異世界での監禁デスゲームが、思っていたものとなんか違った

天白

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「ゲーム1」4

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「そんな……雅……」

 ただ生贄を……俺を恐怖に陥れる為だけに、雅はあんな惨い目に遭ったのか? 雅はゲームを放棄しただけだぞ。それなのにどうして、どうして……!

 依然、吊るされたまま、息を詰まらせ泣いていると、コツコツと踵を鳴らしながら誰かが近づいた。その人物はピタリと俺の前で立ち止まり、

「スグル」

 と、聞き馴染みのある綺麗な声で、俺の頭をそっと撫でた。

 俺は嗚咽を漏らしながらゆっくりと顔を上げ、その人物を見た。

「あ……ぅ…………せ…………セ、ル…………?」

 俺の前にいる人物は帝国最高位の騎士、セルだった。ゲームステージ外にいるはずのセルが、なぜここに? パクパクと口を開くも、しゃっくりのような声しか出ず、聞きたい言葉が上手く紡げない。

「う……ううっ……」

「スグル……」

 優しい言葉は望んでいない。責められても、罵られてもよかった。聖者を見殺しにした俺を、詰ってよかったんだ。なのに、セルは普段と変わらなかった。

「なぜ、ミヤビがあのような辱めを受けた? このゲームの内容は何だったんだ? 話せ」

 肩を震わせながら泣く俺に、セルは毅然とした態度で詰問する。ああ、そうか。今、俺を責めるのも、罵るのも、俺の気持ちが楽になるだけで何も意味がないんだ。

 俺は必死に涙を止めようと、息を長く吐いた。そしてセルへ目線を合わせ、状況を伝えようと口を開いた。その時だった。

「セル……? 首のそれ……」

 セルの首には、雅がつけていたものと同じ首輪がつけられていた。

 バッ、と壁面を見上げた俺は驚愕する。そこには、『新たにプレイヤーが選択されました』と端的に記されていた。続けて、壁面には先ほども目にした『ゲーム1』のルールが出現する。

 俺はもう一度、視線をセルに戻した。

「ま、さか……次の、プレイヤーって……」

 セルは何も言わない。ただコクン、と首を縦に振るだけだった。

「そんな……」

 壁面にはこれで何度目かしれない、「60」の数字が表示される。そこから「59」、「58」、と一秒ごとに正確なカウントダウンが無慈悲にも始まった。

 セルが壁面の数字を、目を細めて眺めながら言った。

「スグル。俺には壁に記されているゲームの内容がわからない。この前に行っていたゲームのように、問答の類ではないのだろう。だが、制限時間が一分であることだけは理解しているつもりだ。このままでは、どちらかが死ぬのだろう? 端的でいい。ルールを教えろ」

「それは……」

 俺は逡巡する。何せ、雅が放棄したゲームだ。先ほどまで、セル達がどういう心境で観覧していたのかはわからない。けれど、内容を伝えれば、絶対に俺の頭がおかしくなったのだと疑うだろう。

 もう一度、壁面を見上げる。『ゲーム1』。記された内容は、何度瞬きをしても変わらない。そうこうしている内に、カウントは「40」を切った。

「スグル」

「……っ」

 セルが名前を呼んだ。その声音は、普段と変わらず淡々としているのに、柔らかかった。

 怒鳴るでもない。叱責するでもない。これ以上、俺が不安にならないよう、普段と変わらない調子で名前を呼ぶことが、彼なりの優しさのような気がした。

 雅はゲームを放棄した。でも、雅が放棄したゲームをセルが放棄するとは限らない。

「ふ、ふざけて……ふざけて、言う、ことじゃない、から……」

 震える声で、俺はセルに前置きをする。ああ、そうだよ。雅が放棄したこのゲーム、本当は俺だってやりたくはない。ゲームオーバーになった時、絶望すると同時にどこかほっとしていたんだ。雅とやらなくて済んだって、それをやるくらいなら死んだ方がマシだって、一瞬でも思ってしまったんだ。

「そ、の………………す、しろって……」

「何?」

 顔から火が出るように熱い。小さな声で言ったつもりが、セルの耳にはまったく届かなかった。

 残り時間は「30」を切った。俺は下唇を噛み、セルを見上げた。かけかたが甘かった眼鏡が、目元から落ちてカシャン、と軽い音を響かせた。

「き…………き、キス……しろって……プレイヤーが生贄にっ……ベロチューしろって……そう、書いてあるっ……! それがこのゲームの……クリア条件なんだっ……!」

『ゲーム1。

・プレイ人数2人。プレイヤー1、生贄1。

・クリア条件→プレイヤーが生贄に接吻すること。また、プレイヤーは必ず、生贄の口腔内に舌を入れなさい。制限時間は1分。

・注意事項→魔法の使用は不可。時間切れ、または生贄が気絶した場合、失格とする』
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