異世界での監禁デスゲームが、思っていたものとなんか違った

天白

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ただ帰りたかっただけなのに… 5

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 嘘だろ……と俺は心の中で落胆する。だってそうだろう。明日は元いた世界に戻る日だったんだ。ずっとずっと願っていて、一年近くも待って、それでやっと……やっと、帰れると思っていたのに。待ち望んでいたのに。

 俺はただ、帰りたかっただけ。なのに神様……いったい何の恨みがあって俺をこんな目に遭わせるんですか?

 ショックなんてものじゃない。こんなわけのわからない場所に俺達を閉じ込めた不届き者は、いったいどいつだ。何が目的なんだ。何の恨みがあるんだ! 俺はガクリと項垂れた。

「スグル。大丈夫?」

 攻撃魔法を止めたらしいルイスがやって来て、俺の様子を気にかけてくれた。そうだ。閉じ込められたのは俺だけじゃない。ここにいる他の皆も被害者なんだ。俺はゆっくり顔を上げると、ルイスに向かってヘラッと笑ってみせた。

「ああ……うん。大丈夫。セルも、ありがとう。ちょっと、あまりのことに混乱してて、頭が追いつかなくて……」

「混乱~? 兄貴が混乱したところで、この状況が変わんのかよ。鬱陶しいっ。使えねえ無能はその口閉じてろ!」

 だいぶ顔の強張りが解けたらしい雅が、セルから離れた俺にいつもの調子で怒鳴りつけた。その後ろから、「落ち着け」とバイロンが雅の保護者のように一緒についてくる。

 これで全員。それも、帝国が誇る精鋭達が揃いも揃って捕らわれた。今さらだけど、これは相当ヤバい事態だ。大事件だ。俺達を閉じ込めた犯人とやらは、この凄腕三人と聖者の力を上回る手練れということになる。

 未知の閉鎖空間にいると、次第に人は余裕がなくなる。たとえ俺が「あ」とか「う」などの一語を呟いたとしても、雅は「黙れクソゴミ!」と罵倒するだろう。俺は「悪い……雅」と短く謝り、それ以上は何も言わないことにした。

「さて」

 ルイスが代表して、口火を切った。

「見たところ、どこかの部屋だということ以外は何もわからないな。監禁場所を特定しようにも、方角すらわからないこの状況では位置情報を得ることはほぼ不可能。おまけに妙な香が空間を漂っているせいでバイロンの鼻が利き辛くなっている。これでは我々以外の者の匂いが特定できない。一方で私は簡単な魔法を使えるが、この部屋は魔法による攻撃を吸収するらしい。どれだけ攻撃をしても、ただ己の魔力を消耗するだけで意味がなかった。その上、剣や弓、鈍器といった得物はすべて抜き取られている。我々をここに閉じ込めた者は、相当の手練れだ」

 俺はセルの腰に視線を落とした。本当だ。剣がない。トレーナーにジーンズ姿の俺は眼鏡以外のアイテムを持っていないけれど、皆元から着ていた軍服と靴以外のすべてをその身から剥ぎ取られていた。

「獣も使えないのか? バイロン」

「完全に、というわけではないが、この腕輪が俺の魔力を封じ込め、獣を扱えないようにしている」

 見慣れない腕輪がバイロンの手首にしっかりと固定されている。ビーストテイマーもお手上げのようだ。

 敵国の仕業? いや、大帝国として各国より恐れられているこの国の精鋭達だけでなく、国の要となる聖者すらも捕らえたとあっては、たちまち世界的規模の大戦争が始まってしまう。いくら敵国とはいえ、安易に行える拉致ではない。では、オークやゴブリンといった魔物の類か? いや、それも違うだろう。魔物は詠唱が必要なほどの高度な魔法がそもそも使えないという。最高位の魔術師ルイスの攻撃魔法を吸収するなど、詠唱もなしに行えるものじゃない。そんなの、素人の俺にだってわかる。

 じゃあ、いったい誰が? 何の目的で?

 チラリ、チラリと、俺は視線だけで捕まったメンバーの顔を見る。うん。一つだけわかったことがある。犯人の目的が何なのかはわからないけれど、これだけは確実だ。間違いない。

 俺以外の四人は帝国のお宝。金や宝石よりも価値は高い。対して俺は、精鋭揃いの中に紛れたただのパンピー。市場で売ったとしても、二束三文。誰が好んで拉致る?

 前回の異世界転移に続きこの様だ。俺はまたも、巻き込まれた。

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