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「ゲーム2」5

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 俺は素っ頓狂な声を上げてバイロンを見た。簡単……と言ったのか? 今。嘘だろ? その綺麗な顔面に備わっている健康的なピンク色の舌で、こんなちんちくりんの身体を舐め回せっていうルールなんだぞ。嫌だろ、普通は。それをこの方、簡単と仰った? 仰っただけでなく、「何だよ、もっと早く言えよ~」みたいな表情すら浮かべてらっしゃるけれども、何なの? こっちの世界じゃ、男が男の身体を舐め回すのは文化ってか? 一年近くも暮らしてきたのに、そんな文化があることを初めて知ったし……いや、あってたまるか。

 ま、まさか、元が虎だから? ネコ科だから? つまりグルーミング感覚でやれるから簡単ってこと? 知らんけど!

 バイロンの真意がわからず、頭の中がぐるぐると回る。それでも一つだけわかったのは、俺が勝手に判断して、余計なことをしたということだ。

「制限時間は三十分だったな。手早く済ませるぞ」

 バイロンはそう言うと、軍服の上着を脱ぎ、それを広げるように床に敷いた。続いて俺の身体を抱くと、背を下にした状態でゆっくりと軍服の上に寝転がした。感心するほど手際がいい。彼が誰かとデートをするなら、きっと今のように卒なくこなしているだろうことがわかる。しかし何だろう。妙にウキウキしているように見えるのは、俺の気のせいか?

 それはさておき、軍服のお陰で身体を直に床へつけるよりも幾分かマシになったけれど、帝国の英雄が英雄たらしめるそれを俺の為に下敷きにさせてしまっていることが申し訳なくなってしまう。まるでバイロンの誇りを踏みにじっているようで、心苦しかった。

「気にするな。たかが服だ」

 思っていることが顔に出ていたのか、バイロンは俺の顔から眼鏡を外しつつ微笑んだ。不鮮明になる視界の中でも、改めて彼が綺麗だと感じた。

 バイロンは俺の上に被さる状態で「さて」と言い、

「舐めるのは上半身と下半身のどちらか一方でいいんだな?」

 と、俺の身体を見下ろした。上半身はすでに裸でいるから、すぐに取り掛かるとしたらそちらの方だ。そうでなくとも、性器が備わっている下半身は舐められたくないし、さすがにバイロンも嫌だろう。

 俺は頷いた。

「半身って書いてあるから、どちらかでいいみたい。ただ、その……」

 バイロンの顔がはっきり見えなくなったとはいえ、見つめられていると思うと恥ずかしいな。普段なら裸を見られたところでどうということはないんだけれど、目の前の人がハリウッド映画俳優張りの雄々しい身体をしているものだから、比べてもやしのような身体の自分が情けなくなってくる。せめて雅くらい筋肉があればよかったなと思いつつ、俺は希望を口にした。

「風呂にも入れてないし……き、汚い、から……その……舐めるなら、じょう」

 上半身がいいです。そう言い切る前に、バイロンは自身を低くして、俺の腹をれろりと舐めた。

「んひゃっ」

 ビクッと身体が震えて変な声が口から出た。そうだった。自分は昔から、些細なことに敏感で擽ったがりだった。何で今の今まで忘れてたの、俺!

 ある意味でこのゲームが爪剥ぎよりもキツいかもしれないということに、今さらながらに気づいてしまう。じゃあ、やっぱりチェンジで! とは当然言えないのだけれど、全身でないとはいえ半身だけでも舐め回されるというこの行為に耐えられるかどうか……。

「痛くないか?」

 バイロンはひと舐めした後、視線だけを上げてこちらを気遣うように尋ねた。

 いやいやいや、何を日和っているんだ、俺は。いくら簡単だとバイロンが言ったとはいえ、他人の身体を舐めるんだぞ。風呂にも入っていない汚いこの身体を。大変なことに変わりはないのに、彼にすべてを委ねて完全な受け身と化している俺が耐えきれなくてどうする。

 俺はない腹筋に力を込めながら、コクコクと首を縦に動かした。するとバイロンはホッとしたように、

「腹から上へ順に舐めていくが、お前は何もしなくていい。すべて俺に任せておけ」

 と、頼もしい言葉を口にしてから、再び身体を屈めて腹回りをペロペロと舐め始めた。

「んっ……ふ……」

 とはいえ、だ。覚悟を決めたものの擽ったいことに変わりはない。しかも人の舌と質感が異なると教えてくれたバイロンに偽りはなく、舌の上の突起物がそれを増してくる。元は硬かっただろう無数のそれは、軟化して目の粗いタオル生地のような質感だ。そんな舌を絶妙な力加減で肌の上に押しつけてくるから、行き場のない手が自然と下敷きにされた軍服を握り締めていた。

「はあっ……ん、そこぉ……ああっ……」

 壊れ物でも扱うかのように、バイロンは丁寧に、かつ丹念に舐めていく。臍のくぼみに舌を挿し込まれて、一層高い声を上げてしまった。

「や、ああっ……んっ……バイ、ロ……」

「痛いか?」

 言葉を発したことで舌が離れ、窄まりつつあった喉が一気に開いた。

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