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第一章
聖なる力の秘密 3
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(優しい人だとは思うんだけど……)
シンの言葉かけや表情から感じ取れたものを信じたい気持ちはある。それでも、怪我が治ったら村から出ていってもらおうと、レイヴンは再び指を裂いてシンの口の中へとその血を流し込んだ。
その後もレイヴンは、せっせとシンの身体から体温を奪うものを取り去った。変わった形の長い靴は知らない硬質な材料で作られており、どうやったら脱がせられるかと小一時間考えた。それでも何とか脱がして小屋の扉前に置くと、激しい雨音が屋根の上を叩き始めた。
まさかと思い扉を開けると、シンの言った通り、空から雨が降ったのだ。
「予言者……なのかな?」
静かな寝息を立てるシンへと振り返り、ポツリと呟いた。どちらにせよ、これでは今夜は村には行けない。
悪天候の時まで村人はレイヴンを犯すことはしない。それよりも、自分達の住む家屋や畑、そして漁に出る為の舟の方が大事だからだ。
自然の恵みを目の当たりにしながら、レイヴンは心の中で目にしたことのない神に感謝した。
そうして、シンの傍で付きっきりの看病をしているうちに、いつの間にか入眠していたのだ。
しかしまさか、自分よりも先にシンが起きているとは思わなかった。
(村の人達よりも回復が早い気がする……鍛えているから?)
視線を落としたまま、レイヴンがシンの回復状況について考えていると、ふと目元にかかる前髪を横に流された。
驚いたレイヴンはパッと顔を上げて後ろに仰け反った。
「な、なにっ?」
「顔が見たかったから」
シンは当然とばかりに言った。そしてやはり、その顔は笑みを浮かべている。
よく笑う人。シンの第一印象はレイヴンの中で変わりつつあった。
「あ……温かいもの、何か……作ってきます」
レイヴンはそそくさとその場を離れた。
なぜ、自分の顔など見たがるのか。その理由がわからないことや、そもそも笑みを向けられることに対して、自分はどう対応すればいいのかがわからなかった。
(あんまり近くにいるのは、良くない気がする……)
ちょうど干しているシンのマントで、彼がいるベッドと台所として使う作業台が仕切られているのをいいことに、レイヴンは束の間の安息を得た。
自分一人ならば米を炊き、山で取れた野草やきのこ、そして塩漬けにされた魚を使ったスープを作って済ませただろう。しかし今はシンがいる。それも腹部への大怪我だ。彼の身体を労るならば、固形物は入れない方がいいだろうと、山羊の乳を壺から取り出した。
動物の乳には栄養がある。貴重なそれを鍋に入れると、壁面に作られた暖炉に入れて温めた。幸い、乳を水で薄められてはいなかったようだ。レイヴンは温めたそれが好物だった。
ふつふつと小さな泡が立ったところで鍋を戻し、土を焼いて作った二つのカップに注ぎ入れる。これだけでも充分に栄養があるが、レイヴンは悩みながらも吊り棚から小さな壺を取り出し、中に入った粘り気のある金色の液体を匙一つ分ずつ、それぞれのカップに混ぜ入れた。
チラリとシンがいるベッドへ振り向くも、マントで彼の様子は窺えない。反対に、こちらの手元も見えていないだろうと、レイヴンは自身の指と指の間を小刀で浅く切り裂いた。そして二つある内の一方に自身の血を三滴ほど垂らした。
最後にもう一度、カップの中を匙で混ぜ、それらを持ってシンの下へと戻った。
シンの言葉かけや表情から感じ取れたものを信じたい気持ちはある。それでも、怪我が治ったら村から出ていってもらおうと、レイヴンは再び指を裂いてシンの口の中へとその血を流し込んだ。
その後もレイヴンは、せっせとシンの身体から体温を奪うものを取り去った。変わった形の長い靴は知らない硬質な材料で作られており、どうやったら脱がせられるかと小一時間考えた。それでも何とか脱がして小屋の扉前に置くと、激しい雨音が屋根の上を叩き始めた。
まさかと思い扉を開けると、シンの言った通り、空から雨が降ったのだ。
「予言者……なのかな?」
静かな寝息を立てるシンへと振り返り、ポツリと呟いた。どちらにせよ、これでは今夜は村には行けない。
悪天候の時まで村人はレイヴンを犯すことはしない。それよりも、自分達の住む家屋や畑、そして漁に出る為の舟の方が大事だからだ。
自然の恵みを目の当たりにしながら、レイヴンは心の中で目にしたことのない神に感謝した。
そうして、シンの傍で付きっきりの看病をしているうちに、いつの間にか入眠していたのだ。
しかしまさか、自分よりも先にシンが起きているとは思わなかった。
(村の人達よりも回復が早い気がする……鍛えているから?)
視線を落としたまま、レイヴンがシンの回復状況について考えていると、ふと目元にかかる前髪を横に流された。
驚いたレイヴンはパッと顔を上げて後ろに仰け反った。
「な、なにっ?」
「顔が見たかったから」
シンは当然とばかりに言った。そしてやはり、その顔は笑みを浮かべている。
よく笑う人。シンの第一印象はレイヴンの中で変わりつつあった。
「あ……温かいもの、何か……作ってきます」
レイヴンはそそくさとその場を離れた。
なぜ、自分の顔など見たがるのか。その理由がわからないことや、そもそも笑みを向けられることに対して、自分はどう対応すればいいのかがわからなかった。
(あんまり近くにいるのは、良くない気がする……)
ちょうど干しているシンのマントで、彼がいるベッドと台所として使う作業台が仕切られているのをいいことに、レイヴンは束の間の安息を得た。
自分一人ならば米を炊き、山で取れた野草やきのこ、そして塩漬けにされた魚を使ったスープを作って済ませただろう。しかし今はシンがいる。それも腹部への大怪我だ。彼の身体を労るならば、固形物は入れない方がいいだろうと、山羊の乳を壺から取り出した。
動物の乳には栄養がある。貴重なそれを鍋に入れると、壁面に作られた暖炉に入れて温めた。幸い、乳を水で薄められてはいなかったようだ。レイヴンは温めたそれが好物だった。
ふつふつと小さな泡が立ったところで鍋を戻し、土を焼いて作った二つのカップに注ぎ入れる。これだけでも充分に栄養があるが、レイヴンは悩みながらも吊り棚から小さな壺を取り出し、中に入った粘り気のある金色の液体を匙一つ分ずつ、それぞれのカップに混ぜ入れた。
チラリとシンがいるベッドへ振り向くも、マントで彼の様子は窺えない。反対に、こちらの手元も見えていないだろうと、レイヴンは自身の指と指の間を小刀で浅く切り裂いた。そして二つある内の一方に自身の血を三滴ほど垂らした。
最後にもう一度、カップの中を匙で混ぜ、それらを持ってシンの下へと戻った。
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