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第一章
聖なる力の秘密 2
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ーーーー…
風の冷たさに目が覚めると、二つの翡翠がこちらを見つめていることに気がついた。
レイヴンは三回ほど瞬きをした後、それが昨日助けた男の顔、シンだとわかった。
「おはよう。レイヴン」
挨拶とともに名を呼ばれて、レイヴンの鼓動が少しだけ跳ねた。
(挨拶なんて……何年ぶりだろう?)
父が死んでからというもの、父母の眠る墓前に向かって挨拶を口にすることはあっても、返ってくることはなかった。それが家族でもない赤の他人の方からかけられることに、レイヴンは懐かしさを覚えた。
「……お、おはよう、ございます……」
視線を落とし、たどたどしく挨拶を返すレイヴンの頬には、ほんのりと朱が乗っていた。
(よかった。助けられた……)
シンの様子にレイヴンは内心安堵した。小屋に連れてきたものの、中に入るなりシンは再び気を失ってしまった。無理もない。いくらレイヴンが治癒能力を使ったとはいえ、それは充分ではなかった。
自分よりも遥かに重さのあるシンをベッドへ移すのは骨が折れた。レイヴンの細腕に少しでも筋肉が備わっていれば、その後の行動も手際よく行えたかもしれない。
へとへとになりつつも、小さな暖炉に火をつけ、部屋の中を暖めながらシンの衣服を脱がした。濡れたそれらは部屋の中で干すことにした。外はまだ晴れていたものの、シンの予言のような言葉が気になったからだ。
続いて怪我の状態を確認するべく、乾いた布で彼の身体を拭く中、刺された傷以外にもあちこちに切り傷のようなものがあることがわかった。しかしどれも古いもので、昨日今日できたものではない。いくらレイヴンの力が治癒に特化しているとはいえ、形となってしまった傷痕を消すことまではできない。また、並大抵の努力では得られないであろう筋骨逞しい身体から、彼が戦いの為に生きてきたのではないかと推測する。
(刺されるような怪我なんて、争い事でしか経験しないよね。でもこの人のはたぶん、村単位で起こるようなものじゃない気がする)
幾度も転生を繰り返すレイヴンだが、閉鎖的な村に縛られているがゆえ、社会情勢には疎い。
シンはいったい何者なのか。そしてなぜ、こんな怪我を負う目羽目になったのか。小屋へ向かう中、うわ言のように漏れ出たシンの言葉を、レイヴンは思い返した。
『あの……男…………レを……切り…………がって……』
恨み言のようにも聞こえたその言葉から、レイヴンは彼が何者かによって裏切られ、これほどまでの傷を負ったのではないかと考えた。
負傷している、という点から思わず助けてしまったレイヴンだが、彼はまだシンという男を信用したわけではない。たとえ裏切られた結果がこれだとしても、シンが悪人でないという保証はどこにもないのだ。
風の冷たさに目が覚めると、二つの翡翠がこちらを見つめていることに気がついた。
レイヴンは三回ほど瞬きをした後、それが昨日助けた男の顔、シンだとわかった。
「おはよう。レイヴン」
挨拶とともに名を呼ばれて、レイヴンの鼓動が少しだけ跳ねた。
(挨拶なんて……何年ぶりだろう?)
父が死んでからというもの、父母の眠る墓前に向かって挨拶を口にすることはあっても、返ってくることはなかった。それが家族でもない赤の他人の方からかけられることに、レイヴンは懐かしさを覚えた。
「……お、おはよう、ございます……」
視線を落とし、たどたどしく挨拶を返すレイヴンの頬には、ほんのりと朱が乗っていた。
(よかった。助けられた……)
シンの様子にレイヴンは内心安堵した。小屋に連れてきたものの、中に入るなりシンは再び気を失ってしまった。無理もない。いくらレイヴンが治癒能力を使ったとはいえ、それは充分ではなかった。
自分よりも遥かに重さのあるシンをベッドへ移すのは骨が折れた。レイヴンの細腕に少しでも筋肉が備わっていれば、その後の行動も手際よく行えたかもしれない。
へとへとになりつつも、小さな暖炉に火をつけ、部屋の中を暖めながらシンの衣服を脱がした。濡れたそれらは部屋の中で干すことにした。外はまだ晴れていたものの、シンの予言のような言葉が気になったからだ。
続いて怪我の状態を確認するべく、乾いた布で彼の身体を拭く中、刺された傷以外にもあちこちに切り傷のようなものがあることがわかった。しかしどれも古いもので、昨日今日できたものではない。いくらレイヴンの力が治癒に特化しているとはいえ、形となってしまった傷痕を消すことまではできない。また、並大抵の努力では得られないであろう筋骨逞しい身体から、彼が戦いの為に生きてきたのではないかと推測する。
(刺されるような怪我なんて、争い事でしか経験しないよね。でもこの人のはたぶん、村単位で起こるようなものじゃない気がする)
幾度も転生を繰り返すレイヴンだが、閉鎖的な村に縛られているがゆえ、社会情勢には疎い。
シンはいったい何者なのか。そしてなぜ、こんな怪我を負う目羽目になったのか。小屋へ向かう中、うわ言のように漏れ出たシンの言葉を、レイヴンは思い返した。
『あの……男…………レを……切り…………がって……』
恨み言のようにも聞こえたその言葉から、レイヴンは彼が何者かによって裏切られ、これほどまでの傷を負ったのではないかと考えた。
負傷している、という点から思わず助けてしまったレイヴンだが、彼はまだシンという男を信用したわけではない。たとえ裏切られた結果がこれだとしても、シンが悪人でないという保証はどこにもないのだ。
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