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チュートリアル 2
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雅が訝しむように片眉を上げた。
「チュートリアルぅ? しかも何で日本語なんだよ」
「ニホンゴ?」
「俺らのいた世界の言語だよ。それも、とある島国でしか使われていない、限定的な言語だ」
聞き慣れない単語を復唱したルイスに、雅は壁面から顔を逸らすことなく彼に答えた。そして当然に浮かぶ疑問が、誰かの口から零れるように漏れた。
「なぜ、異世界の言葉なんだ……?」
俺はポカン、と口を開けて羅列する文章を眺めていた。本当になぜ、日本語なんだ? あっちの世界じゃ他にも言語はあっただろうに。いや、これが仮に英語やら韓国語やらイタリア語やらだとしたら、いくら元いた世界でもお手上げだったけれどもさ。でもでも、やっぱり聞きたい。あえて聞きたい。なぜ、日本語? ここはイヴミリヤ大帝国じゃないのか?
ますます謎めく事態に、俺は記された日本語を流すように読んだ。雅が口にした「チュートリアル」という単語はゴシック体に近い書体でデン! と表示されている。これで一行。そのすぐ下に、ご丁寧な説明があった。
「ミヤビ、スグル。どちらでもいいから、何と書いてあるのか俺達にもわかるよう読み上げてくれ」
業を煮やしたバイロンが、黙読する俺と雅を促した。口を開く前に雅の様子を覗うと、雅は呆れたような顔で壁面の文章を読み上げた。
「マウスボックスにてお集まりの皆さん、おはよう、こんにちは、こんばんは。さて、皆さんには今から『ゲームステージ』にて簡単なゲームを行ってもらいます。命を賭けたちょっとしたゲームです。優秀な皆さんなら、さくさくっと終わらせることができるでしょう。そんな皆さんでも説明がないとゲームはできませんよね? まずはここにいる皆さんの中から、プレイヤー1人、生贄1人を選んでください。大丈夫。これはチュートリアルです。雲よりも軽い気持ちで選びましょう。次に、選ばれたプレイヤーと生贄の2人は後方の赤い扉より『ゲームステージ』へ入場してください。それ以外の方の入場は認めません。このマウスボックス内でルールは絶対です。もしもルールを破った場合、その時点で失格とします。皆さん仲良くお陀仏になってください。……だってよ。後方のゲームステージぃ?」
全員が同時に振り返り、そして息を呑んだ。つい先ほどまでは何もなかった反対側の壁に、大きな両開きの赤い扉が出現していたんだ。
扉の上には蛍光色で『ゲームステージ』と表示されており、何やら禍々しいものを感じた。
「はっ! おちょくってきやがる」
「罠か?」
「だろうな」
「皆、気を抜くなよ」
物音一つすらなく現れたそれに、この場にいた全員が警戒する。その中で、密かにテンションが上がった人間が一人。
「おい、クソ兄貴。何、口元をニヤつかせてんだよ」
「えっ? 嘘っ?」
俺は慌てて自分の口元に手をあてがった。やばい。そんなにニヤニヤしてたのか? 俺。あ、ほんとだ。口角上がってるわ。自分が笑っていることに、言われて気がついた。
いやでもさ。これ、完全にデスゲームじゃん。映画で何度も見たやつじゃん。そういう流れじゃん。姿を見せないゲームマスターがご丁寧にチュートリアルまで書いて、いかにもなゲーム会場へ誘ってるじゃん。そんでもってルールを破ったら仲良くお陀仏って……もうお約束じゃん。これで興奮するなって方が無理な話じゃないか?
さながら、映画の聖地にでも訪れたかのような興奮が俺の中を駆け巡る。不謹慎だとはわかっていても、展開が予想をなぞらえているせいで、ついつい口元が緩んでしまった。
「スグル、何か心当たりでもあるのか?」
「へっ?」
セルがいつもの調子で俺に尋ねた。続いてルイスとバイロンの二人も怪訝そうに俺を見る。えっ……何これ? もしや俺、疑われてる? ニヤついていたから?
慌てた俺は彼らの前で、ブンブンと首を振って否定した。
「違う違うっ! ただ、見たことある展開だなって思って……特に何かを知っているわけじゃないんだよ。本当に。その、元の世界で観たことのある映画があって……」
「えいが?」
「あ、そっか。こっちじゃ映画はないんだった……えーっと、そう、お芝居! お芝居にこういうジャンルの物語があって、それに似てるなって思ったんだ。それだけだよっ」
俺は必死に弁明した。でも、必死になればなるほど様子が怪しく見えたのか、ルイスとバイロンの表情が、より険しくなった。
「ほう」
「芝居ね……」
「チュートリアルぅ? しかも何で日本語なんだよ」
「ニホンゴ?」
「俺らのいた世界の言語だよ。それも、とある島国でしか使われていない、限定的な言語だ」
聞き慣れない単語を復唱したルイスに、雅は壁面から顔を逸らすことなく彼に答えた。そして当然に浮かぶ疑問が、誰かの口から零れるように漏れた。
「なぜ、異世界の言葉なんだ……?」
俺はポカン、と口を開けて羅列する文章を眺めていた。本当になぜ、日本語なんだ? あっちの世界じゃ他にも言語はあっただろうに。いや、これが仮に英語やら韓国語やらイタリア語やらだとしたら、いくら元いた世界でもお手上げだったけれどもさ。でもでも、やっぱり聞きたい。あえて聞きたい。なぜ、日本語? ここはイヴミリヤ大帝国じゃないのか?
ますます謎めく事態に、俺は記された日本語を流すように読んだ。雅が口にした「チュートリアル」という単語はゴシック体に近い書体でデン! と表示されている。これで一行。そのすぐ下に、ご丁寧な説明があった。
「ミヤビ、スグル。どちらでもいいから、何と書いてあるのか俺達にもわかるよう読み上げてくれ」
業を煮やしたバイロンが、黙読する俺と雅を促した。口を開く前に雅の様子を覗うと、雅は呆れたような顔で壁面の文章を読み上げた。
「マウスボックスにてお集まりの皆さん、おはよう、こんにちは、こんばんは。さて、皆さんには今から『ゲームステージ』にて簡単なゲームを行ってもらいます。命を賭けたちょっとしたゲームです。優秀な皆さんなら、さくさくっと終わらせることができるでしょう。そんな皆さんでも説明がないとゲームはできませんよね? まずはここにいる皆さんの中から、プレイヤー1人、生贄1人を選んでください。大丈夫。これはチュートリアルです。雲よりも軽い気持ちで選びましょう。次に、選ばれたプレイヤーと生贄の2人は後方の赤い扉より『ゲームステージ』へ入場してください。それ以外の方の入場は認めません。このマウスボックス内でルールは絶対です。もしもルールを破った場合、その時点で失格とします。皆さん仲良くお陀仏になってください。……だってよ。後方のゲームステージぃ?」
全員が同時に振り返り、そして息を呑んだ。つい先ほどまでは何もなかった反対側の壁に、大きな両開きの赤い扉が出現していたんだ。
扉の上には蛍光色で『ゲームステージ』と表示されており、何やら禍々しいものを感じた。
「はっ! おちょくってきやがる」
「罠か?」
「だろうな」
「皆、気を抜くなよ」
物音一つすらなく現れたそれに、この場にいた全員が警戒する。その中で、密かにテンションが上がった人間が一人。
「おい、クソ兄貴。何、口元をニヤつかせてんだよ」
「えっ? 嘘っ?」
俺は慌てて自分の口元に手をあてがった。やばい。そんなにニヤニヤしてたのか? 俺。あ、ほんとだ。口角上がってるわ。自分が笑っていることに、言われて気がついた。
いやでもさ。これ、完全にデスゲームじゃん。映画で何度も見たやつじゃん。そういう流れじゃん。姿を見せないゲームマスターがご丁寧にチュートリアルまで書いて、いかにもなゲーム会場へ誘ってるじゃん。そんでもってルールを破ったら仲良くお陀仏って……もうお約束じゃん。これで興奮するなって方が無理な話じゃないか?
さながら、映画の聖地にでも訪れたかのような興奮が俺の中を駆け巡る。不謹慎だとはわかっていても、展開が予想をなぞらえているせいで、ついつい口元が緩んでしまった。
「スグル、何か心当たりでもあるのか?」
「へっ?」
セルがいつもの調子で俺に尋ねた。続いてルイスとバイロンの二人も怪訝そうに俺を見る。えっ……何これ? もしや俺、疑われてる? ニヤついていたから?
慌てた俺は彼らの前で、ブンブンと首を振って否定した。
「違う違うっ! ただ、見たことある展開だなって思って……特に何かを知っているわけじゃないんだよ。本当に。その、元の世界で観たことのある映画があって……」
「えいが?」
「あ、そっか。こっちじゃ映画はないんだった……えーっと、そう、お芝居! お芝居にこういうジャンルの物語があって、それに似てるなって思ったんだ。それだけだよっ」
俺は必死に弁明した。でも、必死になればなるほど様子が怪しく見えたのか、ルイスとバイロンの表情が、より険しくなった。
「ほう」
「芝居ね……」
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