【完結】その家族は期間限定〜声なきΩは本物に憧れる〜

天白

文字の大きさ
上 下
49 / 51

番外編「早すぎる倦怠期?」1

しおりを挟む
【秀一視点です】


 十二月三十一日。大晦日。

「パパ! おもちゃのおかたづけできたよ!」

 五歳の息子、純が腰に手を当てながら、顎を上げて誇らしげな顔を見せる。この時、オレ達は新しい年を迎えるべく、家の中の大掃除に励んでいた。

 とはいえ、まだまだ幼い純にできることは限られている。純には主に、自分の部屋の片付けと雑巾がけというミッションを与えた。それでたった今、片付けの方が終わり、こちらへ自信満々に報告しにきたわけだが、それは整理整頓というには惜しい出来映えだった。

 それでも彼なりに自分で考え、工夫して玩具や人形の類を収納ボックスへ入れたのだから、ここは褒める一択だ。

「おー、綺麗に片付けたな。すごいすごい」

「ふふーん! ぼく、いい子だもーん」

 頭を撫でてやると、さらに胸を張っていい子アピールをする純。親の贔屓目抜きにしても、純は素直でいい子に育った。だが、彼自身がわざわざそこをアピールしてくるのには理由があった。

「ねぇ、パパ。ぼく、いい子だからまたサンタさん、来てくれるかなぁ?」

 つい先週、クリスマスという子どもにとっての一大イベントを終えたばかりだというのに、もうサンタクロースを恋しがっている。純からしたら、タダで好きなプレゼントを運んでくれるおっさんだ。一年に一度とは言わず、二度でも三度でも来て欲しいくらいだろう。

 オレもガキの頃、こんなんだったかなぁ? と思いながら、「そうだな」と一瞬だけ目線を上にした。

「こっから一年、いい子にしてたら、プレゼントが入った大きな袋を担いで来てくれるよ」

「いちねん……」

「今日が一日。それを三百六十五回迎えたら一年な」

 純に向かってそう言うと、彼は「さんびゃくろくじゅうご……」と自分の両手を見つめて、真剣に指を折り始めた。

「両手じゃ、ちと足りないな」

 改めてその小さな頭にポンポンと手の平を乗せると、今度はパタパタとこちらへ駆けてくる足音が聞こえた。

 開放された部屋の扉からぴょこっと顔を出すのは、エプロン姿のオレの妻こと藍時だった。

「純。秀一さん。お蕎麦ができましたよ」

 年末といえば年越し蕎麦だ。藍時が扇家にやって来るまで、我が家の年越し蕎麦はカップ麺だったわけだが、今回は豪奢にも海老を殻から剥くところから始め、調理した天ぷら蕎麦だ。味見はせずとも、廊下から漂う出汁のいい香りがそれを美味いと言っている。

 サンタクロースに会える日を夢中で数えていた純も、蕎麦ができたと耳にするなり、ママの下へと駆け出した。

「おそば! ぼくのえびさんのってる!?」

「純がスーパーで選んでくれた海老さんは、天ぷらにして乗せてあるよ」

「天ぷら! おっきい? おっきい?」

「大きいよ。これくらい」

「わあ! ママ、ありがとう!」

 藍時が両手を使って作った天ぷらのサイズを伝えると、純は両手を上げて喜んだ。

 そんな純の笑顔に、口元を緩ませる藍時。うちの嫁さん可愛いなぁ、と思いながら「オレの天ぷらも?」と尋ねて藍時に近づき、その細い腰を抱こうと手を伸ばした。

 だが。

「えっ? あ……はい。よ、用意してます」

 藍時はサッと身を翻したかと思えば、純と同じ目線までしゃがみ込んだ。

 オレの行き場のない手は空を掴み、低くなった藍時を見下ろした。

「ぁ……えっと……」

「ママ、早くおそば食べよ?」

「そ、そうだな。うん。一緒に行こうか」

 藍時は言い訳を探すように、キョロキョロと視線を泳がしたものの、純に急かされともに部屋を後にした。

「何でオレは駄目なんだ……?」

 息子と手を繋ぐ妻の後ろ姿を眺めながら、オレはボソリと呟いた。

 ここ数日、オレは妻に避けられている。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》

市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。 男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。 (旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。

噛痕に思う

阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。 ✿オメガバースもの掌編二本作。 (『ride』は2021年3月28日に追加します)

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

捨てられオメガの幸せは

ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。 幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

処理中です...