29 / 68
第一章
少しだけ、穏やかな日々 3
しおりを挟む
「レイヴン」
「……あっ」
名前を囁かれると、鼓膜が震え、身体が震えた。些細ですらない刺激にさえ反応してしまう自身の身体に、レイヴンの瞳にはうっすらと涙が滲んだ。
(なんで……身体が、熱い……)
くらりと目眩すら感じそうになる自分を叱咤するように、レイヴンは手にする匙を強く握った。
そして意を決したように、背後のシンへと訴える。
「あ、あの……今は……お鍋を扱って、いますから。や、火傷しちゃうといけないので……少しだけ、僕から……は、離れ……」
「うっ……!」
「? シンさん?」
最中、突如としてシンが身体を屈めながらうめき声を上げた。匙から手を離したレイヴンはすぐさま振り返り、シンの身体を支えた。
「だ、大丈夫? 傷口が開いたのかな……? すぐ横にな……んんっ!?」
だが、心配して言う台詞を奪うように、レイヴンの唇は塞がれてしまった。
原因は言わずもがな、目の前の男に、だ。
「んっ……んんぅ……ん、ぁ……」
レイヴンの柔らかな唇を自身のそれで食むように覆ったシンは、そのまま相手をよく味わうように歯列をなぞり、奥にある舌に絡めた。音を立てながら、わざと口蓋や舌の上を刺激しつつ、シンはレイヴンを堪能する。またどこにそんな力があるのか、逃さないよう、その手はレイヴンの頭と腰をしっかりと抱いている。
「はあっ……あ、ん……シ……んん……」
シンの胸に手を当てグッと押しのけようとするも、上手く力が入らない。単純に力で敵わないのではない。角度を変えながらも繰り返される彼からのキスが、いちいちレイヴンの性感帯を刺激し、快感を与えているのだ。
これまで、舌を絡めるほどのキスは転生分も含めて数がわからなくなるほど経験してきた。しかしそのどれもが独りよがりのもので、目の前のシンのように相手へ快楽を与えるようなものは、これが初めての経験だった。
(だめ……頭が……変に、なる……)
レイヴンの身体からはみるみる力がなくなり、抵抗の気はすっかり失せてしまった。
それを感じ取ったシンは彼を抱く腕の力を弱めつつも、まだ足りないとばかりにそれを続けた。隙間から漏れる吐息に甘みが帯び始めたことも、シンの行動を増長させる原因の一つだった。
「ん、ふ……ぁ……はぁっ……あ、ん……」
そこに苦しさが混じり出したところで、シンは名残惜しいとばかりにレイヴンの舌を歯で軽く食みながら、外へと引き出した。
「んんぅ……」
小さな舌をでろんと出したレイヴンの目尻からは、一粒の涙が溢れていた。
そのとろんと紅潮する顔を目にしたシンは、満足そうに自身の唇を一舐めする。
「やっぱ、これが一番効くわ」
普段とは裏腹に、その顔が艶めかしく映るシンは、レイヴンの頬に舌を這わせると、溢れた涙を掬い取る。
「んっ…………や、舐めないで…………」
いくらか遅れて、レイヴンが自身の顔を手で覆い隠すようにすると、シンに向けてつっかえながらも訴えた。
「……っ、き、き…………キス…………するなら……あ、後で、します……から…………だから、い、今は…………だめ、です……」
言い終えるなりきゅっと唇を紡ぐレイヴン。まだなお赤い顔は、傍から見れば男の情欲を唆らせるものだが、本人にその自覚はない。
「……あっ」
名前を囁かれると、鼓膜が震え、身体が震えた。些細ですらない刺激にさえ反応してしまう自身の身体に、レイヴンの瞳にはうっすらと涙が滲んだ。
(なんで……身体が、熱い……)
くらりと目眩すら感じそうになる自分を叱咤するように、レイヴンは手にする匙を強く握った。
そして意を決したように、背後のシンへと訴える。
「あ、あの……今は……お鍋を扱って、いますから。や、火傷しちゃうといけないので……少しだけ、僕から……は、離れ……」
「うっ……!」
「? シンさん?」
最中、突如としてシンが身体を屈めながらうめき声を上げた。匙から手を離したレイヴンはすぐさま振り返り、シンの身体を支えた。
「だ、大丈夫? 傷口が開いたのかな……? すぐ横にな……んんっ!?」
だが、心配して言う台詞を奪うように、レイヴンの唇は塞がれてしまった。
原因は言わずもがな、目の前の男に、だ。
「んっ……んんぅ……ん、ぁ……」
レイヴンの柔らかな唇を自身のそれで食むように覆ったシンは、そのまま相手をよく味わうように歯列をなぞり、奥にある舌に絡めた。音を立てながら、わざと口蓋や舌の上を刺激しつつ、シンはレイヴンを堪能する。またどこにそんな力があるのか、逃さないよう、その手はレイヴンの頭と腰をしっかりと抱いている。
「はあっ……あ、ん……シ……んん……」
シンの胸に手を当てグッと押しのけようとするも、上手く力が入らない。単純に力で敵わないのではない。角度を変えながらも繰り返される彼からのキスが、いちいちレイヴンの性感帯を刺激し、快感を与えているのだ。
これまで、舌を絡めるほどのキスは転生分も含めて数がわからなくなるほど経験してきた。しかしそのどれもが独りよがりのもので、目の前のシンのように相手へ快楽を与えるようなものは、これが初めての経験だった。
(だめ……頭が……変に、なる……)
レイヴンの身体からはみるみる力がなくなり、抵抗の気はすっかり失せてしまった。
それを感じ取ったシンは彼を抱く腕の力を弱めつつも、まだ足りないとばかりにそれを続けた。隙間から漏れる吐息に甘みが帯び始めたことも、シンの行動を増長させる原因の一つだった。
「ん、ふ……ぁ……はぁっ……あ、ん……」
そこに苦しさが混じり出したところで、シンは名残惜しいとばかりにレイヴンの舌を歯で軽く食みながら、外へと引き出した。
「んんぅ……」
小さな舌をでろんと出したレイヴンの目尻からは、一粒の涙が溢れていた。
そのとろんと紅潮する顔を目にしたシンは、満足そうに自身の唇を一舐めする。
「やっぱ、これが一番効くわ」
普段とは裏腹に、その顔が艶めかしく映るシンは、レイヴンの頬に舌を這わせると、溢れた涙を掬い取る。
「んっ…………や、舐めないで…………」
いくらか遅れて、レイヴンが自身の顔を手で覆い隠すようにすると、シンに向けてつっかえながらも訴えた。
「……っ、き、き…………キス…………するなら……あ、後で、します……から…………だから、い、今は…………だめ、です……」
言い終えるなりきゅっと唇を紡ぐレイヴン。まだなお赤い顔は、傍から見れば男の情欲を唆らせるものだが、本人にその自覚はない。
1
お気に入りに追加
187
あなたにおすすめの小説

【完結】試練の塔最上階で待ち構えるの飽きたので下階に降りたら騎士見習いに惚れちゃいました
むらびっと
BL
塔のラスボスであるイミルは毎日自堕落な生活を送ることに飽き飽きしていた。暇つぶしに下階に降りてみるとそこには騎士見習いがいた。騎士見習いのナーシンに取り入るために奮闘するバトルコメディ。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!
他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について
はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる