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「ゲーム2」2
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「え……えええ!? だ、だってバイロンは虎だろ!? なんで……」
「ん? ああ、この姿の俺は初めてだったか」
目の前のバイロンは今気づいたとばかりに、自分の顎を撫でるように触れた。
「ルイスに頼んで俺の中の人の部分を魔法によって最大限に引き出してもらったんだ。普段の姿では相手を傷つけてしまうと思ったものでな」
「どういうこと?」
「ここで行われるゲームとやらを、俺とルイスはゲームステージ外ですべて見ていた。そこから、今後もこの系統のものが続くとして、だ。俺の場合、これが厄介なんだ」
そう言って、バイロンは自身の舌を出してこちらに見せた。それは一見、人間の俺のものと変わらないように思えたが、目を凝らしてみると彼の舌の上には無数の棘のようなものがあった。
俺がそれに気づいたことを確認してから、バイロンは再び舌をしまい、説明する。
「糸状乳頭という突起があるんだ。肉を食べる際、骨についたそれを削ぎ落とす役割があるんだが、これがなかなか鋭くてな。人間相手にやれば、たちまち血だらけになってしまう」
「な、なるほど……」
つまり、「ゲーム1」のルールみたく、元の姿のバイロンが生贄である俺相手にキスをしたら、たちまち舌をこそげ落としてしまうということか。そう考えるとゾッとする。慣れてきたとはいえ、やっぱりバイロンは異なる種族なんだな。
「この姿であれば舌の突起も軟化するから、キスをしても相手を傷つけることはない。とはいえ、純血の人間とは質感が異なるから、多少は気になるかもしれんが」
「へぇ、そうなんだ~……って、そこじゃなくて!」
俺はバイロンの頭上に向けてビシッと指をさした。
「その耳! なんで猫なの!?」
そう。最大のツッコミどころはそこだ。バイロンは虎の獣人。元の姿の彼の耳は虎特有の丸みを帯びた形状で、猫とは明らかに異なる。それに耳の裏には虎耳状斑だって存在しているんだ。実は猫でした~なんて言われても信じられない。しかし、今の姿の頭上にある耳は、どこからどう見ても虎ではない。猫と虎が同じネコ科なのはわかる。だが、猫と虎では全然違うぞ。
「耳?」
バイロンは視線を上げながら、ピコピコと動く自身の耳に手を添えると、「ああ」と何かに気づいたように答えた。
「スグルも知っての通り、俺をはじめ獣人は何かと恐れられるんだ。特に人間の子ども達にとって、俺は恐怖そのものだからな」
それはこの世界へ来た時に説明を受けた。獣人が当たり前のように存在するこの世界でも、人間にとって彼らは畏怖の対象であること。とりわけバイロンは帝国民の英雄として讃えられているとはいえ、分別のつかない子どもにとっては野生の獣と大差なく見られてしまうということも。
俺が初めてバイロンと出会った時、驚かなかったと言えば嘘になるけれど、それよりも大好きなファンタジー映画で幾度となく目にしてきた憧れの獣人と出会えたことに俺は興奮していたから、彼のことは割りとすんなり受け入れることができた。俺のこの反応は向こうからするとかなり珍しいものだったらしいけれど……いや、そんなことは今、どうでもいいんだよ。
俺が聞きたいのは、虎耳になるはずのバイロンが、どうして猫耳を生やしているのかってことだ。
「人間達と手っ取り早く馴染むには、同じ人の顔の方がいい。しかし本来の姿が虎だとわかるとこの姿でも恐れられてしまうから、その特徴となる耳を同じネコ科の猫へと変えれば『ウケ』がいいのだと、ルイスがな」
そこじゃない! 怖がる部分、そこじゃない!
俺は心の中で盛大にツッコミを入れた。というか、そこじゃないってわかっててやってるだろ、ルイス。絶対に面白がってやってるよな? そもそも、生物の分類を変えてしまう魔法を使えるって、帝国の魔術師のレベル高すぎない!?
「どうした、スグル。そんなに項垂れて。もしや、この姿に問題でもあるのか?」
俺が項垂れてしまったことで心配になったのか、俺の顎に手を添えて顔を上げさせるバイロン。彫りが深く、美しいと感じさせる切れ長の彼の目が、真っ直ぐに俺を捉えた。
セルの時もそうだったけれど、同性でもこんなに綺麗な人を前にすると、自然にドキがムネムネ……違った。自然に胸がドキドキするんだな。さっきから鼓動が早くて仕方がない。猫耳だろうがなんだろうが、格好いいものは格好いい。
俺はボッと赤くなる顔を、前髪をくしゃくしゃと手で崩すことで誤魔化した。
「う、ううんっ。そんなことないよ……」
バイロンは「そうか?」と納得しきれていないようだったけれど、俺が続けて大丈夫と答えると、それ以上は聞いてこなかった。
それよりも……。
「スグル。ミヤビのことだが……」
ああ、そうだよな。セルはああ言ってくれたけれど、バイロンからすれば許せないことだろうから、言わずにはいられないよな。
責められても仕方がない。予期していたことだと、俺は詰られる前に頭を下げた。
「バイロン。雅のことは、その……本当に、ごめ……」
「辛かったな」
「ん? ああ、この姿の俺は初めてだったか」
目の前のバイロンは今気づいたとばかりに、自分の顎を撫でるように触れた。
「ルイスに頼んで俺の中の人の部分を魔法によって最大限に引き出してもらったんだ。普段の姿では相手を傷つけてしまうと思ったものでな」
「どういうこと?」
「ここで行われるゲームとやらを、俺とルイスはゲームステージ外ですべて見ていた。そこから、今後もこの系統のものが続くとして、だ。俺の場合、これが厄介なんだ」
そう言って、バイロンは自身の舌を出してこちらに見せた。それは一見、人間の俺のものと変わらないように思えたが、目を凝らしてみると彼の舌の上には無数の棘のようなものがあった。
俺がそれに気づいたことを確認してから、バイロンは再び舌をしまい、説明する。
「糸状乳頭という突起があるんだ。肉を食べる際、骨についたそれを削ぎ落とす役割があるんだが、これがなかなか鋭くてな。人間相手にやれば、たちまち血だらけになってしまう」
「な、なるほど……」
つまり、「ゲーム1」のルールみたく、元の姿のバイロンが生贄である俺相手にキスをしたら、たちまち舌をこそげ落としてしまうということか。そう考えるとゾッとする。慣れてきたとはいえ、やっぱりバイロンは異なる種族なんだな。
「この姿であれば舌の突起も軟化するから、キスをしても相手を傷つけることはない。とはいえ、純血の人間とは質感が異なるから、多少は気になるかもしれんが」
「へぇ、そうなんだ~……って、そこじゃなくて!」
俺はバイロンの頭上に向けてビシッと指をさした。
「その耳! なんで猫なの!?」
そう。最大のツッコミどころはそこだ。バイロンは虎の獣人。元の姿の彼の耳は虎特有の丸みを帯びた形状で、猫とは明らかに異なる。それに耳の裏には虎耳状斑だって存在しているんだ。実は猫でした~なんて言われても信じられない。しかし、今の姿の頭上にある耳は、どこからどう見ても虎ではない。猫と虎が同じネコ科なのはわかる。だが、猫と虎では全然違うぞ。
「耳?」
バイロンは視線を上げながら、ピコピコと動く自身の耳に手を添えると、「ああ」と何かに気づいたように答えた。
「スグルも知っての通り、俺をはじめ獣人は何かと恐れられるんだ。特に人間の子ども達にとって、俺は恐怖そのものだからな」
それはこの世界へ来た時に説明を受けた。獣人が当たり前のように存在するこの世界でも、人間にとって彼らは畏怖の対象であること。とりわけバイロンは帝国民の英雄として讃えられているとはいえ、分別のつかない子どもにとっては野生の獣と大差なく見られてしまうということも。
俺が初めてバイロンと出会った時、驚かなかったと言えば嘘になるけれど、それよりも大好きなファンタジー映画で幾度となく目にしてきた憧れの獣人と出会えたことに俺は興奮していたから、彼のことは割りとすんなり受け入れることができた。俺のこの反応は向こうからするとかなり珍しいものだったらしいけれど……いや、そんなことは今、どうでもいいんだよ。
俺が聞きたいのは、虎耳になるはずのバイロンが、どうして猫耳を生やしているのかってことだ。
「人間達と手っ取り早く馴染むには、同じ人の顔の方がいい。しかし本来の姿が虎だとわかるとこの姿でも恐れられてしまうから、その特徴となる耳を同じネコ科の猫へと変えれば『ウケ』がいいのだと、ルイスがな」
そこじゃない! 怖がる部分、そこじゃない!
俺は心の中で盛大にツッコミを入れた。というか、そこじゃないってわかっててやってるだろ、ルイス。絶対に面白がってやってるよな? そもそも、生物の分類を変えてしまう魔法を使えるって、帝国の魔術師のレベル高すぎない!?
「どうした、スグル。そんなに項垂れて。もしや、この姿に問題でもあるのか?」
俺が項垂れてしまったことで心配になったのか、俺の顎に手を添えて顔を上げさせるバイロン。彫りが深く、美しいと感じさせる切れ長の彼の目が、真っ直ぐに俺を捉えた。
セルの時もそうだったけれど、同性でもこんなに綺麗な人を前にすると、自然にドキがムネムネ……違った。自然に胸がドキドキするんだな。さっきから鼓動が早くて仕方がない。猫耳だろうがなんだろうが、格好いいものは格好いい。
俺はボッと赤くなる顔を、前髪をくしゃくしゃと手で崩すことで誤魔化した。
「う、ううんっ。そんなことないよ……」
バイロンは「そうか?」と納得しきれていないようだったけれど、俺が続けて大丈夫と答えると、それ以上は聞いてこなかった。
それよりも……。
「スグル。ミヤビのことだが……」
ああ、そうだよな。セルはああ言ってくれたけれど、バイロンからすれば許せないことだろうから、言わずにはいられないよな。
責められても仕方がない。予期していたことだと、俺は詰られる前に頭を下げた。
「バイロン。雅のことは、その……本当に、ごめ……」
「辛かったな」
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