異世界での監禁デスゲームが、思っていたものとなんか違った

天白

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「ゲーム2」1

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 心身ともにじんわりとした温かさを感じた頃、「インターバル」は終わった。まだ身体は冷えるけれど、セルがずっと抱きしめてくれていたお陰で、いくらかマシになった。

 腰を下ろしていたソファは消えて、俺達は立ち上がる。当然ながら、十五分で服は乾かない。薄い身体を晒すのはなんとなく気恥ずかしいけれど、このままでいるしかなかった。

 壁面には、『プレイヤーを交代しますか?』と表示されていた。よかった、と俺は安堵の息を吐いた。

「何と書いてある?」

「プレイヤーを交代しますかって、書いてあるよ」

 セルに答えると、彼は服を整えながら即座に頷いた。

「では、そうしよう。プレイヤーを交代する」

 そう宣言すると、セルの首から例の首輪が外れて落ちた。同時に、セルの姿も消えてしまった。

 自分の傍から人が消えたことで急に不安が押し寄せた。キョロキョロと見渡すと、雅曰く例の鑑賞スペースに彼の姿がルイスとともにあった。入場と退場ではどうやら仕様が違うらしい。

 そしてなぜかバイロンの姿が見えない。代わりに、知らない誰かがルイスの隣にいた。あれは誰だろう? 眼鏡をかけていても、それが誰なのかはわからない。だがそれも、ここから出ればわかることだ。

「俺も、交代します……」

 セルに続いて、俺はおずおずと手を挙げながら宣言した。この生贄という役をルイスとバイロンに押しつけてしまうのは、気が引けてしまうけれども、これ以上ここに留まるのは精神的にキツかった。

 しかし、俺の首に巻かれたものは、外れる気配すらなかった。

「あ、れ?」

 試しに首元に触れてみる。駄目だ。ぴったりとくっついたままで、自力でも外せそうにない。まさか、交代できないのか? どうして? セルは交代できたのに、どうして俺だけ……

 ここで、俺はあることに気がついた。

「俺が……プレイヤーじゃない、から?」

 もう一度、壁面を見上げた。そこには依然として、『プレイヤーを交代しますか?』と表示されている。そうだ。聞かれているのは、「プレイヤー」の交代。けれど、「生贄」については問われていない。

「じゃあ、ずっと……? 生贄はずっと……このままってこと?」

 俺はだらん、と手を落とした。何が、雲よりも軽い気持ちで選びましょう、だよ。こんな人をコケにするような真似ばかりして、このゲームを用意した奴はいったい何が目的なんだよ。

 虚しさと悔しさの混ざり合ったものが、ふつふつと自分の中で込み上がる。すべてのゲームをクリアした暁には、素敵なご褒美を差し上げるとかなんとか書いてあったけれど、何なんだよ素敵なご褒美って。どうせ、美味そうな餌だけを垂らして、最初から食わせる気なんてないんだろ。マウスボックスとやらの退出だってそうだ。解放する気もさらさらなくて、ゲームオーバーになるまで俺達で遊ぼうって、最初からそのつもりで捕らえたんじゃないか?

 だとしたら、この先のゲームクリアには、いったい何の意味があるって言うんだよ……! ふざけるな!


『あー、それはないから安心しろよ。約束はちゃんと守るからさ』


「えっ……?」

 心の中で叫んだ怒りの声に、誰かが答えた。驚いた俺はすぐさま顔を上げるも、そこには誰もいなかった。

 気のせい? いいや、違う。声ははっきりと聞こえた。それも頭に直接響くような形で。これは魔法? だとしたら、それはルイスなのか? 声質は確かに男のようだった。けれど、声はルイスじゃなかった。ということは、今の俺に答えた奴は、このゲームを仕組んだ黒幕……なのか?

 俺はゴクリと唾を飲み込んだ。

 雅は? 無事なのか? 俺は瞼を強く閉じながら、心の中で何者かへと問いかける。しかしいくら呼びかけても、声は返ってこなかった。

 代わりに……

「スグル」

「ひゃいっ!?」

 目の前に、見知らぬ大男が現れた。白と黒が入り交じった綺麗な長髪と、セルやルイスにも劣らぬ綺麗な顔立ちの、人間の姿をした男だ。その身には、帝国の軍服を纏っている。

 俺は驚きのあまり足がもつれて後ろへ倒れそうになった。それを、すんでのところで、その大男が食い止める。俺は大男に腕を取られると、そのまま抱き締められる形で胸の中へと飛び込んだ。

 だ、誰だ、この人? 同じ人間なのに大柄なセルよりもさらに大きい。俺はこんなに大きな人、知らないぞ。それに……

 ちらりと視線を上げると、目の前の大男の頭には猫のような耳があった。柔らかそうなそれはピコピコと動いていて、美形な顔とは反対に、なんだか可愛らしく見えた。

 まさか、この人が黒幕? いやいや、そうだとしたら転びそうになった俺を助けるか、普通? それに、さっき頭の中で聞こえた声とは違うような気がするし……

 俺は戸惑いつつも、その大男に向かって口を開いた。

「あの……だ、誰、ですか?」

 すると、目の前の男は心外そうに言った。

「誰とは酷いな。共に閉じ込められた仲だろうに」

 へ? 共に、閉じ込められた?

 俺は首だけを動かして、ルイス達のいる鑑賞スペースに視線をやった。そこにはルイス、そして軍服を整えたセルがいた。しかし、バイロンの姿が見当たらない。

 あれ? バイロンの姿は見当たらないけれど、今しがた降ってきた声はバイロンにそっくりだったぞ?

 俺はおもむろに首を動かしながら、大男の頭を見つめた。

 猫のような耳が、ピコピコと動いた。

「バイ、ロン?」

「それ以外の何に見えるんだ?」

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