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第一章
大罪人の罰 4
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ようやく、レイヴンは一つの結論に至った。
(走馬灯……)
過去の自分を夢に見たのも、きっとそれだったのだろう。正確には、自分ではなく今の自分が生まれる前の別の自分だったわけだが。
(ごめんね……ごめんね……もう、だめみたいだ……)
レイヴンは心の中で謝った。それまではずっと、村人に向けての謝罪だったそれを、初めて次の自分に向けて使った。
自分は今から死ぬ。そして今の自分が受けられなかった残りの罰は、今度生まれ変わるだろう別の自分へと引き継がれる。
今の記憶、そしてかつての記憶を引き継いだまま、次の自分はまた新しく罰を受け、苦しみ続ける。
(あの人……大丈夫、かなぁ……?)
消えかかる命の中、レイヴンの頭にはある一人の人間の顔が浮かび上がった。自分に初めてこの首飾りをくれた人間。生まれて初めての感情に戸惑ったものの、レイヴンにとってそれは確かに喜びだった。
(挨拶くらい、したかったな……)
今日で最後になるなら。別れの言葉を言いたかった。
そんな小さな後悔を胸に、レイヴンは瞼を閉じた。
その時……
爆発音のような大きな物音と共に、小屋の扉が勢いよく破壊された。その煽りを受けて、扉の近くで寝そべっていた男達が悲鳴を上げる。
「うわああ!?」
「何だ!? どうした!?」
騒ぎ立てる男達の声で、レイヴンは朦朧とする意識の中、最後の力を振り絞り落ちる瞼をこじ開けた。
破壊された扉へ視線を向けると、そこには真っ赤に燃え上がる炎のような赤い髪を持つ長身の男が、牙のような犬歯を見せながらその顔に笑みを浮かべていた。
「よお。楽しそうなことをしてるなぁ」
コツコツとブーツの底を鳴らしながら、颯爽と小屋の中へ侵入するその若い男は倒れる男達の身体を気にする様子もなく、むしろ踏みつけながらレイヴンの下まで歩み寄る。蛙が潰れるような音が人の身体から発せられるのを、レイヴンは初めて耳にした。
「てめえ、余所者だな?」
レイヴンを犯していた男の一人が、手にした出刃包丁の切っ先を侵入者へ向けた。この村は外からの侵入者を好まない。人口も少ない村だからこそ、村人か否かは顔を見ればすぐにわかった。
髪色からして珍しいその男は、村人にはない緑色の双眸を持っていた。
男達が狼狽しつつも侵入者に対し警戒する中、死にかけのレイヴンは僅かに唇を動かした。
「なん、で……?」
誰にも届かないような微かな声は、男達の疾呼する声であっさりと掻き消される。しかし赤髪の男はレイヴンを見下ろすなり、
「帰りが遅かったから」
と、何でもないように答えてみせた。その場にいた全員が呆気にとられたものの、レイヴンはそれまで失いかけていた光を、自身の持つ漆黒の瞳に浮かべた。
「さて、と……」
コキコキと音を鳴らしながら首を傾ける赤髪の男は笑みを絶やさず、むしろ楽しそうに邪悪なものへと歪めてみせた。
「お前らのお楽しみに、オレも混ぜてくれよ」
(走馬灯……)
過去の自分を夢に見たのも、きっとそれだったのだろう。正確には、自分ではなく今の自分が生まれる前の別の自分だったわけだが。
(ごめんね……ごめんね……もう、だめみたいだ……)
レイヴンは心の中で謝った。それまではずっと、村人に向けての謝罪だったそれを、初めて次の自分に向けて使った。
自分は今から死ぬ。そして今の自分が受けられなかった残りの罰は、今度生まれ変わるだろう別の自分へと引き継がれる。
今の記憶、そしてかつての記憶を引き継いだまま、次の自分はまた新しく罰を受け、苦しみ続ける。
(あの人……大丈夫、かなぁ……?)
消えかかる命の中、レイヴンの頭にはある一人の人間の顔が浮かび上がった。自分に初めてこの首飾りをくれた人間。生まれて初めての感情に戸惑ったものの、レイヴンにとってそれは確かに喜びだった。
(挨拶くらい、したかったな……)
今日で最後になるなら。別れの言葉を言いたかった。
そんな小さな後悔を胸に、レイヴンは瞼を閉じた。
その時……
爆発音のような大きな物音と共に、小屋の扉が勢いよく破壊された。その煽りを受けて、扉の近くで寝そべっていた男達が悲鳴を上げる。
「うわああ!?」
「何だ!? どうした!?」
騒ぎ立てる男達の声で、レイヴンは朦朧とする意識の中、最後の力を振り絞り落ちる瞼をこじ開けた。
破壊された扉へ視線を向けると、そこには真っ赤に燃え上がる炎のような赤い髪を持つ長身の男が、牙のような犬歯を見せながらその顔に笑みを浮かべていた。
「よお。楽しそうなことをしてるなぁ」
コツコツとブーツの底を鳴らしながら、颯爽と小屋の中へ侵入するその若い男は倒れる男達の身体を気にする様子もなく、むしろ踏みつけながらレイヴンの下まで歩み寄る。蛙が潰れるような音が人の身体から発せられるのを、レイヴンは初めて耳にした。
「てめえ、余所者だな?」
レイヴンを犯していた男の一人が、手にした出刃包丁の切っ先を侵入者へ向けた。この村は外からの侵入者を好まない。人口も少ない村だからこそ、村人か否かは顔を見ればすぐにわかった。
髪色からして珍しいその男は、村人にはない緑色の双眸を持っていた。
男達が狼狽しつつも侵入者に対し警戒する中、死にかけのレイヴンは僅かに唇を動かした。
「なん、で……?」
誰にも届かないような微かな声は、男達の疾呼する声であっさりと掻き消される。しかし赤髪の男はレイヴンを見下ろすなり、
「帰りが遅かったから」
と、何でもないように答えてみせた。その場にいた全員が呆気にとられたものの、レイヴンはそれまで失いかけていた光を、自身の持つ漆黒の瞳に浮かべた。
「さて、と……」
コキコキと音を鳴らしながら首を傾ける赤髪の男は笑みを絶やさず、むしろ楽しそうに邪悪なものへと歪めてみせた。
「お前らのお楽しみに、オレも混ぜてくれよ」
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