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ペットじゃねえよ 5
しおりを挟む何度か瞬きを繰り返すと、真上にこいつの顔が現れる。
一瞬で背筋が凍るのがわかる。喉の奥から、「ヒュッ」と変な音が漏れた。
「上手くできたら、好きな餌をやろうと思っていたのに」
先ほどまでの優しげな笑みはどこへやら。こいつは本来の、性根の腐った意地悪い微笑へと貼り替えた。
腹の方は、盛大なイビキを掻いている。それで目が覚めたのだから当たり前だ。だからといって、こいつの言いなりになって飯を乞うくらいなら、腹の虫を鳴らし続けている方が何倍もマシだ。
「……くっ」
今から俺への「遊び」が始まる。決して逆らったからではない。俺が従順であっても、こいつはそうしていただろう。オークションで競り落とした時に言った、「可愛がってやる」は本気の言葉だった。
纏っていたシーツを剥ぎ取られると、一糸纏わない姿が露になった。筋肉の鎧を纏う「魔王」とは雲泥の差の、モヤシのようなひょろっちい身体はどこからどう見ても美味そうではない。しかしこいつは、自身の上唇を艶かしく舐めた。
サッと俺の両手首を掴んでシーツに縫いつけると、こいつはデカい身体を覆い被せてきた。そして細い首筋に自身の唇を充てがい、チュッと音を立てながら吸啜行為を始める。
「んあっ……はあっ……」
その部位が元から性感帯なのか、俺が特別敏感なのか……どちらにせよ、この口からは女のようなあえぎ声が上がる。断っておくが、前世で性経験が豊富だったわけでも、この身体が慣れているからでもない。ましてや女役なんて……
「感度が良くなってきたな」
「う、るせ……ああんっ!」
いちいち余計なことをほざくこいつが、やたら声を上げさせようとしてくるのが悪いんだ。決してよがり狂っているわけじゃねえ。
散々、首周りを責められた後、「魔王」は一旦顔を起こしてうっすらと微笑んだ。蠱惑的にも映るそれは、俺が男でなかったらイチコロだろう。
やたらご満悦な様子だが、いったい何が楽しいんだろうか。俺は今、呼吸を整えるのに必死で余裕がない。吸啜の後、身体に残るのはキスマークくらいだが、マーキングで喜ぶわけがない。
「はあっ……はあっ……んんむぅ」
俺は酸素を取り込みたいのに、「魔王」がそれを阻止しようと俺の口を自身のそれで塞いだ。くぐもった声と共に、粘り気のある水音が俺の耳を犯してくる。
口腔に舌を挿し込まれると、背中の辺りがゾクゾクと総毛立った。恐ろしいからか、おぞましいからか……いずれにせよ、ろくな反応じゃない。
俺の口を堪能するこいつのキスは、いったいこれまでどれだけの数をこなしてきたのか、思わずそう考えてしまうくらいに上手い。
息する隙だけは与えつつも、決して俺を離さない。絡まる舌は柔らかなのに弾力があり、無味のはずなのに不思議な味を感じる。舌から口蓋を舐められると、臍の下が熱くなった。
気持ちいい……。不覚にも、そう思ってしまった。
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