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んじゃ、好きにさせてもらおうか 1

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 屋敷へ戻ると、側近の鳥頭は滝のような涙を流して「魔王」……いや、マオを出迎えた。片腕が失くなっているんだから当然か。ちなみに、千切れた腕は回収してあり、回復魔法をかければ元通り引っつくらしい。しかしその為の魔力が今は少なく、屋敷の中にいる従者に頼んで治癒してもらうことになった。

 ゴブリンも、身体を蹴飛ばされたダメージはあったものの、人間よりはよほど頑丈らしく、屋敷に着くなり仕事モードに入って元気に動き始めた。

 真夜中だから俺を寝かせようと自室へグイグイ引っ張るゴブリンの頭をそっと撫でると、にっこり笑って俺の脚に抱きついた。

 身体を屈めて、改めてゴブリンにごめんと謝ると、「いいよ」と今度は俺の頭を撫でてくれた。

「優しいだろう?」

 マオが言うと、俺の両目からは涙が溢れた。

 何を意固地になっていたんだろう? ドロドロと甘い蜜のような巣窟で、舐めたら最後と自分で自分を戒めていた。

 社畜根性? 何言ってんだ。俺はもう社畜じゃない。ただの奴隷だ。

 流され、流され、生きてきて……そこが甘い巣だったなら。蜜の中で溺れればいい。

 俺はマオに、「ごめん」と謝った。マオは俺の肩を抱き寄せ、背中を撫でてくれた。

 その後、マオは話をすると言って俺に自室で待つように言った。俺もまた、マオの口から語られる真実が知りたかった。

 あの様子だと、マオは最初から俺が前世での田畑瑛士だということに気づいていたんだな。ならば、俺を競り落としたこと、俺をペットにしたこと、俺を抱いたことにどんな意味があったのか……

 それらの説明を求めるのと同時に、不安が募る。もしかしたら、俺を憎んであんなことをしていたのかもしれないからだ。その場合、憎まれる理由に心当たりはないけれど……。

 汚れたままでは失礼だろうと、俺は身体を拭いて新しい服に着替えた。いつものフード付きのトレーナーだ。これも、俺の好みだって知っていたから、作ってくれたのかな?

 マオの手当てが終わり、腕がついた状態で部屋へ来るまでの時間はさほどかからなかった。「どうせなら、裸で待っていればよかったのに」と、意味不明のことをあいつはほざいた。

 ゴブリンがわざわざ二人分のお茶を用意してくれたので、俺はゴブリンにも休むよう伝えた。すると、ゴブリンは俺の膝の上に乗り、そのままコテンと眠りについてしまった。疲れていたんだろう。俺はゴブリンの背中を撫でた。

 その様子を眺めながら、マオはどこから話そうかと本題に入ってくれた。

「まず前提として、この世界での時間の流れと前世での時間の流れは異なるものだと思ってくれ。俺が神木真弦として生き、そして死んだのは、もう何百年も前の話だ」

「なんびゃ、く……?」

 俺は声がひっくり返った。確かに、こいつは昔の神木の面影がないし、口調も佇まいも全く違う人物に見える。外見が違うのはさておき人はここまで変わるものなのか? と疑問があったけれど……何百年も経てば口調はおろか、性格だって変わるよな、と。妙に納得してしまった。

 マオに先を続けるよう、俺は促した。

「お前はどうやって生まれ変わったか知らないが、俺は前世で親よりも先に死んだことが罪となり、この世界に落とされた。はじめは人間で、さっき消し炭にしてやったアレがそうだ」

「やっぱり、あれはお前だったのか……けど、どうして中身が入れ替わっているんだ?」

「大昔に、俺がこの身を売るから魔力をくれ、と魔物と取引をしたんだ。魔物は人の身体を使って悪さをしたかったようだし、俺はこの世界で生きる為に力をつけたかった。その為には手段を選ばなかった。俺はその後も、身体を取っ替え引っ替えしながら生きていって、最終的にこの身体を得た」

 めちゃくちゃ美形の、とんでもボディになってるけどな。

 こういうのがこいつの趣味なのか? という疑問が、言葉にせずとも顔に出ていたらしい。違う、と額を小突かれた。くそ……相変わらず、俺の額をイジメやがって。

 思わず緩む口元を悟られないよう、俺は自分の口をパカッと大きく開けた。

「あの神木モドキ、なんで舌を抜かれていたんだろう?」

「ああ……アレは俺の身体に移るなり、ベラベラと喋り出して煩かったからな。黙らせる為に千切って捨てた」

「仮にも自分のだぞ……」

 ちなみに、マオの元の身体が歳を取らずに今日まで腐っていなかったのは、成長を止めて腐敗防止の魔法をかけていたからとのこと。本当に、魔法ってのは際限がない。

 マオの方も、まさかこんなタイミングで自分の身体に巡り合うとは思いもしなかったと呟いた。

「罰とはいえ、新たに生まれ変わったのだから、前世でやれなかったことを片っ端からやることにした。力を手に入れ、知識を身につけ、俺は商売を始めた」

「商売?」

 するとマオは、自分の蟀谷をトントンと叩いた。

「魔物よりここが良かったからな。お前は俺を『魔王』と言っていたが、正体はただの商売人だ。商才もあったのか、稼ぎに稼いで今の地位を築いた。この世界でてっぺんといえば、あながち間違っていないのかもな」

 うわっ……恥ずかしい!

 じゃあ、何だ? 「まおーさま」って言ってたあの魔物、こいつの本名を伸ばして言っただけ? それでなんで消されなきゃいけねえの!?

「消してないぞ、その魔物」

「え!?」

「お前、考えていることがすぐ顔に出るクセ、なかなか直らないな」

 綺麗な顔でクスクスと笑われる。俺は赤くなる自身の顔を手で覆い隠した。

 ちなみにその魔物は性質上、口が軽いからという理由で配属を変えられただけらしい。何だ……それならそうと言ってくれよ。心臓に悪いわ。
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