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ペットじゃねえよ 3
しおりを挟むけれど、その魔王が主だからといって俺は鞭で叩かれるわけでも、飯を抜かされるわけでもない。そういった痛い暴力の支配は今のところ一切ない。
一切ない、が……むしろそっちの方が何倍も、何倍もマシだった。マジで。
豚たちに捕まったあの頃、この身体の中で鳴った警報は幻聴でも何でもなかった。
どこに競り落とされようが、俺の人生は終わっていたに違いない。でもこいつ以上に最悪な主はいなかったんじゃないだろうか。
こいつは一向に起きない俺の耳元に唇を近づけると、一層低い声で囁いた。
「エイシ。まだ寝ているのか?」
ああ、くそっ。息を吹きかけんな。シーツ越しでも伝わるんだよ。耳が羽根箒で擽られるようにむず痒い。
一瞬だけ、俺の身体が小さく跳ねた。そんなつもりはなかったのに。俺を見下ろしていたこいつは「フッ」と短く、そして意地悪そうに笑った。
「寝ているなら、好都合だな」
わざとらしい物言い。俺が反抗していることも、わかってるくせに。こいつは俺を、まだ「寝ている」と捉えたんだ。「寝ている」と捉えたくせに……
そうして、いつもの「遊び」が始まった。
「うひゃうっ!?」
どっから出たのか、俺の口から甲高い悲鳴が上がった。何が起きたのか、理解をするよりも先に上がったそれを抑えようと、シーツから両手を離し、慌てて口元を塞いだ。
何をされた? バクバクと鳴る心臓を抱えながら、俺は感覚を研ぎ澄ました。
シーツの上から何かが当たっている。温かく、なだらかな、でも少しだけゴツゴツしているもの。ああ、見なくともわかるさ。すっかり覚えちまったこいつの手だ。
それはまるでナメクジが這い回るように、ちょうど腰周りを弄られていた。触るなら普通に触ればいいだろ。普通に!
実際に遭ったことがないからわからねえが、痴漢のオヤジが女の子の身体を触る時ってこんなんじゃねえのかな? と、思わせるような、そんなやらしい触り方をこいつはしてくる。
シーツ越しだというのに俺の腰、そして肉と骨の溝に沿って今度は腹の方へと手を回してきた。
「……っあ、ん……あ、あんっ……」
口元を塞いでいる手の意味がない。前世じゃ一度も上げたことのない、淫らな喘ぎがくぐもりながらも漏れてしまう。生まれ変わった身体は女の子じゃないってのに。どうしてこんなに敏感なんだ。
臍の下に指が当たる。考えてみたら、俺はこのシーツの下に何も着けていない。そう、丸裸というやつだ。シーツを噛ませているとはいえ、直に触れられるよりも刺激が強い。人間の俺と大して変わらない肌色の指が、ただ皮膚の上をなぞっているだけだというのに。
痛みなら耐えられた。この身体は幾度も幾度も経験してきたからだ。でも経験のない、こんな優しい触り方は、身体の方が音を上げる。
「あっ……!?」
下腹からさらに指が下りた時、一層身体がビクンと跳ねた。
ああ、もう! 起きるよっ……起きてやるよ!
頭がヤケになる。俺は勢いよくシーツを捲って上体を起こした。
「フーッ……フーッ……」
鼻息荒く威嚇しながら睨みつけるも、目の前のこいつには全く効いていないのか。余裕かつ緩やかに笑みを浮かべてきやがった。
「……っ」
「おはよう、エイシ」
くっそ……! 同じ男なのにっ……!
どうして直視できないんだ……!?
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