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第1章 本章
第20話 異世界二日目・前編
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異世界の朝は早い――こともない。私が早起きしただけだ。
お城の人に案内されて、食堂で朝食を取る。部屋まで食事を持ってきてくれると言ったが、断った。
食事を終え、1時間ほど間を置いてから今日も訓練場で特訓を行う。
今日は森繁さんはいない。ペンダントのおかげで、他の人とも話せるようになったからだ。
森繁さんは、今日は私の世界のほうに行っているらしい。
向こうでもやる事があって大変だな……。私は私で頑張らないと。
昨日、訓練している時に森繁さんの傍にいた護衛の兵士の人が、代わりに指導してくれている。
昨日の反復練習だ。さすがにペンダント型魔道具を付けながらの練習は危ないので、外した状態で訓練を行うのだが、やはり言語が通じないのはもどかしい。すぐ傍にペンダントは用意してあるので、会話を行う事はできるのだが……。魔道具無しでもある程度話せるように、最低限の単語は覚えたほうが良さそうだ。
訓練自体は順調に進められ、今日の訓練も無事に終わった。
街へ繰り出すことにした私は、昨日一緒に街を回ってくれたリンにお願いすることにした。
準備を整えて、引き続き街の中を散策しにいく。
気分転換も含めて、この世界の事を知るには良い機会だ。
街の広場までやってきた。やはりここは人だかりが多い。
おや? 遠くの方で、何かを叫んでいる人がいる。
「スリだー!」
魔道具を通して聞こえてきた“街の人の声”だ。
「リン。こういうことは、良くある事なのかい?」
「いいえ、中島様。治安の良い我が国では珍しきことにございます。それもこんな白昼堂々と」
あ、盗っ人と思わしき人物がこっちに走ってきた。
「中島様。お下がりください」
私を守る様に盗っ人の前に立ち塞がったリンは、腰に帯刀してた細剣を引き抜く。
「大人しくお縄につきなさい!」
「ッ……! 邪魔だ!」
盗っ人は、短剣を懐から取り出し乱雑に振り回す。
リンは自身の剣で男の短剣を弾く――だけでは終わらないのがプロの兵士か。
剣を弾かれて態勢を崩したところへ前蹴りを放つ。
男の体に伝わったその衝撃の慣性は、盗っ人を転倒させるのに充分な一撃を放っていた。
「さぁ、大人しくなさい」
剣を構え、投降を促す――。
男は諦めた表情……か? 違うな。リンも男の表情に気づいている。
「わ、わるかった。こ、これは返すよ……」
腰のカバンから手のひらに収まるくらいの物体を取り出し
「「 ! 」」
閃光が当たりを明るく照らす。一瞬垣間見えたそれは異物だった。
考えが纏まらない。異物って能力を授けるだけのモノではなかったのか?
とにかくその明るさから逃げるように目を覆う事しかできなかった。
視力が回復し、辺りを見回せるくらいになると。既に盗っ人は消えていた。
「リン! 大丈夫か!」
男の真正面に立っていたリンは閃光をまともに食らってしまって、地面から立ち上がる事ができない。
「〇×△#! &#□×!」
え、何を言っているか聞き取れない。
まさかと思い、自身の胸元を確認すると――。魔道具が――ない。
物を盗まれた人の心境。私の心模様は、あたりを見回すことに思考が優先されていた。
盗んだ犯人を捜さないと……。
ああ、もどかしい。せめて言葉が通じれば、近くにいる街の人に
“怪しい人がいなかったか”とか“逃げる人を見なかったか”など、声を掛ける事もできるのに。
体が走り出そうと動き始めた時。リンに腕を掴まれた。
「ナカ×マ! △〇×%!」
何かを私に伝えたいのだろう。でも言葉が分からない。そうだ。落ち着こう。
先ずはリンが動けるようになるまで待つんだ。お城に戻ろう。
私は、リンに肩を貸し、歩けるように補助をした。
「×△……。#〇□……」
何かを伝えようとしてくれている……。ゴメン。分からない。
とにかく、リンの足先はお城に向かっている。そう。とにかくお城に戻るんだ。
次第に歩けるようになったリンは、私を先導し、お城まで一緒に回帰するルートを歩んでいる。
何事もなければいいが。なんて……何事も無いわけはない。
こういう時に“何事”が連鎖して起きるのは必然であった。
突然、目の前に現れた人影。さっきの、盗っ人――だけじゃない。
こん棒、短剣、様々な武器を持った相手が複数人いる。犯罪者集団か?
彼らの目線は、私に向けられている。
“魔道具という高価なものを持ち歩いていた私”
“その人物を護衛するかのように傍にいた国の兵士”
犯罪者集団にとって私たちは、狙われるには格好の的だったのだ。
リンの顔が怒りの表情にジワジワと変わっていく。
「×△□!! 〇#%……!」
細剣を構え、敵の集団に対し、一歩も引く気配は無い。それは兵士たる所以か……。
私も武器は持ち歩いていないが、戦いの構えを取る。
犯罪者集団の笑い声だけが周りに響き渡っていた。
お城の人に案内されて、食堂で朝食を取る。部屋まで食事を持ってきてくれると言ったが、断った。
食事を終え、1時間ほど間を置いてから今日も訓練場で特訓を行う。
今日は森繁さんはいない。ペンダントのおかげで、他の人とも話せるようになったからだ。
森繁さんは、今日は私の世界のほうに行っているらしい。
向こうでもやる事があって大変だな……。私は私で頑張らないと。
昨日、訓練している時に森繁さんの傍にいた護衛の兵士の人が、代わりに指導してくれている。
昨日の反復練習だ。さすがにペンダント型魔道具を付けながらの練習は危ないので、外した状態で訓練を行うのだが、やはり言語が通じないのはもどかしい。すぐ傍にペンダントは用意してあるので、会話を行う事はできるのだが……。魔道具無しでもある程度話せるように、最低限の単語は覚えたほうが良さそうだ。
訓練自体は順調に進められ、今日の訓練も無事に終わった。
街へ繰り出すことにした私は、昨日一緒に街を回ってくれたリンにお願いすることにした。
準備を整えて、引き続き街の中を散策しにいく。
気分転換も含めて、この世界の事を知るには良い機会だ。
街の広場までやってきた。やはりここは人だかりが多い。
おや? 遠くの方で、何かを叫んでいる人がいる。
「スリだー!」
魔道具を通して聞こえてきた“街の人の声”だ。
「リン。こういうことは、良くある事なのかい?」
「いいえ、中島様。治安の良い我が国では珍しきことにございます。それもこんな白昼堂々と」
あ、盗っ人と思わしき人物がこっちに走ってきた。
「中島様。お下がりください」
私を守る様に盗っ人の前に立ち塞がったリンは、腰に帯刀してた細剣を引き抜く。
「大人しくお縄につきなさい!」
「ッ……! 邪魔だ!」
盗っ人は、短剣を懐から取り出し乱雑に振り回す。
リンは自身の剣で男の短剣を弾く――だけでは終わらないのがプロの兵士か。
剣を弾かれて態勢を崩したところへ前蹴りを放つ。
男の体に伝わったその衝撃の慣性は、盗っ人を転倒させるのに充分な一撃を放っていた。
「さぁ、大人しくなさい」
剣を構え、投降を促す――。
男は諦めた表情……か? 違うな。リンも男の表情に気づいている。
「わ、わるかった。こ、これは返すよ……」
腰のカバンから手のひらに収まるくらいの物体を取り出し
「「 ! 」」
閃光が当たりを明るく照らす。一瞬垣間見えたそれは異物だった。
考えが纏まらない。異物って能力を授けるだけのモノではなかったのか?
とにかくその明るさから逃げるように目を覆う事しかできなかった。
視力が回復し、辺りを見回せるくらいになると。既に盗っ人は消えていた。
「リン! 大丈夫か!」
男の真正面に立っていたリンは閃光をまともに食らってしまって、地面から立ち上がる事ができない。
「〇×△#! &#□×!」
え、何を言っているか聞き取れない。
まさかと思い、自身の胸元を確認すると――。魔道具が――ない。
物を盗まれた人の心境。私の心模様は、あたりを見回すことに思考が優先されていた。
盗んだ犯人を捜さないと……。
ああ、もどかしい。せめて言葉が通じれば、近くにいる街の人に
“怪しい人がいなかったか”とか“逃げる人を見なかったか”など、声を掛ける事もできるのに。
体が走り出そうと動き始めた時。リンに腕を掴まれた。
「ナカ×マ! △〇×%!」
何かを私に伝えたいのだろう。でも言葉が分からない。そうだ。落ち着こう。
先ずはリンが動けるようになるまで待つんだ。お城に戻ろう。
私は、リンに肩を貸し、歩けるように補助をした。
「×△……。#〇□……」
何かを伝えようとしてくれている……。ゴメン。分からない。
とにかく、リンの足先はお城に向かっている。そう。とにかくお城に戻るんだ。
次第に歩けるようになったリンは、私を先導し、お城まで一緒に回帰するルートを歩んでいる。
何事もなければいいが。なんて……何事も無いわけはない。
こういう時に“何事”が連鎖して起きるのは必然であった。
突然、目の前に現れた人影。さっきの、盗っ人――だけじゃない。
こん棒、短剣、様々な武器を持った相手が複数人いる。犯罪者集団か?
彼らの目線は、私に向けられている。
“魔道具という高価なものを持ち歩いていた私”
“その人物を護衛するかのように傍にいた国の兵士”
犯罪者集団にとって私たちは、狙われるには格好の的だったのだ。
リンの顔が怒りの表情にジワジワと変わっていく。
「×△□!! 〇#%……!」
細剣を構え、敵の集団に対し、一歩も引く気配は無い。それは兵士たる所以か……。
私も武器は持ち歩いていないが、戦いの構えを取る。
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