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いくら王道といえど、決してふざけてはいけないこともあるのです

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 ピリリ。ピリリ。

 ん……んんう~。何? うるさいです。目覚まし、鳴ってます……う~。

 ピリリ。ピリリ。

 うう~。わかった。わかりました。起きますよ。起きればいいんでしょ。

 ピリ……カチッ!

「ふああ~!」

 うん。七時ちょうどですね。おはようございます。よく寝た~。

 豪快かつ男らしい欠伸をしつつ、ピンと背を伸ばす僕。うん。窓から差し込む朝日が良い感じに眩しいです。今日もはりきってこのぷちストレス社会で戦っていきましょう。

 ベッドから離れると、すぐさまパジャマのボタンに手をかけ、クローゼットにかけてある学生服へと着替えを始めます。クローゼットは部屋に一つしかないので、これはルームメイトであるあの野郎と共同で使用しています。あの野郎は誰かって? ふん。あの野郎はあの野郎で充分です。毎回毎回、僕をまるで都合のよいオナホールのごとく扱うあの野郎のことなど、名前で呼んでやる義理などありません。

 いつか不能になってしまえばいいのに。

 ちゃちゃっと着替えると、僕はクローゼットの開き戸に手を掛けました。

「ん?」

 すると、ある事に気がつきました。いえ、本来ならクローゼットを開けた時に気がつくべきだったのでしょう。しかし僕は着替えを全て完了させたところでようやく気がついたのです。ボケボケだったとは言わせません。僕は奴に関することに、関心がないだけです。

 制服。それがまだ、一着分、クローゼットに残っていたのです。もちろん、僕は制服に着替えているので、ここに残っているのは奴の分、ということになります。

 おかしいな。いつもなら、僕よりも奴の方が早く起床して、着替えも完了しているはずなのに。

 僕は首を傾げつつ、僕のベッドとは反対の方にある、もう一台のベッドへと視線をやりました。するとなんということでしょう。僕は信じられない光景を目の当たりにしたのです。

「ね、寝てる?」

 朝の七時。この時刻なら、いつもは空のはずの片方のベッドが、こんもりと盛り上がっていました。それも人型に。びっくりしすぎて思わず目を見開いちゃう僕です。え? マジで? マジでまだ寝てるの?

 いつもなら。いつもなら品行方正の生徒会長を演じるために、日の出と共に目覚まし時計なしでも起床しているはずのこの人が、寝坊だなんて!

 この光景があまりにも信じられない僕は、息を殺してその存在を確かめようとします。いやだって、つま先から頭のてっぺんまで布団の中なんですもん。つか、何。この人、いつもそんな感じで寝てんの?

 え? なんにも聞こえないけど、大丈夫? 寝息すら聞こえないんだけど、大丈夫? 生きてる? 生きてる?

 し、死んでないでしょうね? え、嫌ですよ。この状況でこの人、隣で死んでいたのだとしたら、同じ部屋の僕が疑われるじゃないですか。僕、ヤってないからね。いくら憎き人物であっても、僕、殺ってないからね。

 すぐに部屋を飛び出し、沙耶ちゃんに手紙を出した後で行方をくらますべきかと迷いましたが、とりあえずは呼吸をしているかどうかを確かめようと、そろそろと奴に近づきました。

 ベッドでシーツに包まっている奴の身体を、慎重に目を凝らして見てみます……僅かっ! 僅かですが、上下に動いています! なんだ。生きてたか。チィッ!
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