【完結】「んじゃ、好きにさせてもらおうか」〜転生したら、「魔王」の愛玩動物になった話

天白

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甘い蜜 己の罪 2

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 ――――…



「は~あ……」

 俺は部屋の窓から薄暗い外を眺め、長い溜め息を吐いた。今日も今日とて暗雲が垂れ込める、い~い天気ですね。

 エイシこと田畑瑛士。「魔王」の愛玩動物となってから、早いもので三ヶ月が過ぎた。季節はわからん。この世界にはっきりとした四季は存在しない。

 その日々は相変わらず、「魔王」に抱かれまくって地獄のようだというのに、対して身体はすこぶる好調だ。

 雨風にさらされることなく、屋根つきの部屋で快適に過ごしていることや、ここで食える飯が適量で栄養豊富だということが大いにあるだろう。しかも美味い。

 一ヶ月を過ぎた頃から、「魔王」は様々なことを許し始めた。屋敷内であれば好き勝手に徘徊してもオーケーで、外の庭は「魔王」か俺付きのゴブリンと共になら出てもいいことになった。

 敷地外へ出されることはないけれど、最近じゃ一人で過ごす時間も長く感じられるようになった。ゴブリンに聞いたら、「魔王」は仕事が山のように溜まっているらしい。こっちに構ってないでとっととやれよ、仕事。

 基本的に食事と睡眠と、「魔王」の性欲処理の時以外は暇な為、屋敷の中を探検したり、まるで図書館のような書斎にある書物を読んだりして過ごしている。奴隷の身分だったが、前の主が俺に識字を仕込んでくれていたおかげで楽しめる。

 あと、衣類か。部屋の中では要らないだろ、と言われてほとんど裸で過ごしていたけれど、部屋の外にはいろんな魔物が「魔王」に仕えている。大事なペットの肌は、たとえ従者であっても晒したくないらしい。通気性が良く、触り心地のいい上質な布地でできた人用の服を何着か用意してくれた。下は紐で調整のできるズボンだが、上は前世で好んで着ていたトレーナーにデザインが似ている。しかもフード付き。学生時代はこれが楽で、制服以外はずっとトレーナーばかりだったんだよな。

 靴もサンダルのような素足で履ける物を与えられたから、歩くのもいい運動になっている。身体だけは健康まっしぐらに進んでくれていた。身体だけはな。

 心の方はというと、この屋敷から出たい気持ちが日に日に増していた。三ヶ月も経てば、あの男の執着心も落ち着くだろうと踏んでいたのに……甘かった。

「魔王」は俺に飽きるどころか、日に日にその愛情を増やしていった……というより、過保護になった。

 俺を抱く時は相変わらずのサディストっぷりだが、それ以外は親のように世話を焼いてくる。俺の起床に間に合えば着せ替え人形のごとく服を着替えさせるし、俺が勝手に部屋を出る際はいちいち出てきて「服は着たか?」、「靴は履いたか?」と確認してくるし、食事の際は俺を自分の膝の上に乗せてせっせと食べさせる。赤ん坊じゃねえんだからとそれを拒むと、排泄の手伝いは我慢しているとか怖いことをほざくので、食事だけはされるがままにしている。

 溺愛、というんだろう。かなり屈折しちゃいるが、あの男なりの愛し方なのかもしれない。

 正直なところ、身体はすっかり慣れてしまった。この屋敷で掃除も洗濯も調理も配膳もすることなく、日がな一日を暇だと思いながら過ごすことに。

 そして男に抱かれることにも……

 手荒れだってない、風邪も引かない、空腹を感じる暇さえない。ここまで来れば、昔のような奴隷に戻ることの方が酷というもの。あとは俺の気持ちだけ。堕ちてしまえば、きっと楽だ。

 だけど……

「……できるかよ、そんなの」

 窓のガラスに拳を打ちつけ、誰に向けるでもなく呟いた。

 苦しい。今、とても息苦しいんだ。

 助けて。助けて。助けて。

 助けて、かみ……

『エイシ』

「ひっ!?」

 突然、俺の耳元で虫が湧いたようにあの男の声が囁いた。助けを求めたかった男の声ではなく、一番遠ざけたかった男のだ。

 俺は自身の右耳朶に触れると、指を滑らせある物に触れる。少しだけ熱を感じるそれは、ピアス式で俺の耳朶に貫通し装着されている。しかし普段の生活に支障がないよう、耳朶からはみ出ることなく小さなガラス玉の形となっている。色は瞳の色と同じブルーだ。

 聞こえた声は、ここから発せられた。俺は僅かな悲鳴を上げたものの返事はせず、男の次の言葉を待った。どうせ、悲鳴を上げた俺に不服だろう?

『そんなに怯えなくともいいだろう。通信魔法については一から説明したはずだが?』

 ほらな。予想通り、こいつは……「魔王」は不満を乗せた声音で俺に話しかけた。

 てめえだから怯えんだよ。つうか、いきなりかけてくんな。
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