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「ヘルボックス」2

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 この世界は、聖者のおまけの俺に優しかった。最初は突然の異世界転移に悲観したものの、元の世界よりも不思議と息がしやすかった。

 周囲の関心はもちろん雅にあったから、誰も俺に期待をしていないという点では元いた世界と変わらなかったけれど、その分束縛するものは何もなく、日々を楽しいと感じるまでに時間はかからなかった。映画の中の世界に来たのだと、心が躍るようになったのもその頃だ。

 ここでなら、人生をきっとやり直せる。帰りたくない……本心では、そう思っていた。

 雅に期待していた両親は、あてにしていたものを失った。時間を割いて、手間暇をかけて、お金をかけて、大切に育てた我が子が自分達の目論見通りにいかなかったことに、さぞ絶望したことだろう。想像するだけで気が晴れた。

 なのに俺の心は、何かポッカリと穴が空いたようだった。

 生きやすいのに、生きにくい。当初は理由がわからなかったけれど、その空いた穴を埋めようと、過去の記憶が次第に俺を蝕み始めた。まるで、欠けたフィルムの端と端を、無理矢理引っ張り繋いだように。

『家族なんだから助け合わないと』

 やっと家族という名の呪縛から解放されたと思ったのに。俺の頭は日を追うごとに、離れた両親のことでいっぱいになっていった。特に、ささやかでも幸せだと感じた日には、責める彼らが夢に出てくる始末だ。俺は抱かなくてもいい罪悪感で押しつぶされそうになった。

 決して両親に求められたいわけではない。それこそ、今さらだ。向こうも俺が帰ったところで歓迎はしないし、雅ほどの期待もしないだろう。

 頭の中ではわかっているのに、俺はとうとう記憶の中の彼らに屈してしまった。弱い自分がつくづく嫌になる。

 事実、俺は一人では生きられないほど弱い。すべてが雅のお陰。彼のお陰で、生きやすいと感じていただけ。孤立せずに済んでいただけ。

 でなければ、魔法を使い、魔獣も共生する異世界で俺のような人間が生きていられるはずがない。

 弱い。弱い。弱い……。結局、俺は変われなかった。

 そして今まさに起きていることはきっと……いや、これこそがきっと、弱い俺にとっての罰なのだろう。

「んんっ……ぁ……はあっ……」

 バイロンは緩やかに腰を動かし、注挿を再開した。ゴリゴリと極太のペニスで腸壁を抉られ、呼吸が苦しくなる。

 そんな俺の身体を左右から支えるセルとルイスは、同時に耳介を舐め始めた。耳の形に沿って、ピチャピチャとわざとらしく水音を立てて、彼らは俺の耳を犯した。

 時折フッと吹きかかる吐息が擽ったくて、身体が震えた。そうすると、バイロンのペニスを咥えたアソコに力が入り、正面の彼から「うっ……」と微かな呻き声が漏れた。

「や……ん、くす……んった……ああっ……も、やぁ……!」

 感じ過ぎて、頭と身体がおかしくなる。身体が波打つ度に漏れる自分の声が煩い。呂律の回らない舌がいったい何を言っているのか、もはやわからない。

 そんな状況で、まともに話などできるわけもない。それがわかっていてのことなのか、
 
「よく、聞いてくれ。スグル」

「ぇ……? な、に……あんっ……」

「この会話も、聞かれているかもしれない。だが、これはお前に伝えなければならない」

「んあっ……あなっ……だめ……んんっ……!」

 耳たぶを食みながらルイスが、その反対の穴を舐めながらセルが、俺の声よりも遥かに小さな声で語りかけた。

 彼らは俺を犯しながらこう続けた。

「君の頭には私でさえ解けないプロテクトがかけられていた。それも厳重にね。そんなことをできる人物は、ただ一人しかいない」

「そしてお前ならわかるはずだ。黒幕が誰なのかを。今は思い出せないだろうが、プロテクトをかけられているということは、記憶を消されているわけでないということだ」

「んっ……そ、んな……の……あっ……わ、わかん……なぃ……ああんっ……」

 二人の言っていることが理解できない。大事なことのようなのに、手を止めてくれない。

 これでは俺に聞いて欲しいのか、欲しくないのかがわからない。

 向かいでは、依然緩やかに腰を動かすバイロンが、満足そうな笑みをその顔に浮かべた。

「ああ、たまらないな。意中の人間に触れられるのは。だが……」

「このような形で触れることを、俺達は望んでいない」

「な、なに……? んっ……何、を……言っ……ぅああっ……!」

 彼らが何を言っているのかわからない。

 そしてわけがわからないまま、バイロンのペニスが引き抜かれ、俺は一層高い悲鳴をあげた。同時に、開いた孔からトロトロと何かが溢れた。

「こ、れ……んっ……せー、えき……? じゃあ……つぎ、は……?」

 セルかルイスのどちらだろう? と、俺は半分寝惚けたような顔で、彼らを交互に見た。

 しかし返ってきたのは、予想外の言葉だった。

「いや、ゲームはここまでだ」

「すまない、スグル。無理をさせたな」

「我々はこのゲームをクリアするわけにはいかない。このまま、"奴"の思い通りにさせるわけにはいかないんだ」

「な、に……? みんな……ほんとに、どうし……」

 それを最後に、俺の意識は唐突に、真っ暗な闇の中へと落ちていった。


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