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ペットじゃねえよ 6
しおりを挟むキスくらい減るもんじゃなし。そんな風に軽く見ていた昔の自分をぶん殴りてえ。
一通り堪能したのか、互いの唇が触れ合うくらいの距離間で、暗い瞳が俺を見つめた。そして妖艶な吐息とともに言葉を紡ぐ。
「お前は良い目をしているよ、エイシ。……ああ、色じゃなくて、この目つきがな」
眉間に皺を寄せている動物がお気に入りとは、理解できない好みだな。俺は視線だけをこいつから逸らした。それがどうねじ曲がれば好印象として捉えられる?
爽やかな香りのする息を吹きかけながら、こいつは俺に尋ねた。
「お前は反抗的な態度を改めないけれど、最近こう思うんだ。俺に構われたくてわざとそうしているのか、って……本音はどうなんだ?」
脳ミソが腐ってんのか、こいつは!?
そんなわけがあるか、と。俺が口を開こうとした時……
「うひゃうぅっ!?」
「まあ、どちらでもいいことだな」
俺のものだから、と。
「魔王」は俺の「中」に、遠慮も宣言もなく指先での侵入を開始した。
女が相手なら男が侵入する先は命が生まれ出るアソコしかない。しかしこれが同じ男相手なら、それはどこになるのか。悲しいことに、その知識だけは事前に持っていた。それはこの身体が有していたわけではなく、前世の俺が興味本位で調べたことによるものだったが。
実際、男の勃起した肉棒が人の肛門へ入るものなのか……それは訓練を積んだプロの方々しか踏み込めない領域だと思っていた。自分の指でさえ恐ろしく感じるというのに、他人の……それも、大柄な男の肉棒を受け入れることなどできるはずもない。
できるはずも、なかったのに……。
俺のそこは、この男の指を二本も食い始めたんだ。
うねうねと動くそれは這いずり回る蛇のようで気持ち悪い。蹂躙ならさっきまでのキスも同じだったのに、上と下では感覚がまるで違った。いや、本来はそうなんだよ。毒されるな、俺! 下はむしろひり出すところだぞ!
しかもスムーズに入りやすいように、指に何かが塗りたくられている。潤滑剤なんて出している様子すらなかった。これも何かの魔法か? ローションのような魔法なんて……ま、まさか、スライ……
「お前が考えているような有機物ではないよ。まあ、少しばかり媚薬を混ぜたがな」
「は……?」
頭の中に浮かんだ水色のモンスターを即座に否定され、安堵したのも束の間。その後に続いた単語に、俺は間抜けた声を漏らした。
びや、く? びやくって……媚薬か? 性欲を高めたりするとかいう、あの……
そんなものをなぜ、混ぜる? 理由はあっさりと教えてくれた。
「昨夜、たくさん可愛がってやったばかりだからな。あまり摩擦が過ぎると楽しめないだろう?」
「ぅあぁっ!」
グッと根本まで指を押し込められると、腹の圧迫感から小さな悲鳴が上がった。いや、それだけじゃない。擦れるような痛みが伴い、息が苦しい。
昨夜も散々、この「中」を使われた。その前夜も、さらにその前夜も。
俺は「魔王」に抱かれている。オークションで競り落とされたあの日の夜から……ずっとだ。
孕まなければ同性の方が都合がいいのか、避妊対策はもちろんのこと、性感染症対策すらされずに俺はこいつに組み敷かれる。つまり、生のままされるということだ。「魔王」だからか、感染症の心配は要らないんだろう。
また、デカい図体は見かけ倒しではなく、オスの象徴であるアレは馬並みな上に精力も底抜けときている。当然ながら人間の俺はついていくことができず、果てる度に回復魔法をかけられ強制的に復活させられる。
終わりは決まって、こいつが満足したらだ。もう無理、と俺が泣き叫んでも、普段は優しいくせにそれだけは聞き入れてくれない。
これがこいつを拒む理由だ。それでもまだ、俺が羨ましいってか?
痛苦による涙が目尻から伝い落ちる。尻の方はすっかり開発……じゃない、拡張されたとはいえ。頻繁に摩擦を起こせば痛みの方が勝るというのに。
「魔王」は名実ともにサディスティックだった。
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