
怪我自体はレイヴンの預かり知らぬところとはいえ、治りかけていたものを壊してしまった起因は自身にあった。自分のせいで人を傷つけてしまったことに対する罪悪感が、レイヴンを苛んだ。
シンは伏せるレイヴンの顔を見つめていたが、おもむろに彼の頬に手を添え、自身の視線と合うように固定した。
「オレが勝手にやったことだ。お前が責任を感じるな」
二つの翡翠が、力強くも真っ直ぐにレイヴンへ断言する。
鳩が豆鉄砲を食ったようだった。レイヴンにとって、罪は押し付けられるもので、責任は背負うものだった。シンをこんな目に遭わせたのも、当然自分の責任だと思っていた。
だが、シンはレイヴンを責めなかった。それ以上、責任の所在を問うこともしない。マキトへ放っていた怒りはとっくにシンからは消えており、ただ疲弊した様子を見せてぐったりと寝そべるだけだ。
(この人を助けて……本当に、良かった……)
この時、何かがレイヴンを突き動かした。
レイヴンはシンの両頬を、その小さな手で包んだかと思うと、実にゆっくりとした動作でそれを行った。
「…………ん、はぁ……ん……んぅ……」
レイヴンの薄い唇は、シンの形良いそれにしっとりと重ねられた。そのまま、レイヴンは自身の舌をそろりと出したかと思うと、シンの唇の隙間に挿し込み、奥にある彼のそれと触れ合った。
児戯のようにぎこちなくも、シンの上で行われるそれは、彼が自分に行うものとは比べ物にならないほどの出来栄えだ。数え切れないほどの転生を繰り返したレイヴンだが、性技……とりわけ、キスに特化した舌技は備わっていない。およそこんな感じだろうかと手探りで行っているのだから、仕方ないといえばそれまでだが、レイヴンは懸命に唇と舌を動かした。
0
お気に入りに追加
186
あなたにおすすめの小説
回顧
papiko
BL
若き天才∶宰相閣下 (第一王子の親友)
×
監禁されていた第一王子 (自己犠牲という名のスキル持ち)
その日は、唐突に訪れた。王国ルーチェントローズの王子三人が実の父親である国王に対して謀反を起こしたのだ。
国王を探して、開かずの間の北の最奥の部屋にいたのは――――――――
そこから思い出される記憶たち。
※完結済み
※番外編でR18予定
【登場人物】
宰相 ∶ハルトノエル
元第一王子∶イノフィエミス
第一王子 ∶リノスフェル
第二王子 ∶アリスロメオ
第三王子 ∶ロルフヘイズ
セーリオ様の祝福:カムヴィ様の言う通り
あこ
BL
人が思う以上に不器用で、真面目だと言われるけれど融通が効かないだけ。自分をそう評する第一王子マチアス。
外見に似合わず泣き虫で怖がりなのは、マチアスの婚約者カナメ。
マチアスが王太子にならないと決まったからこそ結ばれた婚約だったのだが、ある日事態は急転する。
✔︎ 美形第一王子×美人幼馴染
✔︎ 真面目で自分にも他人にも厳しい王子様(を目指して書いてます)
✔︎ 外見に似合わない泣き虫怖がり、中身は平凡な受け
✔︎ 美丈夫が服着て歩けばこんな人の第一王子様は、婚約者を(仮にそう見えなくても)大変愛しています。
✔︎ 美人でちょっと無口なクールビューティ(に擬態している)婚約者は、心許す人の前では怖がりの虫と泣き虫が爆発する時があります。
🔺ATTENTION🔺
この話は『セーリオ様の祝福』では王太子にならない第一王子マチアスが『王太子になったらどうなるのか』という「もしも」の世界のお話です。
キャラクターの設定などは全て『セーリオ様の祝福』そのままで変わりありませんが、『セーリオ様の祝福』に比べればシリアスなお話です。
【 一部番外編の掲載先について 】
『セーリオ様の祝福』と『セーリオ様の祝福:カムヴィ様の言う通り』共通の番外編は『セーリオ様の祝福』コンテンツ内にあります。
【 感想欄のネタバレフィルターについて 】
『1話〜3話目』までの感想は基本的に設定は致しません。
それ以降の話に関する感想につきましては、どのようなコメントであってもネタバレフィルターをかけさせていただく予定です。
ただ物語に触れない形の感想(誤字のご連絡など)についてはこの限りではありません。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て運命の相手を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
────────────
※感想、いいね大歓迎です!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる