30 / 60
「ゲーム2」5
しおりを挟む俺は素っ頓狂な声を上げてバイロンを見た。簡単……と言ったのか? 今。嘘だろ? その綺麗な顔面に備わっている健康的なピンク色の舌で、こんなちんちくりんの身体を舐め回せっていうルールなんだぞ。嫌だろ、普通は。それをこの方、簡単と仰った? 仰っただけでなく、「何だよ、もっと早く言えよ~」みたいな表情すら浮かべてらっしゃるけれども、何なの? こっちの世界じゃ、男が男の身体を舐め回すのは文化ってか? 一年近くも暮らしてきたのに、そんな文化があることを初めて知ったし……いや、あってたまるか。
ま、まさか、元が虎だから? ネコ科だから? つまりグルーミング感覚でやれるから簡単ってこと? 知らんけど!
バイロンの真意がわからず、頭の中がぐるぐると回る。それでも一つだけわかったのは、俺が勝手に判断して、余計なことをしたということだ。
「制限時間は三十分だったな。手早く済ませるぞ」
バイロンはそう言うと、軍服の上着を脱ぎ、それを広げるように床に敷いた。続いて俺の身体を抱くと、背を下にした状態でゆっくりと軍服の上に寝転がした。感心するほど手際がいい。彼が誰かとデートをするなら、きっと今のように卒なくこなしているだろうことがわかる。しかし何だろう。妙にウキウキしているように見えるのは、俺の気のせいか?
それはさておき、軍服のお陰で身体を直に床へつけるよりも幾分かマシになったけれど、帝国の英雄が英雄たらしめるそれを俺の為に下敷きにさせてしまっていることが申し訳なくなってしまう。まるでバイロンの誇りを踏みにじっているようで、心苦しかった。
「気にするな。たかが服だ」
思っていることが顔に出ていたのか、バイロンは俺の顔から眼鏡を外しつつ微笑んだ。不鮮明になる視界の中でも、改めて彼が綺麗だと感じた。
バイロンは俺の上に被さる状態で「さて」と言い、
「舐めるのは上半身と下半身のどちらか一方でいいんだな?」
と、俺の身体を見下ろした。上半身はすでに裸でいるから、すぐに取り掛かるとしたらそちらの方だ。そうでなくとも、性器が備わっている下半身は舐められたくないし、さすがにバイロンも嫌だろう。
俺は頷いた。
「半身って書いてあるから、どちらかでいいみたい。ただ、その……」
バイロンの顔がはっきり見えなくなったとはいえ、見つめられていると思うと恥ずかしいな。普段なら裸を見られたところでどうということはないんだけれど、目の前の人がハリウッド映画俳優張りの雄々しい身体をしているものだから、比べてもやしのような身体の自分が情けなくなってくる。せめて雅くらい筋肉があればよかったなと思いつつ、俺は希望を口にした。
「風呂にも入れてないし……き、汚い、から……その……舐めるなら、じょう」
上半身がいいです。そう言い切る前に、バイロンは自身を低くして、俺の腹をれろりと舐めた。
「んひゃっ」
ビクッと身体が震えて変な声が口から出た。そうだった。自分は昔から、些細なことに敏感で擽ったがりだった。何で今の今まで忘れてたの、俺!
ある意味でこのゲームが爪剥ぎよりもキツいかもしれないということに、今さらながらに気づいてしまう。じゃあ、やっぱりチェンジで! とは当然言えないのだけれど、全身でないとはいえ半身だけでも舐め回されるというこの行為に耐えられるかどうか……。
「痛くないか?」
バイロンはひと舐めした後、視線だけを上げてこちらを気遣うように尋ねた。
いやいやいや、何を日和っているんだ、俺は。いくら簡単だとバイロンが言ったとはいえ、他人の身体を舐めるんだぞ。風呂にも入っていない汚いこの身体を。大変なことに変わりはないのに、彼にすべてを委ねて完全な受け身と化している俺が耐えきれなくてどうする。
俺はない腹筋に力を込めながら、コクコクと首を縦に動かした。するとバイロンはホッとしたように、
「腹から上へ順に舐めていくが、お前は何もしなくていい。すべて俺に任せておけ」
と、頼もしい言葉を口にしてから、再び身体を屈めて腹回りをペロペロと舐め始めた。
「んっ……ふ……」
とはいえ、だ。覚悟を決めたものの擽ったいことに変わりはない。しかも人の舌と質感が異なると教えてくれたバイロンに偽りはなく、舌の上の突起物がそれを増してくる。元は硬かっただろう無数のそれは、軟化して目の粗いタオル生地のような質感だ。そんな舌を絶妙な力加減で肌の上に押しつけてくるから、行き場のない手が自然と下敷きにされた軍服を握り締めていた。
「はあっ……ん、そこぉ……ああっ……」
壊れ物でも扱うかのように、バイロンは丁寧に、かつ丹念に舐めていく。臍のくぼみに舌を挿し込まれて、一層高い声を上げてしまった。
「や、ああっ……んっ……バイ、ロ……」
「痛いか?」
言葉を発したことで舌が離れ、窄まりつつあった喉が一気に開いた。
54
お気に入りに追加
908
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる