「んじゃ、お望み通りにしてやるよ」〜俺様最強チートが不憫な転生美青年をとにかく溺愛するお話(モブありver)

天白

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第一章

蜂蜜よりも甘いもの… 3

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「立てるか?」

「は、はい……」

 レイヴンは差し出された手を掴むと、そのまま身体を引き起こされた。その時、絵の具のように付いてしまった赤い血が、シンの手を汚した。

「ご、ごめんなさいっ」

 慌ててその手を離そうとすると、シンは何を思ったのか、レイヴンの手を口元へと引き寄せ、傷口に触れるだけのキスを落とした。

「ひゃうっ」

 ビクン! と身体を震わせるレイヴンに、シンは互いの眉を寄せた。

「痛かったな」

「……っ」

 それはレイヴンを心配した言葉だろうが、当のレイヴンからは何も言葉が出なかった。

 レイヴンはシンに見惚れていた。手から離れた形良い唇が、まるで紅を塗ったように美しく見えたのだ。

「レイヴン?」

「…………だ、大丈夫、です」

 シンに見つめられ、反射的に視線を逸した。レイヴンの鼓動がドクドクと鳴る。驚きと恐怖で激しかった鼓動が、治まるどころかさらに早くなった気がした。

「しかし、最近の子供は恐いねぇ。寄ってたかって一人を甚振るのか。それもこんな石ころで」

 コロン、と近くに転がっている石をシンが蹴った。あのタイミングで熊と共に現れたのだ。レイヴンが受けていた仕打ちを目にしていないはずがなかった。

 手を握られたまま、レイヴンは答えた。

「僕がいなければ……彼らもあんなことは、しないと思います」

「へえ」

 シンは空いている方の手を頤に当てながら、レイヴンに尋ねる。

「子供らに対して何かしたのか?」

 その問いに、レイヴンは言い淀んだ。石を投げつけてきた子供達に対して、特別何かをしたことはない。ろくに関わることなく過ごしてきたのだから、まともに相対したことすらなかった。

 言葉をよく選んでから、レイヴンはシンに答えた。

「あの子達に、というわけではないですけど……でも、村の人には、随分と前に……め、迷惑をかけてしまったので……だから……その……」

「恨まれて当然って? 何もしていないのに?」

 何もしていない。それは今の自分に、刺さるような言葉だった。

 シンの言う通り、レイヴンは何もしていない。生まれた時から罪人としての烙印を押され、恨まれながら、憎まれながら、生きてきた。いくら前世の記憶があれど、今を生きている自分は、彼らに何もしていない。

(でも……罪を犯したことは、本当だから……)

 レイヴンは考えるのを止めた。それ以上を掘り起こしてしまうと、良くない考えに至りそうだったからだ。

 首を振りながら、シンに答えた。

「彼らは子供ですから……周りが僕を悪いと言えば、悪いと思うだろうし……恨んでも、仕方がないと思うんです」

「……解せないな」

 ボソリと呟くシンの声音は、普段よりも低かった。その表情も、今まで見せたことのない険しいものだ。

「子供だから仕方がないというのは、他の子供に対して失礼な台詞だとは思うが……まあ、それはこの際置いておくとして、だ。レイヴン」

「は、はい」

「子供をはじめ嫌われ者のお前がいなくなれば、村の連中の気は済むと思うか?」

 二つの翡翠が、レイヴンを捉えた。

 その問いかけに逡巡した後、レイヴンはポツリと呟くように答えた。

「わかりません………………でも」

 確かなことは、一つだった。

「僕がここからいなくなることは、きっとないです」

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