異世界での監禁デスゲームが、思っていたものとなんか違った

天白

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インターバル 2

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 言い訳を並べれば並べるほど、ドツボにはまっていく。俺は下を向くと、そんな自分を隠すようにセルの胸へ顔を埋めた。きっとセルは、何言ってるんだ、こいつ? って思っているんだろうなぁ。

「……なるほど」

 しかし上から降ってきたのは予想外の言葉だった。

 なるほど? 何がなるほど? 今の馬鹿みたいな言い訳を理解しましたよ、という意味でのなるほど? それでいいの、セルさん? しかも心なしか、笑ってらっしゃる?

 セルの謎の反応に戸惑う俺。一方、セルはセルでずっと気になっていただろうことを口にする。

「しかし、どうしてミヤビがあのような辱めを受けたのだろうか?」

「あ、それは……」

 チュートリアル以降に書かれていたルールのことを知らないセルに、俺は改めてこのゲームについて説明した。そして雅が罰を受けた理由について、考えられることも。

 セルは静かに、俺の話を聞いていた。雅のように途中で遮ることも、罵ることも、小突くこともなく。

 一通り説明を終えると、セルは「ふむ」と頷いた。

「つまり、ゲームのペナルティは生贄が受けるのではなく、プレイヤーが受けることになる、と。このゲームとやらを仕組んだ輩は、いい性格をしているようだな」

「憶測も入っているから、これが正解というわけではないけれど、たぶん。だから、慎重にペアを決める必要があると思うんだ」

 特に今のように、ゲームの内容が性癖に関するようなものであれば、心と身体を互いに許せるような関係でないとクリアは非常に難しいだろう。俺は今回必死だったし、命懸けだったからこそなりふり構っていられなかったけれど、今後もこの系統で進むのであれば結構……いや、かなり厳しいかもしれない。

 これが異世界でのデスゲーム。思っていたものとなんか違ったけれど、恐ろしいことに変わりはない。

 そもそも、どうしてルールが日本語なんだろう? 俺と雅はルイスによって言語変換能力を使われていて、喋っているのは日本語のつもりでも、帝国民の彼らには言語が自動的に変換されている。けれど、読み物に関してはその能力が発揮されない。壁面に表示される言語がこの国のものであれば、読めないからすぐにわかる。だから間違いなく、このステージ内で表示されているのは日本語なんだ。

 ということは、犯人は日本人? 俺や雅のように日本からこの異世界へ転移した人間ということ? いや、人間以外の種族ということもあるかもしれないけれど、何かしら日本に関わっているんじゃないか? それともただ、俺と雅だけにわかるように、魔法か何かで日本語にしただけ? うーん。わからん。こんなデスゲームを用意した犯人について、ミリほども見当がつかない。

 一つだけわかるのは、聖者の雅をも圧倒する力を持つ何者かということ。雅で敵わないのなら、ここにいる三人もきっと……

「ごめん……」

 口からポツリと零すように謝罪を口にした。セルは、「なぜ、謝る?」と俺を訝しむように見下ろした。

「雅を……帝国の聖者が罰を受けるのを、俺は止められなかった……」

 確かに兄弟仲はよくなかった。俺は兄でありながら、いつも弟から蔑まれてきたし、親からもさんざん比べられてきた。居場所なんかない。俺は雅が羨ましくて、恨めしかった。

 だからといって、雅があんなに酷い仕打ちを受けて心が晴れることなんてない。あんなのでも、俺の弟だったんだ。それに元から仲が悪かったわけでもない。幼い頃はそれなりに仲が……えっと、それなり、に……? 仲がよかった時も……たぶん、あった……うん。たぶん。あった……あれ? あったか? ちょっと思い出せないけれど、たぶんあったはず。いや、はずじゃない。仲はよかった。よかったよ。だってそうじゃなきゃ、そうじゃなきゃ……悲しいなんて、思うわけがない。

 飲み込まれる寸前まで雅は生きていた。だからまだ、死んだと決まったわけじゃない。決まったわけじゃないけれど、無事でないことだけは確定している。セルは俺を責めないけれど、ルイスやバイロンは違うだろう。この「インターバル」が終わったら、どんな誹りも受けよう。命を天秤にかけて罰を受けるとしたら、それは俺の方だったんだから。

 そんな俺の心の声を、セルは聞いていたのか……

「それはスグルのせいではない。プレイヤーも生贄も、ミヤビが決めたことだ。そして罰を受けるのも、お前ではない」

 きっぱりと言い切った。

「けど、雅は帝国に必要な人間だっただろ。俺は兄というだけで、雅のような力はない。何もできないんだ。生きなきゃいけなかったのは……」

「罰を受けるのは罪人だけだ。お前は何か、罪を犯したのか?」

「え……つ、罪?」

 セルが何を言っているのか、すぐに理解ができなかった俺は、聞き返しながら彼を見上げると、向こうは普段と変わらぬ調子でこう言った。

「このゲームとやらを作った輩の思惑はわからないが、お前はルールを破ったわけではない。それはルイスやバイロンも見ている。ミヤビのことはどうしようもなかった。そしてそれを抜きにしても、お前が罰を受ける理由がない。少なくとも、帝国でお前は罪を犯していないんだ。もしも罪を犯したとなれば、すぐに気づく。罪のない人間は、誰であろうと罰を受けるべきではない。命に優劣をつけるな」

 そしてセルは俺をあやすように背中を擦った。

「少し休め。せっかくの『インターバル』だ。それに、身体が痛むだろう」

 俺はセルの言葉に、少しだけ涙が溢れた。人からこんなに優しくしてもらえたのは、いつぶりだろう。平等なんてものは、言葉だけだと思っていたのに。

 生きてていいと許されたことが、身体が震えるほど嬉しかった。

「微かだが、ミヤビの気を感じる。大丈夫だ」

「……うん」
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