異世界での監禁デスゲームが、思っていたものとなんか違った

天白

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ただ帰りたかっただけなのに… 1

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 ――――…


 それはささやかながら、そこそこ楽しい宴だった。

「せっかくこちらの世界での生活にも慣れてきた頃だというのに、明日が今生の別れになってしまうとは……いやはや、わかっていても寂しいものだな」

 酒を片手にエルフのルイスがしみじみと漏らした。二十代そこそこの外見の彼は、今年で齢五百歳を迎えるらしい。長寿のエルフからすると、人間の寿命が短すぎるので自身が年老いているという自覚はないようだが、そんな穏やかな口調に貫禄が乗っているように聞こえるのは、彼の精神年齢が滲み出ているからこそなのか。まあ、飲んでいるのはザ・辛口一献! の清酒( しかもジョッキ)だけれど。ともあれ彼はいつか自分が老いた時に理想とする大人の男性像そのものだ。

 けれど、自分は歳を重ねたところでこういった男にはなれないだろう。俺は人間で彼はエルフ。そもそも種族が違う。ついでに中身も。

 俺は愛想笑いを浮かべながら、ルイスに礼を言った。

「ありがとう、ルイス。おまけの存在なのに、今日までみやびと同じように接してくれて嬉しかったよ」

 これは本音だ。本来なら歓迎されるはずのない俺が今日まで殺されず、どころか申し分のない衣食住を与えられ、無事に生きてこられたのは、この世界の彼らが異世界からやってきた人間に対して非情に寛容で好意的だったからだ。

 虎の顔を持つ獣人の男性バイロンが、向かいから俺とルイスの中に割って入った。

「聖者のミヤビはともかく、スグルは巻き込まれただけだからな。術師の召喚魔術が雑なせいで……。こちらこそ、本当に申し訳ないことをした。帝国を代表して謝罪する」

「バイロンのせいじゃないから、そんなに謝らないでくれ。この国の人達からは、もう充分よくしてもらったんだ。これ以上、俺が望むことなんてないよ」

 世界の半分以上を制し、異種族が混合し共存するようになった世界を造り上げたのが、彼の言うこのイヴミリヤ大帝国。その都市から少しだけ離れた場所にあるお城の敷地内スミに設けられたこの小さな小さな小屋が、俺が暮らす家だ。身の丈二メートル以上もある獣人のバイロンには申し訳ないが、仮住まいだから小さくていいと言った俺にここは充分すぎる広さで、見た目とは裏腹に結構快適に暮らしてきた。

 普段は一人で過ごすここに、今は大人が四人使えるテーブルを無理やり押し入れ、各自持ち込んでもらった酒やご馳走が並べられた。送別会だ。俺、釘岡くぎおかすぐるは一年近く住んだこの世界とお別れをする。元いた世界の日本という小さな島国へ戻るためだ。日本でフリーターだった俺は元々、望んでこの世界に来たわけでも、望まれてこの世界に来たわけでもない。ただのおまけとして異世界転移をしてしまった運の悪い男だ。

 当初は戸惑い、悲観した。それでもめげずにやってこれたのは、この国の人々から疎外されずに生きられたからだ。たぶん、半分は人々の優しさ&同情によるもので、もう半分は俺の容姿の珍しさから無視できなかったんだろう。日本人ならさほど珍しくもない、黒い髪と黒い瞳がこの国ではないらしい。そりゃそうだ。銀髪やら赤髪やら、オレンジ髪やら青髪やらと、この世界の人達の髪と目は眩しいほどカラフルだ。元の世界じゃ、分厚い黒縁眼鏡をかけた猫背のもやし陰キャなんて、ただ息をするだけで疎まれた存在だったというのに、恐ろしいことよ……。その逆の客寄せパンダをこれでもかと味わった。

 でもそれも、今日でおしまい。俺はずっと、元の世界に戻りたかった。異世界転移なんてファンタジー、そうそう体験できるものじゃないけれど、根っから暗い俺には「オタク、きも~い」と言われながら日陰で暮らすのがお似合いだ。待遇はこちらの方が遥かにいいし、仕事ももらえて生活にも困らなかったのは事実だけれど、それもやはり「彼」の存在があったからこそだ。

 俺はビールの入ったジョッキを取りながら、辺りを見渡した。

「そういえば、セルは? 二人と一緒に来ていたんじゃ……」

「へええ~。すんげえご馳走! これ、ルイスとバイロンが用意したのか? 我が帝国が誇る魔術師とビーストテイマーの二人を従えるなんざ……大層なご身分だなぁ、うちのお兄様はよぉ」

「……雅」

 ドカドカと足音を立てて入ってきたのは、もやしの俺とは正反対のガタイのいい青年だった。釘岡雅。俺とは二歳違いの弟だ。もちろん、実の。

 しかし悲しいことに、俺達が並んで立つとまず兄弟とは思われない。そもそも俺が兄とは思われない。よくて舎弟。悪くて子分。冴えないモテないむさくるしい俺と違って、雅は華やかで格好よく異性にモテた。モテモテだった。それはこの世界に来てからも同様で、彼はこの大帝国から歓迎、祝福された存在だった。

 聖なる不思議な力を持つ人間。人はそれを聖者という。雅は長年、大帝国を支えてきた歴代の聖者の生まれ変わりで、魔物の脅威から国を守るのに必要不可欠な存在だった。これまでは聖者が死ぬたびに大帝国のどこかしらには生まれ変わっていたので困らなかったものの、今世ではたまたま異世界の日本に生まれてきちゃったので、この国の魔術師が慌てて召喚術を使って雅を転移させた。

 で、その時雅からカツアゲをされていた俺が、彼に触れていたことで一緒に転移してしまったというわけだ。
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