23 / 60
「ゲーム1」7
しおりを挟む
美形はやはり何をしても美形だ。無表情でも、愛想が悪くても、美しければ許される節がある。阿呆な言い方をするならヤバい。そのただでさえヤバいスペックに微笑みがプラスされるとさらにヤバい。美形の微笑は、直視できない。それもさっきまで、ものすごくえっちな顔でキスしてきた人の貴重な笑みだ。ギャップがすごい。心臓が破れる。
キスなんて初体験をしたからか、同じ男相手なのに妙に意識してしまっている。その上、今はお姫様抱っこ! なんだよ、これ。俺が女子だったら即落ちするシチュエーションじゃないか。ときめいてしまったら、どうしてくれるんだ。
「スグル」
「ひゃっ、はい!」
「これでゲームはクリアしたことになるんだな?」
いつの間にか口角を下げていたセルは、壁面を見上げていた。コロッと切り替わるセルの姿勢に、俺は一瞬でも余計なことを考えてしまっていたことを反省しつつ、同様に壁面を見上げた。解放されたからそうだとは思うけれど、文字がぼやけて読めない。そうだった。さっき、眼鏡が顔から落ちたんだった。ドがつく近眼だからあれがないと、困るぞ。俺の眼鏡はいったい、どこに落ちた?
床を見渡すようにキョロキョロと視線を泳がすと、その行動に気づいたセルが落ちた眼鏡の場所まで歩き、身体を屈めてくれた。俺は抱かれたまま手を伸ばして眼鏡を取ると、それをかけて再度壁面を見上げた。
『ゲーム1 クリア』
壁面にはそう表示されていた。
「そう、みたい……」
「そうか」
別段、ほっとした様子もなくセルは答えた。よかった。いつものセルだ。……ん? いつものセルってなんだよ。セルはセルだよ。セル以上でもセル以下でもないよ。ただちょっと、ゲームの内容がアレで知らないセルの顔を見たというか……
何にしても、助かった。セル自身も危なかったわけだから、致し方なしだっただろうけど。でも、嫌がる素振りなくやってのけてくれたんだ。そのお礼はちゃんと言わなくちゃいけないな。
「あの、セル」
名前を呼ぶと、セルがこちらを見た。ただそれだけのことなのに、下腹の方から顔にかけて急に熱くなった。
「……っ」
「何だ?」
「その……あ、ありが……とう」
消え入るような声だったけれど、なんとかお礼を口にできた。意識しすぎだろ、俺……。
俺は逃げるように、セルからパッと顔を逸らした。失礼な態度をとってしまったが、セルは気にする様子なく「礼を言われることじゃない」と返した。
それよりも本人は、あることがずっと気になっていたようだ。
「ところで、一つ聞きたいんだが」
「う、うん。何?」
「べろちゅー、とはいったい何だったんだ?」
「へっ……!?」
ブン! と勢いよく顔を戻し、セルを見た。直前の羞恥はどこへやら、俺は目を見開き彼を見つめる。
ベロチューを、知らない……だと? そんなまさか……あんなにくったんくったんになるほどの濃厚なやつをぶちかましといて? 知らなくてやったんだとしたら、ものすごいテクニシャンじゃないか。うんうん。だからベロチュー自体を知らないわけじゃないんだろう。きっとベロチューって単語を知らないだけで、フレンチキスならご存知……そういう話だ。いや、ちょっと待て。ベロチューが伝わってないのに、なぜ舌を入れた? 異世界じゃキス=ベロチューなのか? それとも俺の伝え方がまずかったせいで、「しゃあねえ。ここまでやっとくかー」って感じで、クリアに向けて念には念を入れたってやつ?
な、何にしても、助かった……!!
「どうした?」
「う、ううん……なんでもない……」
このデスゲーム、いったい全部で何ステージあるのか知らないけれど、今度からルールはちゃんと、書いてある通りに伝えよう……!
ーーーーーー…
ーーーー…
ーー…
???side
オレは見ている。このゲームの行く末を。
「へえ……ギリギリだったが、なんとかクリアしたなぁ。ハードルが低すぎたかとも思ったが……まあ、こんなもんか」
ただの水面にゲームの進行をリアルタイムで映し、安全圏から彼らがゲームに振り回される様を観るのは、なかなかに楽しい。高みの見物というやつだ。ゲームを用意した者への特権だな。
ステージは複数用意したから、しばらくは観賞という形で楽しめるわけだが、はたしてオレの目論見通りにいくかどうか……まあ、それこそ賭けだな。
「さてさて、次は『ゲーム2』。『ゲーム1』よりもハードルが高いぞ。ククッ、楽しみだな」
誰もいない場所で一人、肩を震わせ笑う。しかしその前にインターバルだ。わざわざ用意したんだ。人間は脆弱な生き物だからな。
「ギャンギャンとうるせえのも退場させたことだし、この間にゆっくりと身体を休めてくれよ。なあ……聖者のおにーちゃん?」
キスなんて初体験をしたからか、同じ男相手なのに妙に意識してしまっている。その上、今はお姫様抱っこ! なんだよ、これ。俺が女子だったら即落ちするシチュエーションじゃないか。ときめいてしまったら、どうしてくれるんだ。
「スグル」
「ひゃっ、はい!」
「これでゲームはクリアしたことになるんだな?」
いつの間にか口角を下げていたセルは、壁面を見上げていた。コロッと切り替わるセルの姿勢に、俺は一瞬でも余計なことを考えてしまっていたことを反省しつつ、同様に壁面を見上げた。解放されたからそうだとは思うけれど、文字がぼやけて読めない。そうだった。さっき、眼鏡が顔から落ちたんだった。ドがつく近眼だからあれがないと、困るぞ。俺の眼鏡はいったい、どこに落ちた?
床を見渡すようにキョロキョロと視線を泳がすと、その行動に気づいたセルが落ちた眼鏡の場所まで歩き、身体を屈めてくれた。俺は抱かれたまま手を伸ばして眼鏡を取ると、それをかけて再度壁面を見上げた。
『ゲーム1 クリア』
壁面にはそう表示されていた。
「そう、みたい……」
「そうか」
別段、ほっとした様子もなくセルは答えた。よかった。いつものセルだ。……ん? いつものセルってなんだよ。セルはセルだよ。セル以上でもセル以下でもないよ。ただちょっと、ゲームの内容がアレで知らないセルの顔を見たというか……
何にしても、助かった。セル自身も危なかったわけだから、致し方なしだっただろうけど。でも、嫌がる素振りなくやってのけてくれたんだ。そのお礼はちゃんと言わなくちゃいけないな。
「あの、セル」
名前を呼ぶと、セルがこちらを見た。ただそれだけのことなのに、下腹の方から顔にかけて急に熱くなった。
「……っ」
「何だ?」
「その……あ、ありが……とう」
消え入るような声だったけれど、なんとかお礼を口にできた。意識しすぎだろ、俺……。
俺は逃げるように、セルからパッと顔を逸らした。失礼な態度をとってしまったが、セルは気にする様子なく「礼を言われることじゃない」と返した。
それよりも本人は、あることがずっと気になっていたようだ。
「ところで、一つ聞きたいんだが」
「う、うん。何?」
「べろちゅー、とはいったい何だったんだ?」
「へっ……!?」
ブン! と勢いよく顔を戻し、セルを見た。直前の羞恥はどこへやら、俺は目を見開き彼を見つめる。
ベロチューを、知らない……だと? そんなまさか……あんなにくったんくったんになるほどの濃厚なやつをぶちかましといて? 知らなくてやったんだとしたら、ものすごいテクニシャンじゃないか。うんうん。だからベロチュー自体を知らないわけじゃないんだろう。きっとベロチューって単語を知らないだけで、フレンチキスならご存知……そういう話だ。いや、ちょっと待て。ベロチューが伝わってないのに、なぜ舌を入れた? 異世界じゃキス=ベロチューなのか? それとも俺の伝え方がまずかったせいで、「しゃあねえ。ここまでやっとくかー」って感じで、クリアに向けて念には念を入れたってやつ?
な、何にしても、助かった……!!
「どうした?」
「う、ううん……なんでもない……」
このデスゲーム、いったい全部で何ステージあるのか知らないけれど、今度からルールはちゃんと、書いてある通りに伝えよう……!
ーーーーーー…
ーーーー…
ーー…
???side
オレは見ている。このゲームの行く末を。
「へえ……ギリギリだったが、なんとかクリアしたなぁ。ハードルが低すぎたかとも思ったが……まあ、こんなもんか」
ただの水面にゲームの進行をリアルタイムで映し、安全圏から彼らがゲームに振り回される様を観るのは、なかなかに楽しい。高みの見物というやつだ。ゲームを用意した者への特権だな。
ステージは複数用意したから、しばらくは観賞という形で楽しめるわけだが、はたしてオレの目論見通りにいくかどうか……まあ、それこそ賭けだな。
「さてさて、次は『ゲーム2』。『ゲーム1』よりもハードルが高いぞ。ククッ、楽しみだな」
誰もいない場所で一人、肩を震わせ笑う。しかしその前にインターバルだ。わざわざ用意したんだ。人間は脆弱な生き物だからな。
「ギャンギャンとうるせえのも退場させたことだし、この間にゆっくりと身体を休めてくれよ。なあ……聖者のおにーちゃん?」
55
お気に入りに追加
914
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。

俺が総受けって何かの間違いですよね?
彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。
17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。
ここで俺は青春と愛情を感じてみたい!
ひっそりと平和な日常を送ります。
待って!俺ってモブだよね…??
女神様が言ってた話では…
このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!?
俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!!
平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣)
女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね?
モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。


王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる