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チュートリアル 4
しおりを挟む「なっ……スグルを?」
バイロンが信じられないとばかりにミヤビの顔を見た。セルやルイスは何も言わないものの、なぜ俺を選んだのかとそれぞれが視線だけでミヤビに回答を求めた。
「んなもん、消去法に決まってんだろ」
ミヤビは悪びれることなく、むしろ当然といった様子で両腕を組んでみせた。つまり彼が言いたいのは、「生贄」といういかにもな役割がいったいどんなものかを知る為、この中で最も役に立たない俺に実験台……いや、文字通り生贄になれ、ということだ。
そりゃそうだ。未知のゲームステージでいったいどんなゲームをさせられるのかわからない以上、迂闊に強い手札は使えない。奥の手は誰だって温存しておきたいものだ。
揃っている面子を考えれば当然の帰結だった。だから雅の決断に、驚きはあまりなかった。
ただ……何をさせられるのかわからないからか、内心とてもビビっている。デスゲーム系の映画鑑賞時はあんなにもドキドキしたのに、それがいざ自分の身に降りかかるとなるとドキドキも別の意味になる。
精神が疲弊する系統のゲームも嫌だけれど、何が一番嫌かって聞かれたら痛い系だ。拷問系も嫌だし、殺し合い系も嫌だ。真っ赤なぐるぐるほっぺのお人形が三輪車を漕ぎながら残酷なゲームを言い渡しに来た日にはもう、絶望しかない。俺みたいなとろくさいやつは、そもそもゲームのルールがまともに入らずお陀仏になるのがオチだ。
映画の中で行われた過激なデスゲームの数々を走馬灯のように思い出し、だんだんと顔が青ざめていく俺を見て、バイロンがミヤビに抗議した。
「考え直せ、ミヤビ。このゲームとやらで、スグルにもしものことがあったら……」
「だからこそだろ。お前らが精鋭揃いなのは知ってるけど、残念ながらこのゲームとやらを仕組んだ黒幕さんはお前らの能力を遥かに上回る奴だ。お前らは俺の護衛だ。ここを脱出した後にも、俺を守る義務がある。その護衛が、こんなところで命を削っちゃならない。俺とお前ら、そして兄貴の命の価値は、残念ながら平等じゃねえ」
淡々と告げる雅にバイロンがぐう、と押し黙った。そうだ。雅の言うように、ここにいる者達の命の価値は平等ではない。ここからの脱出はもちろんだが、脱出した後に五体満足でいなければならないのは、俺を除く四人だ。
どう見たってプレイヤーには向いていない俺がどこかで役に立つのだとしたら、犠牲を払わなければならないだろう「生贄」だ。ゲームも全員参加しなければならないのだとしたら、なおさら。
「実の兄だぞ」
バイロンがそれでも、雅に思いとどまるように言うも、雅はフーッと呆れたような長いため息を吐いた。
「それ、戦場でも同じことが言えんの?」
血の繋がりなど今さらだ。雅にとって、俺の価値はないに等しい。
「だが……」
「やめろ。バイロン」
「しかし、ルイス」
「雅の言うことはもっともだ。口惜しいがな」
「ぐう……」
粘るバイロンに、ルイスは諦めるよう首を振った。聖者に最も従順なのは、彼だったか……と、俺は思った。しかしルイスは、雅に釘を刺すように言葉を続けた。
「だが、まずはチュートリアルだ。ミヤビだって、わざわざスグルにいなくなって欲しいわけではないだろう。少しでも危険を感じたら、本題のゲームに進む前に身を引け」
「わかった。わかった。そん時は、選手交代させてもらうさ」
「それがいい」
バイロンがようやく納得したように頷いた。皆、俺に優しいな。でも……
三人を尻目に、雅はニヤニヤと俺に不敵な笑みを見せる。そしてこっそりと、「まあ、一ゲームごとに役割を変更できたらの話だけどな」と、無情な台詞を囁いた。
「ところで」
ふと、セルが最終確認とばかりに雅に尋ねた。
「プレイヤーは本当にお前でいいのか?」
「俺を何だと思ってんだ。お前らの魔力だって無効化にできる聖者様だぞ。勝ち要素はこの中で一番あんだろ」
「そうか」
その言葉を聞いて、セルはあっさりと引き下がった。実は、聖者、聖者と崇められる弟の力を、よく知らないでいる俺。雅が実際に力を使うのは、俺が立ち寄れない魔物の棲む森だから、目にしたことは一度もないんだ。しかし護衛の騎士がごねないということは、雅の力は相当なものらしい。
もう引き止める者がいないとわかると、雅は俺を引き連れ「ゲームステージ」の扉前に立った。
ああ、本当にやるんだ。デスゲーム。どうか。どうか、痛くない系でありますように! 俺は心の中で強く祈った。
緊張でゴクリと喉を鳴らすと、扉に手をかけた雅が声を低くして言った。
「この俺がゲームとつくものに負けるわけもねえが……万が一お前に危機が迫ったとしても、力は使わないぜ?」
改めて宣言されると、傷つくというよりはいっそ清々しいな。俺は一呼吸を置いてから、雅に答えた。
「……ああ。それでいいよ」
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