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「ゲーム2」7

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「はあっ……はあっ……ん、はあっ……はぁ……」

 ようやく解放されたのは、制限時間がちょうど二十分を切ったところだった。眼鏡をかけていない俺に代わって、バイロンが教えてくれた。

 爪を剥ぐか、身体を舐めるかで少々揉めたとはいえ、臍と乳首を舐めるだけで十分も使ったのかと思うと、今後の時間配分についてそれでいいのかと目の前の猫耳男に問い質したい気持ちになるが、残念ながら今の俺から出るものは喘ぎ声以外にない。

 もう何なんだよ、このゲーム。危機的状況下にいるというのに、自分の性感帯を知ることになるとは思いもしなかったぞ。しかも乳首がそうだったなんて……。自分が異性のそれを弄る側だと思っていただけに、何だか色々とショックだ。

 そもそも、痺れるようなあの感覚が快感を得ていたのだとわかったのは、下半身についている自分のあそこが勃起し始めたからだ。性欲なんてとんとなかったから、これが快感だなんて思いもしなかった。ジーンズを穿いていなかったら、今頃相手に気づかれてドン引きされていたことだろう。

 ……と、思っているけれど、気づいてない……よな? な?

「スグル。一つ確認したいんだが」

「な、なにっ……?」

 潤んだ唇を指で拭い、艶めかしさを見せるバイロンが、仰向けでぐったりと寝転ぶ俺に尋ねた。タイミングが良すぎて心臓が跳ねる。もしや、勃起がバレた……? ち、違うんだ。バイロン。これは決してやましいものではなく、ごくごく自然な生理反応で……

「舐める範囲を上半身とした場合だが、それは髪も含むのだろうか?」

「えっ? そっち? ああ……そっちね……」

 心の中で言い訳を始めていた俺に、首を傾げるバイロンは全然違う質問を口にした。よ、よかった……。勃起はバレてないみたいだ。

「え……っと……」

 それはそうと髪、か。聞かれて俺もまた首を傾げた。バイロンが疑問に思うように、髪は頭の上にあるから上半身に含まれる。だが、それはこのゲームの舐める範囲に含まれるのだろうか?

 俺はもう一度、壁面に書かれていたルールを頭の中に思い浮かべると、当該部分をそのまま口にした。

「ルールでは、プレイヤーが生贄の半身(上半身、下半身のどちらか)を余すことなく舌で舐めきること、って書いてあったから……」

「ということは、髪もだな」

 そう言って、バイロンは俺の髪を指で掬うように触れた。

「舐めにくい、よな……」

「いや、舐めることは容易いんだが、俺の唾液でこの美しい髪を汚したくない」

「気にするポイントって、そこなの?」

 そもそも髪を舐めることって容易いか? 俺からすると、とんでもなく難易度が高いんだけど。

 それに、バイロン達には珍しいだけで、黒い髪の人間なんて日本に帰ればそこら中にいる。毛量はそこそこあるけれど、男にしてはハリがなくて柔らかいし、自分の髪を綺麗だとか、美しいだとか、そう思ったことなんて一度もない。

 だからどう扱われようと構わないんだけれど……

「というわけで、舐める範囲を下半身へ変更するぞ」

 と、バイロンがさらりと、とんでもないことを言い出した。

「えっ!? ここまで舐めたのに!?」

 ガバッと上体を起こすと、バイロンは「時間はまだある。大丈夫だ」と、壁面を見上げた。

「いやいやいや! 時間とかの問題じゃなくて……!」

 俺が堪えた意味! ここから下半身にするなら、さっきの乳首舐めは何だったの!? ひと舐めで充分だったじゃん!

「スグル。下を脱げ」

「だ、だけど……」

「グズグズしていると時間がなくなる」

「う……ど、どうしても……?」

「どうしても」

 駄目だ。粘ってもバイロンの揺るぎない両目が「もう決めた」と言っている。こっちは髪が湿ってベタベタになろうが、乾いてパリパリになろうが構わなかったのに。下半身を舐められるよりは、全然マシだったのに。

「バイロン……ほんとに……だめ……?」

 少しだけ涙目になりながら、視線だけを上げてバイロンを見る。すると、彼の口から「グルル……」と唸るような声が聞こえた。お、怒った? 俺が嫌だ嫌だとごねるから? 嘘だろ。これって俺の我が儘のせい?

 しゅん、と項垂れると、バイロンが口元を手で覆いながら、小声でゴニョゴニョと言っている。何? うわ……づかい? はん……そく? 駄目だ。何を言っているのか全くわからない。

「バイロン……?」

「オホン! とにかく、だ。スグル」

 わざとらしく咳払いをしたバイロンは、改めて俺に向き直ると、

「もう時間がない。下を脱いでくれ。頼む」

「うぐぅ……」

 そう言って頭を下げられてしまった。俺は下唇を軽く噛んだ。

 正直、ずるいと思う。頭を下げることは慣れていても、頭を下げられることには慣れていない。それを向こうは知っていてやるんだから、ずるい以外にないだろう。

 とはいえ、これ以上ごねたところでバイロンは引き下がらないだろうし、ここは俺が折れるしかない。

 憂鬱な気持ちで腰に巻かれたベルトを外すと、ジーンズのチャックを下ろしながらボソボソと言った。

「わ、笑わないで欲しいんだけど……」

「笑う?」

「その……俺…………は…………ハイジ……だから……」

「はいじ?」

 きっと初めて耳にしただろう単語に、眉を動かしたバイロンに、俺はやけっぱちになりながら下着ごと掴んでジーンズを脱いだ。

「ないんだよ、あれが! 生まれつき!」

 語気を強めてそう言うと、バイロンは目を見開いた。眼鏡がないのに、それははっきりとわかった。

 ああ、もう。だから嫌だったのに。脱いでそうそう、俺はツルリとした性器を両手で覆い隠した。

 まるで赤ん坊だな、と嘲笑った雅の顔が、頭の中で思い浮かんだ。


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