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俺は死んだ

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『ばーか。こんなんで俺が死ねるかよ』

 そう言ってシニカルに笑うお前の顔は、ムカつくくらい清々しくて、ムカつくくらい格好よかった。

 死ねるかよって、そう言っていたのに。俺を小馬鹿にして、見下して、いってぇデコピンをかましたくせに。

 なんだよ、それ。

 お前、次の日すぐに死んじゃったんじゃん。

 明日でいいよって、俺ん家から持ってきた映画のブルーレイも山積みの書類の下敷きにしてさぁ。その明日がなかったくせに。まだ十八歳だったのに。人間って、そんな簡単に死んじゃうのかよ。

 ちっぽけ。腫れた瞼からとめどなく流れる涙をそのままに、呆然と立ち尽くしながらそう思った。

 通夜や葬式は、あっけないもんだった。友人や知人も少なかったからか、参列者も焼香をあげる人間も僅かだった。

 俺も死んだらこうなんのかな。せいぜいお前より長く生きて、たくさん家族を作って、惜しまれながら看取られる人生を歩んでやるよ。何も言わないあいつの墓前に、そう誓った。

 月日は淡々と流れていき、俺も大人への階段を上っていった。なのにスピードはガキの頃と違ってジェットコースター。あっという間に三十路のおっさんになろうとしていた。

 気づいた時には、会社と家を往復するだけの虚しい毎日。趣味も恋人もなーんもない、つまらない人生。

 そしてある日、俺は死んだ。

 あっけねえ。死んでみて改めて思ったわ。なんだよ、このクソ人生。だってまだまだこれからだぞ? 今は晩婚の時代なんだから、三十路を迎えてからが人生の本番だろ? 社会的地位を築いて、金貯めて、保険入って、家も建てて……あ、その前に嫁さんを貰わなきゃだけど。結局のところ、それらができんのって今からだろ? 二十歳そこそこで結婚して子供作って一家の大黒柱ってのは、いったいいつの話よ? 男として生まれたってのに、何一つとしてやり切れてねえよ。

 だいたいなんで死んだんだよ。病気? 過労死? ストレス? SAN値が振り切っていたこと以外は全く心当たりがねえんだけど! いったい何が原因で死んだんだー!?

 心の中でどれだけ叫んでも、答えなんか返ってくるわけがない。そりゃそうか。実家にある仏壇にさえろくに手を合わせないような無神論者だったし、翼の生えた優しい誰かがお迎えに来てくれるなんて期待もしてねえよ。先進した島国に生まれたがゆえのテンプレートな社畜だったから、きっと頭のどこかがプッツンいっちまったんだろう。親に勧められた人間ドッグでも受けときゃ、何かが違ったんかな。

 今の俺には感覚がない。思考? 思念? こうして何かを考えることがかろうじてできるくらいで、以前あった四肢は動かせない。真っ暗で、何もなくて、誰もいない。

 俺、本当に死んじまったのか。なんだかなぁ。もうちょい意味のある人生、送るつもりだったんだけど……死んじまったら、本当に何もできねえんだな。

 ずっと昔に死んだあいつ、どんな気持ちだったんだろ? 考えたって、仕方ねえけど。

 あ~あ。なんかもう、どうだっていいや。

 青春は一瞬で、夢は抱く前に砕け散るような人生だった。後悔はあったけれど、死んでから何かを望むほどのものじゃない。

 さあ、俺をどこへでも連れていけ。煮るなり焼くなり好きにしろ。

 まあ、死んだ先が何もないってんなら、願ったり叶ったりだけど……



「んじゃ、好きにさせてもらおうか」



 ……へ?
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