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チュートリアル 8
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「あー、うるせえ、うるせえ。ちょっとは兄貴もこの状況を楽しめよ! ……答えは1。辛さを感じる味覚だろ?」
『正解』
正解の文字が点滅すると同時に、水槽の中の水位はピタリと止まった。
「チッ。水が止まりやがった。……だが、ずいぶんと男前になったじゃねえか」
「はあっ……はあっ……うっ……」
水は俺の胸まで上がった。首から上はまだ無事なものの、嘔気が込み上げて呼吸が上手くできない。こんなの、風呂やプールなら気にならないのに、着衣のまま浸かっているせいか、衣服が身体に貼りついて気持ちが悪い。
もう何でもいいから、早く終わってくれ……!
その思いが届いたのか、珍しく雅が俺の気持ちを代弁するように壁面に向かって言い放った。
「あと一問か。名残惜しいが、とっとと済ませるぜ」
これでケリをつける気だ。飄々とした態度が憎らしいのに、そのたっぷりの自信が今は何だか頼もしい。
「頼んだぞ……雅……」
俺は祈るように目を閉じた。すると、「は……?」と、間抜けた声が耳に飛び込んだ。
どうしたんだ? と、俺は壁面を見上げる。そして同じく「は……?」と、間抜けた声が零れるように漏れた。
出題された問題はこうだった。
『問題→男性にしかない臓器は何か? 答えなさい』
男にしかない臓器? それって前立腺のことか? 前に父さんが検査で引っかかったから覚えた臓器だけれど……あってるよな? それよりなんだか、さっきまでとクイズの傾向が少し違うような気が……気のせいか?
なんとも言えない違和感を覚えた。人体の構造についての質問なのだから、特に変な点はないはずなのに、出題傾向が妙に気になった。
しかし、それに気を取られていたせいで、雅の様子に気づくことができなかった。雅は後頭部をガシガシと掻きながら、回答に悩んでいた。
「え、何……男にしかない臓器? えーと…………チンコ?」
「バカッ……!」
思わず口に出た弟への侮辱の言葉。それが雅の耳に入らなかったのは不幸中の幸いか。壁面はパッと切り替わり、
『不正解』
と、表示された。雅は「やべ」と口元に手を当てる。止まっていたペナルティが、音を立てて再開した。
「うぶっ……!」
水流でガクン、と膝が折れ曲がり、顔が水面についてしまった。口を開けていたせいでそこから水が入り、一気に呼吸が苦しくなった。
水槽向こうで雅が、「今のはわざとじゃねえぞ。兄貴」と言い訳を口にしているが、こっちはそれを聞き入れてやるどころじゃなかった。
まだ足は床に着くというのに、水が口に入ったことでパニックになった俺は、バシャバシャと水面を叩いた。
「がぼ……げほげほっ……!」
「おいおい。ほんとに溺れそうじゃねえか……次! 早く出題しやがれ!」
目の前で兄が溺れ始めてさすがに焦ったのか、雅が余裕なく壁面に叫んだ。眼鏡が俺の顔から外れる寸前、壁面に問題が現れた。
『問題→男は射精なくエクスタシーを感じることができるか? 答えなさい』
眼鏡が顔から外れ、途端視界が不鮮明になった。いやいやいや、それよりも。さっきの問題は見間違いか? 射精なくエクスタシー? それってつまり、男も女のようにイけるかってことを聞いているのか? いや、イけないだろ。射精なくなんて……たぶん。
というか、さっきも思ったけれど、問題の出題傾向がガラッと変わったな? 今のこれは明らかに……
「何だよこれ……下ネタじゃねえか」
同じ疑問を雅も抱いたらしい。彼は喋れない俺に変わってそう言った。
けど、問題は問題だ。この答え如何によって、俺の生死が決まってしまう。
「み……み、や……び……」
息も絶え絶えになる俺は必死に雅を促した。雅が舌打ちをしながら、壁面に向かって答えた。
「あー、くそっ! 感じる、感じる! 野郎でもイけるって!」
半ばヤケになって口にした回答。これが適当じゃなくてよかったと心から安堵したのは、バコン! と派手な音を立てて水槽が解体された時だった。
「ぷはっ……! げほげほっ!」
勢いよく流れる水とともに、俺は水槽から追い出された。雅と同じ床に放り出された俺は、四つん這いになって咳き込んだ。
壁面を見ずともわかる。雅は正解し、この『ゲーム0』をクリアした。
今回、命懸けで得た知識。男でも射精なくイけること。
ものすごく、どうでもいい。
『正解』
正解の文字が点滅すると同時に、水槽の中の水位はピタリと止まった。
「チッ。水が止まりやがった。……だが、ずいぶんと男前になったじゃねえか」
「はあっ……はあっ……うっ……」
水は俺の胸まで上がった。首から上はまだ無事なものの、嘔気が込み上げて呼吸が上手くできない。こんなの、風呂やプールなら気にならないのに、着衣のまま浸かっているせいか、衣服が身体に貼りついて気持ちが悪い。
もう何でもいいから、早く終わってくれ……!
その思いが届いたのか、珍しく雅が俺の気持ちを代弁するように壁面に向かって言い放った。
「あと一問か。名残惜しいが、とっとと済ませるぜ」
これでケリをつける気だ。飄々とした態度が憎らしいのに、そのたっぷりの自信が今は何だか頼もしい。
「頼んだぞ……雅……」
俺は祈るように目を閉じた。すると、「は……?」と、間抜けた声が耳に飛び込んだ。
どうしたんだ? と、俺は壁面を見上げる。そして同じく「は……?」と、間抜けた声が零れるように漏れた。
出題された問題はこうだった。
『問題→男性にしかない臓器は何か? 答えなさい』
男にしかない臓器? それって前立腺のことか? 前に父さんが検査で引っかかったから覚えた臓器だけれど……あってるよな? それよりなんだか、さっきまでとクイズの傾向が少し違うような気が……気のせいか?
なんとも言えない違和感を覚えた。人体の構造についての質問なのだから、特に変な点はないはずなのに、出題傾向が妙に気になった。
しかし、それに気を取られていたせいで、雅の様子に気づくことができなかった。雅は後頭部をガシガシと掻きながら、回答に悩んでいた。
「え、何……男にしかない臓器? えーと…………チンコ?」
「バカッ……!」
思わず口に出た弟への侮辱の言葉。それが雅の耳に入らなかったのは不幸中の幸いか。壁面はパッと切り替わり、
『不正解』
と、表示された。雅は「やべ」と口元に手を当てる。止まっていたペナルティが、音を立てて再開した。
「うぶっ……!」
水流でガクン、と膝が折れ曲がり、顔が水面についてしまった。口を開けていたせいでそこから水が入り、一気に呼吸が苦しくなった。
水槽向こうで雅が、「今のはわざとじゃねえぞ。兄貴」と言い訳を口にしているが、こっちはそれを聞き入れてやるどころじゃなかった。
まだ足は床に着くというのに、水が口に入ったことでパニックになった俺は、バシャバシャと水面を叩いた。
「がぼ……げほげほっ……!」
「おいおい。ほんとに溺れそうじゃねえか……次! 早く出題しやがれ!」
目の前で兄が溺れ始めてさすがに焦ったのか、雅が余裕なく壁面に叫んだ。眼鏡が俺の顔から外れる寸前、壁面に問題が現れた。
『問題→男は射精なくエクスタシーを感じることができるか? 答えなさい』
眼鏡が顔から外れ、途端視界が不鮮明になった。いやいやいや、それよりも。さっきの問題は見間違いか? 射精なくエクスタシー? それってつまり、男も女のようにイけるかってことを聞いているのか? いや、イけないだろ。射精なくなんて……たぶん。
というか、さっきも思ったけれど、問題の出題傾向がガラッと変わったな? 今のこれは明らかに……
「何だよこれ……下ネタじゃねえか」
同じ疑問を雅も抱いたらしい。彼は喋れない俺に変わってそう言った。
けど、問題は問題だ。この答え如何によって、俺の生死が決まってしまう。
「み……み、や……び……」
息も絶え絶えになる俺は必死に雅を促した。雅が舌打ちをしながら、壁面に向かって答えた。
「あー、くそっ! 感じる、感じる! 野郎でもイけるって!」
半ばヤケになって口にした回答。これが適当じゃなくてよかったと心から安堵したのは、バコン! と派手な音を立てて水槽が解体された時だった。
「ぷはっ……! げほげほっ!」
勢いよく流れる水とともに、俺は水槽から追い出された。雅と同じ床に放り出された俺は、四つん這いになって咳き込んだ。
壁面を見ずともわかる。雅は正解し、この『ゲーム0』をクリアした。
今回、命懸けで得た知識。男でも射精なくイけること。
ものすごく、どうでもいい。
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