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一章 -幼少時代-
―ザギの決断と動き出す影― 1
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それから一週間、二週間と時間が過ぎていき、二人が城に来てから一ヶ月以上の時が経っていた。この一ヶ月で二人は随分と城での生活に慣れ、リオと三人で朝から夜まで一緒にいることが徐々に当たり前になってきていた。
しかしザギの胸に落ちた不安は消えることがなく、ふとした瞬間に寂しさが頭をもたげては、一人になった時にひそかに泣くこともあった。
そんな日常を繰り返していたある日、いつものように朝の挨拶周りをしに近衛騎士の独身寮に顔を出すと、いつもとは打って変わってピリピリとした空気がホールに漂っていて、誰もが真剣な表情で支度をしていた。
「おはよー! どうしたの? 今日はなんだかみんな真剣だね。何かあった?」
「あぁ、リオ殿下。おはようございます。実は国土防衛軍から緊急の要請が入ったんですよ。何でもここ最近、魔狼が町まで来ては人々を襲うという事が繰り返されているらしくて…。最初は魔物退治専門の傭兵や、防衛軍が出て討伐されていたんですけど、どうも普通の魔狼ではないらしく、体躯も普通の魔狼に比べて大きく、知能も発達しているのか、連携攻撃や他方で同時に襲撃をするなどの行動が見られてどこも苦戦しているんですよ。だから、王城衛兵や我々近衛騎士が応援として派遣される事が決まったんですよ」
「へぇー、結構厄介だね。どれくらいの人が応援に行くの?」
いつものおちゃらけた様子は無く、真剣気味に問いかけると、背後からその答えが返ってきた。
「応援に行く人数は、衛兵七百人、近衛騎士五百人、計千二百人を予定しております」
「ユリーゼ!」
「俺もいるぜ」
「あ、ラエル副団長!」
ドラゴンがユリーゼの後ろにいたラエルに気付き、笑顔で駆け寄った。
あの日以来、ドラゴンはラエルによく懐き、見かける度にラエルの所に駆け寄っては抱き上げてもらう事がお気に入りになっていた。
「おーし、来たなドラゴン!」
ガハハッと笑っていつものように抱き上げ、ひょいっと肩車をすると、ドラゴンは嬉しそうにきゃっきゃと笑って喜んだ。
「たくさん応援に出るんだね。珍しいや」
「えぇ、規模が規模ですからね。民の安全を確保するためにはこれくらいの戦力は必要かと」
「あーあ、皆行っちゃうのかー。しばらくここも人が少なくなって寂しくなるね。ユリーゼは残るの?」
つまらなそうに唇を尖らせるリオに、ユリーゼはどこか悲しそうにフッと笑った。
「いえ、残念ながら私も討伐部隊の指揮を執るので城を開けます。城の守りはラエルに任せているので、ご安心ください」
しかし悲しそうだったのはほんの一瞬の事で、すぐにどこかピリッとしているいつもの雰囲気に戻って、微笑んだ。
「それはそうと、リオ殿下。もうアリアーサ殿の授業の時間では? 本日は朝食後から授業をすると聞いていましたからね。大方、お二人を連れて逃げてきたのでしょう? 悪い子ですね」
そう言うや否や、ユリーゼはひょいっとリオを抱き上げて独身寮を出ると、城の方に歩き出した。
「げっ! 今日はアリアーサの手先だったの!? いーやーだー! はーなーせー!!」
ジタバタともがくリオだが、子供と大人の圧倒的な力の差に、勝敗など最初から決まっている。
「まったく…離しませんよ。ほら、ザギも来なさい」
ユリーゼは先程から一言もしゃべらないザギに手を差し出して手を繋ぐように促すと、ザギはハッとしたように顔を上げた。そして少し嬉しそうに笑うと小走りでユリーゼに近づき、素直にユリーゼと手を繋いだ。
「よし、ドラゴンも勉強しに行くぞ! 俺が連れていってやるからな!」
「やったー! あのね、あのね、僕、文字が読めるようになったんだよ! 今日は書く練習もするんだって!」
「おー、それは凄いなー! よく頑張ってるじゃないか。その調子で頑張れよ!」
「うん!」
嬉しそうに自分が出きるようになった事を教えるドラゴンに、ラエルも自分の息子を誉めるがごとく満面の笑顔でドラゴンを誉めた。
その様子はさながら本物の親子のようにも見えた。
「……ユリーゼ団長」
「なんだ」
「後で相談したい事があるんだけど、勉強が終わったらユリーゼ団長の所に行ってもいい?」
ようやく口を開いたザギはどこか影のある雰囲気を持っていて、ユリーゼはそんなザギの雰囲気に言い知れぬ不安を覚えたが、そんな感情を覚えた事を一切表に出さずにいつもの表情でザギに答える。
「悪いが、日中は忙しくて相談を受けている時間はない。だが、夕食後ならば少し時間を作れる。相談をしたいのならばその時間に私の執務室に来なさい」
「分かった」
「ザギ、悩み事? 何か嫌な事あった?」
ユリーゼに抱き抱え上げられたまま運ばれているリオが心配そうにザギの方を見ると、ザギは影のある表情を引っ込めてクスッと笑った。
「なんでもないよ」
「大方、リオ殿下に振り回さる事に対する不満でしょうね」
「む! 僕はザギを振り回してないよ!」
「さて、それはどうでしょうね? 振り回されているかどうかはザギが決める事ですからね」
クスクスと笑いながらからかうユリーゼにリオもじゃれつくように言い返し、流れていた暗い雰囲気を無意識に晴らしていた。
そして三人揃って勉強をする部屋に到着すると、恐ろしい笑顔で待ち構えていたアリアーサに説教をされてから、本日の勉強を開始した。
† †
三人を送り届けたユリーゼとラエルは、今回の魔狼討伐の為の部隊を編成するために執務室に来ていた。
しかし、ラエルは先程ドラゴンと楽しそうに話していた時とは一変して険しい表情でユリーゼに詰め寄っていた。
「ユリーゼ、なぜ俺を城の守備に回しやがった。魔物関連の仕事は、てめぇより俺の方が適任だろうが」
「……まだ言っているのか。その話はさっき終わったはずだ。ラエルに部隊の指揮をさせる訳にいかない。以前の失態の二の舞にされたくはないからな」
「以前って…何年前の話をしていやがる! 確かにあのときの俺は知識、経験、情報の不足によって隊の半数以上を壊滅させちまったが、今はもうあんな失態はしねぇ! そりゃ、お前の方が部隊を動かす事には長けているかもしれねぇ。だけどな、今回の相手は人間じゃねぇ。『魔物』だ。対魔物に関しては俺の方が経験豊富だ。俺が対魔物専門の傭兵団で有名な『紅蛇』から選抜されてここにいるって事、忘れてるんじゃねぇか?」
鋭い眼光でユリーゼを見据えるラエルだが、ユリーゼはその鋭い視線に怯むことなく冷たくラエルを見つめ返した。
「お前が紅蛇から選抜された優秀な人材であることを忘れている訳ではない。だが、既に防衛軍から一万を越える死傷者がいる厳しい現状の中で、お前が全隊を冷静に動かせるとは思えない。確かに、魔物に対する戦闘は私よりもお前の方が優秀で、戦い方も熟知している事だろう。だけど、お前の欠点は一度戦い始めたら周りが見えづらくなる事だ。…自覚はあるだろう? 指揮官は常に全隊を把握し、冷静に指揮を執らなくてはならない。お前は胸を張って、全隊を指揮出来ると言えるか?」
「くっ……。だけどお前、今回は生きて帰れる保証がねぇんだぞ。嫁さんと腹ん中の子を残して逝くつもりかよ! 俺は嫌だぞ。お前の死亡をリリアンヌ殿に伝えるのは…!」
ラエルが吠えた瞬間、ユリーゼは苦痛をこらえるように表情を歪ませてギリッと歯ぎしりをしたが、一つ深呼吸をすると、悲しみとも空しさとも取れる切ない表情で重々しく口を開く。
「私は王に身を捧げた近衛騎士だ。王が愛するものを護るために死ぬのならば、騎士の本望。しかし私はこの遠征で死ぬつもりはない」
「だから──」
ダンッ!
「くどいぞラエル! これはもう決定事項だ。お前に決定を覆す権利はない。分かったならさっさと名簿を作成して編成を組むぞ。これ以上、民を不安にさせてはならない。……たとえ、相討ちとなる結果になろうとも…兵を死地へ送る悪魔と罵られようとも、私は決して折れてはならないのだ」
机を叩いてラエルを黙らせると、ユリーゼは疲れたように呟いて紙とペンを取り出し、今回応援に行く者達の名簿を作り始めた。
「…クソッ、お前一人に背負わせる訳ねぇだろ。衛兵総長を呼んでくる」
「あぁ、頼んだ」
「あと、応援に行く騎士が決まったら俺に言え。俺が話を付けてくる。言っておくが、一人で抱え込もうとしたら俺が思い切り殴ってやるから、俺に殴られたくなきゃ、俺にも責任背負わせろ。団長サマの補佐はこの俺だからな。その責任を果たさせてもらうぜ」
「……ふっ、いつも嫌々やっている者の言葉とは思えないな。明日辺り、槍が降ってくるか?」
「てめぇ……俺が真面目に……!」
ユリーゼのからかうような声音に、ラエルはビキッと額に青筋を立てたが、ユリーゼは口元を少し緩ませて言葉を続けようとするラエルを手で制した。
「冗談だ。頼もしい補佐を得て嬉しい限りだ。お前に殴られるのも癪だし、そこまで言うのならその責任を果たしてもらおう」
「ったく、俺が頼もしいのは最初からだ。ようやく気付いたか」
若干ふてくされながらも軽口を叩き、ラエルは執務室を出ていった。
「……お前は騎士団の皆から愛されているし、その明るさは皆の士気を上げてくれている。だから俺は騎士団の為に、そんなお前をここで死なせる訳にはいかないんだ」
ラエルが出ていった扉を見つめながら自嘲気味に笑って呟くと、ユリーゼは再びペンを走らせていった。
しかしザギの胸に落ちた不安は消えることがなく、ふとした瞬間に寂しさが頭をもたげては、一人になった時にひそかに泣くこともあった。
そんな日常を繰り返していたある日、いつものように朝の挨拶周りをしに近衛騎士の独身寮に顔を出すと、いつもとは打って変わってピリピリとした空気がホールに漂っていて、誰もが真剣な表情で支度をしていた。
「おはよー! どうしたの? 今日はなんだかみんな真剣だね。何かあった?」
「あぁ、リオ殿下。おはようございます。実は国土防衛軍から緊急の要請が入ったんですよ。何でもここ最近、魔狼が町まで来ては人々を襲うという事が繰り返されているらしくて…。最初は魔物退治専門の傭兵や、防衛軍が出て討伐されていたんですけど、どうも普通の魔狼ではないらしく、体躯も普通の魔狼に比べて大きく、知能も発達しているのか、連携攻撃や他方で同時に襲撃をするなどの行動が見られてどこも苦戦しているんですよ。だから、王城衛兵や我々近衛騎士が応援として派遣される事が決まったんですよ」
「へぇー、結構厄介だね。どれくらいの人が応援に行くの?」
いつものおちゃらけた様子は無く、真剣気味に問いかけると、背後からその答えが返ってきた。
「応援に行く人数は、衛兵七百人、近衛騎士五百人、計千二百人を予定しております」
「ユリーゼ!」
「俺もいるぜ」
「あ、ラエル副団長!」
ドラゴンがユリーゼの後ろにいたラエルに気付き、笑顔で駆け寄った。
あの日以来、ドラゴンはラエルによく懐き、見かける度にラエルの所に駆け寄っては抱き上げてもらう事がお気に入りになっていた。
「おーし、来たなドラゴン!」
ガハハッと笑っていつものように抱き上げ、ひょいっと肩車をすると、ドラゴンは嬉しそうにきゃっきゃと笑って喜んだ。
「たくさん応援に出るんだね。珍しいや」
「えぇ、規模が規模ですからね。民の安全を確保するためにはこれくらいの戦力は必要かと」
「あーあ、皆行っちゃうのかー。しばらくここも人が少なくなって寂しくなるね。ユリーゼは残るの?」
つまらなそうに唇を尖らせるリオに、ユリーゼはどこか悲しそうにフッと笑った。
「いえ、残念ながら私も討伐部隊の指揮を執るので城を開けます。城の守りはラエルに任せているので、ご安心ください」
しかし悲しそうだったのはほんの一瞬の事で、すぐにどこかピリッとしているいつもの雰囲気に戻って、微笑んだ。
「それはそうと、リオ殿下。もうアリアーサ殿の授業の時間では? 本日は朝食後から授業をすると聞いていましたからね。大方、お二人を連れて逃げてきたのでしょう? 悪い子ですね」
そう言うや否や、ユリーゼはひょいっとリオを抱き上げて独身寮を出ると、城の方に歩き出した。
「げっ! 今日はアリアーサの手先だったの!? いーやーだー! はーなーせー!!」
ジタバタともがくリオだが、子供と大人の圧倒的な力の差に、勝敗など最初から決まっている。
「まったく…離しませんよ。ほら、ザギも来なさい」
ユリーゼは先程から一言もしゃべらないザギに手を差し出して手を繋ぐように促すと、ザギはハッとしたように顔を上げた。そして少し嬉しそうに笑うと小走りでユリーゼに近づき、素直にユリーゼと手を繋いだ。
「よし、ドラゴンも勉強しに行くぞ! 俺が連れていってやるからな!」
「やったー! あのね、あのね、僕、文字が読めるようになったんだよ! 今日は書く練習もするんだって!」
「おー、それは凄いなー! よく頑張ってるじゃないか。その調子で頑張れよ!」
「うん!」
嬉しそうに自分が出きるようになった事を教えるドラゴンに、ラエルも自分の息子を誉めるがごとく満面の笑顔でドラゴンを誉めた。
その様子はさながら本物の親子のようにも見えた。
「……ユリーゼ団長」
「なんだ」
「後で相談したい事があるんだけど、勉強が終わったらユリーゼ団長の所に行ってもいい?」
ようやく口を開いたザギはどこか影のある雰囲気を持っていて、ユリーゼはそんなザギの雰囲気に言い知れぬ不安を覚えたが、そんな感情を覚えた事を一切表に出さずにいつもの表情でザギに答える。
「悪いが、日中は忙しくて相談を受けている時間はない。だが、夕食後ならば少し時間を作れる。相談をしたいのならばその時間に私の執務室に来なさい」
「分かった」
「ザギ、悩み事? 何か嫌な事あった?」
ユリーゼに抱き抱え上げられたまま運ばれているリオが心配そうにザギの方を見ると、ザギは影のある表情を引っ込めてクスッと笑った。
「なんでもないよ」
「大方、リオ殿下に振り回さる事に対する不満でしょうね」
「む! 僕はザギを振り回してないよ!」
「さて、それはどうでしょうね? 振り回されているかどうかはザギが決める事ですからね」
クスクスと笑いながらからかうユリーゼにリオもじゃれつくように言い返し、流れていた暗い雰囲気を無意識に晴らしていた。
そして三人揃って勉強をする部屋に到着すると、恐ろしい笑顔で待ち構えていたアリアーサに説教をされてから、本日の勉強を開始した。
† †
三人を送り届けたユリーゼとラエルは、今回の魔狼討伐の為の部隊を編成するために執務室に来ていた。
しかし、ラエルは先程ドラゴンと楽しそうに話していた時とは一変して険しい表情でユリーゼに詰め寄っていた。
「ユリーゼ、なぜ俺を城の守備に回しやがった。魔物関連の仕事は、てめぇより俺の方が適任だろうが」
「……まだ言っているのか。その話はさっき終わったはずだ。ラエルに部隊の指揮をさせる訳にいかない。以前の失態の二の舞にされたくはないからな」
「以前って…何年前の話をしていやがる! 確かにあのときの俺は知識、経験、情報の不足によって隊の半数以上を壊滅させちまったが、今はもうあんな失態はしねぇ! そりゃ、お前の方が部隊を動かす事には長けているかもしれねぇ。だけどな、今回の相手は人間じゃねぇ。『魔物』だ。対魔物に関しては俺の方が経験豊富だ。俺が対魔物専門の傭兵団で有名な『紅蛇』から選抜されてここにいるって事、忘れてるんじゃねぇか?」
鋭い眼光でユリーゼを見据えるラエルだが、ユリーゼはその鋭い視線に怯むことなく冷たくラエルを見つめ返した。
「お前が紅蛇から選抜された優秀な人材であることを忘れている訳ではない。だが、既に防衛軍から一万を越える死傷者がいる厳しい現状の中で、お前が全隊を冷静に動かせるとは思えない。確かに、魔物に対する戦闘は私よりもお前の方が優秀で、戦い方も熟知している事だろう。だけど、お前の欠点は一度戦い始めたら周りが見えづらくなる事だ。…自覚はあるだろう? 指揮官は常に全隊を把握し、冷静に指揮を執らなくてはならない。お前は胸を張って、全隊を指揮出来ると言えるか?」
「くっ……。だけどお前、今回は生きて帰れる保証がねぇんだぞ。嫁さんと腹ん中の子を残して逝くつもりかよ! 俺は嫌だぞ。お前の死亡をリリアンヌ殿に伝えるのは…!」
ラエルが吠えた瞬間、ユリーゼは苦痛をこらえるように表情を歪ませてギリッと歯ぎしりをしたが、一つ深呼吸をすると、悲しみとも空しさとも取れる切ない表情で重々しく口を開く。
「私は王に身を捧げた近衛騎士だ。王が愛するものを護るために死ぬのならば、騎士の本望。しかし私はこの遠征で死ぬつもりはない」
「だから──」
ダンッ!
「くどいぞラエル! これはもう決定事項だ。お前に決定を覆す権利はない。分かったならさっさと名簿を作成して編成を組むぞ。これ以上、民を不安にさせてはならない。……たとえ、相討ちとなる結果になろうとも…兵を死地へ送る悪魔と罵られようとも、私は決して折れてはならないのだ」
机を叩いてラエルを黙らせると、ユリーゼは疲れたように呟いて紙とペンを取り出し、今回応援に行く者達の名簿を作り始めた。
「…クソッ、お前一人に背負わせる訳ねぇだろ。衛兵総長を呼んでくる」
「あぁ、頼んだ」
「あと、応援に行く騎士が決まったら俺に言え。俺が話を付けてくる。言っておくが、一人で抱え込もうとしたら俺が思い切り殴ってやるから、俺に殴られたくなきゃ、俺にも責任背負わせろ。団長サマの補佐はこの俺だからな。その責任を果たさせてもらうぜ」
「……ふっ、いつも嫌々やっている者の言葉とは思えないな。明日辺り、槍が降ってくるか?」
「てめぇ……俺が真面目に……!」
ユリーゼのからかうような声音に、ラエルはビキッと額に青筋を立てたが、ユリーゼは口元を少し緩ませて言葉を続けようとするラエルを手で制した。
「冗談だ。頼もしい補佐を得て嬉しい限りだ。お前に殴られるのも癪だし、そこまで言うのならその責任を果たしてもらおう」
「ったく、俺が頼もしいのは最初からだ。ようやく気付いたか」
若干ふてくされながらも軽口を叩き、ラエルは執務室を出ていった。
「……お前は騎士団の皆から愛されているし、その明るさは皆の士気を上げてくれている。だから俺は騎士団の為に、そんなお前をここで死なせる訳にはいかないんだ」
ラエルが出ていった扉を見つめながら自嘲気味に笑って呟くと、ユリーゼは再びペンを走らせていった。
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