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第一章
少しだけ、穏やかな日々 5
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その後も、一つの椀に盛り付けられた一人分の料理を、シンとレイヴンは交互に食べた。
咀嚼の合間に、他愛もない雑談が交わされる。
「キノコは干すと味が変わるのか。出汁がよく出ている」
「そう、ですね……。あ、キノコの出汁と溶いた卵を合わせて蒸すと、つるんとした食感になりますよ」
「それも美味そうだな。今度作ってくれ」
「はい。そういえば……シンさんの住むところでは、どんなお料理を中心に食べられるんですか?」
「それは質問? キス三回だぞ?」
「あ……ご、ごめんなさい」
いちいち茶化すことを忘れないシンに、時折頭を下げるレイヴン。
クックッ、と短く笑いつつ、シンはレイヴンへと答える。
「そうだな……。つい最近だとソーセージ……腸詰めというものと酒を飲んだよ。葡萄を使った酒でこれがなかなか美味かった」
「お酒……」
「レイヴンは飲まない?」
「飲んだことがない、です」
「そうか。そもそもレイヴンはいくつなんだ?」
「えっと……二十二です」
レイヴンが歳を答えると、シンが椀の中で匙を落とした。
「な、何か?」
「いや、もうちょい若いかと……」
「う……」
どうやら、シンの中でのレイヴンは二十歳すら越えていなかったらしい。内心気にしていたのか、俯きつつも僅かに唇を尖らせるレイヴンに、シンはあやすように彼の髪を撫でた。
「そう見えるのも、レイヴンの髪色が濃くて長いからかな。いい黒だ」
「切ろうとは、思っているんですけれど……」
さらりと話題を変えられたことに気づきつつ、レイヴンは自身の髪を一房摘むと、尖らせた口元を和らげ苦笑を浮かべる。
「鏡もないので、自分で切ると不揃いになってしまって……でもせめて、シンさんくらいの長さにしたいですね」
そんなシンの髪は、項が隠れる程度の長さをしている。言われて気がついたのか、シンは「あー……」と何かを考えるようにしてから、レイヴンに提案する。
「切ってやろうか?」
「えっ!? い、いえ! そういう意味で言ったんじゃ……」
まさかの提案に、レイヴンは慌てて断りを入れた。対して言い出したシンも本気ではなかったのか、
「まあ、オレも不器用だから上手く切り揃えてやれるという保証はないけれど……こういうのはゴブリンが得意だからなぁ」
「ご、ぶ……りん?」
「はい。あーん」
「あむっ……!」
と、レイヴンの口の中に匙を入れた。
聞き慣れない単語が出て、レイヴンの頭には疑問符が浮かぶも、とにかくシンの手を煩わせることはなくなったと胸を撫で下ろした。
出汁を吸った米を咀嚼し、その美味しさにレイヴンはいちいち顔を綻ばせる。そんな彼の額に、シンは「チュッ」と音を立てて唇を落とした。
「んぐっ!」
驚いてゴクン! と、食べていたものを嚥下する。レイヴンは少しだけ咳き込むも、それまで疑問に思っていたあることをシンへと尋ねた。
「あの、シンさんは……男の人が好き……なんですか?」
「ん? 誰彼の好きを性別で決めたことはないぞ」
即答のそれに、レイヴンはさらなる疑問が湧いた。そしてその答えは意外にも、すぐに返ってきた。
「オレはただ、レイヴンを気に入っているだけ」
咀嚼の合間に、他愛もない雑談が交わされる。
「キノコは干すと味が変わるのか。出汁がよく出ている」
「そう、ですね……。あ、キノコの出汁と溶いた卵を合わせて蒸すと、つるんとした食感になりますよ」
「それも美味そうだな。今度作ってくれ」
「はい。そういえば……シンさんの住むところでは、どんなお料理を中心に食べられるんですか?」
「それは質問? キス三回だぞ?」
「あ……ご、ごめんなさい」
いちいち茶化すことを忘れないシンに、時折頭を下げるレイヴン。
クックッ、と短く笑いつつ、シンはレイヴンへと答える。
「そうだな……。つい最近だとソーセージ……腸詰めというものと酒を飲んだよ。葡萄を使った酒でこれがなかなか美味かった」
「お酒……」
「レイヴンは飲まない?」
「飲んだことがない、です」
「そうか。そもそもレイヴンはいくつなんだ?」
「えっと……二十二です」
レイヴンが歳を答えると、シンが椀の中で匙を落とした。
「な、何か?」
「いや、もうちょい若いかと……」
「う……」
どうやら、シンの中でのレイヴンは二十歳すら越えていなかったらしい。内心気にしていたのか、俯きつつも僅かに唇を尖らせるレイヴンに、シンはあやすように彼の髪を撫でた。
「そう見えるのも、レイヴンの髪色が濃くて長いからかな。いい黒だ」
「切ろうとは、思っているんですけれど……」
さらりと話題を変えられたことに気づきつつ、レイヴンは自身の髪を一房摘むと、尖らせた口元を和らげ苦笑を浮かべる。
「鏡もないので、自分で切ると不揃いになってしまって……でもせめて、シンさんくらいの長さにしたいですね」
そんなシンの髪は、項が隠れる程度の長さをしている。言われて気がついたのか、シンは「あー……」と何かを考えるようにしてから、レイヴンに提案する。
「切ってやろうか?」
「えっ!? い、いえ! そういう意味で言ったんじゃ……」
まさかの提案に、レイヴンは慌てて断りを入れた。対して言い出したシンも本気ではなかったのか、
「まあ、オレも不器用だから上手く切り揃えてやれるという保証はないけれど……こういうのはゴブリンが得意だからなぁ」
「ご、ぶ……りん?」
「はい。あーん」
「あむっ……!」
と、レイヴンの口の中に匙を入れた。
聞き慣れない単語が出て、レイヴンの頭には疑問符が浮かぶも、とにかくシンの手を煩わせることはなくなったと胸を撫で下ろした。
出汁を吸った米を咀嚼し、その美味しさにレイヴンはいちいち顔を綻ばせる。そんな彼の額に、シンは「チュッ」と音を立てて唇を落とした。
「んぐっ!」
驚いてゴクン! と、食べていたものを嚥下する。レイヴンは少しだけ咳き込むも、それまで疑問に思っていたあることをシンへと尋ねた。
「あの、シンさんは……男の人が好き……なんですか?」
「ん? 誰彼の好きを性別で決めたことはないぞ」
即答のそれに、レイヴンはさらなる疑問が湧いた。そしてその答えは意外にも、すぐに返ってきた。
「オレはただ、レイヴンを気に入っているだけ」
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