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一章 -幼少時代-

-悠久の友、信頼の臣の始まり- 3

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 リオと出会った事で思いがけず城に滞在することとなってから、早三日が経とうとしていた。
 二人に宛がわれた部屋は王宮の奥にある、王族が住む部屋の近くの客間だった。王宮の奥ともなればおのずと絢爛豪華けんらんごうかな部屋となり、二人は初日、フカフカ過ぎるベッドやカーペット、豪華な装飾品に圧倒されてよく眠れず寝不足になってしまい、一日あくびを咬み殺すハメになった。そのためリオが遊びに来るとすかさず「装飾品を減らしてほしい」と頼み、その日のうちに動かせる物は部屋から撤去された。そして二日目は緊張しつつもちゃんと眠ることが出来たのだが、何故二人はそんなに優遇されたのか不思議がっていた。しかし、その理由はとても簡単であった。
 リオが二人の所へ遊びに行きやすいようにと、王が臣の呆れた視線をものともせずに親バカを発揮して半ば強引に決めたため、臣達は反対する暇が無かったのだ。もっとも、近衛騎士団長は全力で反対していたのだが、どうしてもと説得された上に何だかんだ王の意思を尊重してしまう立場上の感情から、結果的に部屋の前に見張りを立て、定期的に中の様子を見ることを義務付けることで折り合いが付いた。
 そんなやり取りがあったことを知らないリオは、近くに二人の部屋があるのをいいことに、ことある事に二人のいる部屋に遊びに行き、一緒にトランプゲームをしたりおしゃべりをしたりして時間を過ごしていた。そしてリオがいない時は、様子を見に顔を出す近衛騎士と少しおしゃべりをしたり、柔和な笑顔が印象的な初老くらいの尋問官が身元確認や母親の特徴等の話を聞きに二人の所にやって来て、一緒にお菓子を食べながら和やかな時間を過ごしたりしていた。
 『監禁』という言葉に不安を覚えていた二人だったが、その不安はすぐに解消され、村に居たときとは打って変わった豪華な生活を満喫していた。
 そんな三日目の昼頃、ザギとドラゴンの部屋にこの日もリオが遊びにやって来た。しかしこの日はリオだけではなくもう一人、リオとどことなく顔立ちが似ている少年も一緒だった。
「? リオ君、この人は誰?」
「えへへ、紹介するね! 兄様は僕の兄様!」
 首を傾げて少年を見つめるドラゴンと何となく予想がついて若干緊張するザギに、リオは嬉しそうに笑いながら兄様と呼ぶ少年に抱き付いて紹介をした。リオに紹介された少年は抱き付いてきたリオに表情を緩ませて頭を撫でながらも、上品なオーラをまとわせてザギとドラゴンにも笑いかけた。
「初めまして。私はリオの七つ上の兄、レイロンド・ルディン・アークス=ナヴァルです。気軽にレイド、と呼んでほしいな。リオから君達の事は聞いていたよ。君達は英雄・ザラギの子孫らしいね。会えて光栄だよ」
「ぼ、僕達こそ、会えて光栄です」
 オーラに圧倒されつつも、ザギは必死で見張りの近衛騎士やお菓子を持ってきてくれる尋問官の言葉遣いを思い出して言葉を返した。その様子にレイロンドは困ったような表情でザギを見て、ゆるゆると首を横に振った。
「そんなにかしこまらなくてもいい。君達は私達と同じ、スカイラインの英雄の子孫だ。だから、リオと接するように私にも気軽に話してくれると嬉しい」
「…分かった。お、怒られない、よね?」
「勿論さ。叱るものがいたら私に言ってくれ。私からその者に注意をしておく。……二人には礼こそあれ、叱られる道理など無いのだからね」
 レイロンドの言葉に二人は首を傾げてどういう意味なのか考え始めるが答えは見つからず、答えを求めてレイロンドを見た。その様子を見てレイロンドはフッと柔らかく笑い、中腰になって二人と視線を合わせると、優しく頭を撫でた。
「いつも寂しい思いをしていたリオと友達になってくれたことだよ。父上も母上も私も、みんな君達に感謝しているんだ」
 そう言った瞬間、レイロンドに後ろからリオが突進してきて、ギュゥッと抱き付いた。
「違うよ兄様! 僕の友達は兄様の友達でもあるの! だから、ザギとドラゴンは僕と兄様の友達!」
 むぅっとした膨れっ面で見上げるリオの言葉は予想外だったらしく、レイロンドは一瞬驚いたように目を瞬かせた。しかし次に嬉しそうな、照れ臭そうな表情で笑って頬を掻いた。
「ありがとう、リオ。…ザギとドラゴンも、私を君達の仲間に入れてくれるかい?」
「うん! いいよ!」
「勿論」
 少し躊躇いがちにザギとドラゴンに問いかけたレイロンドだったが、二人はそれぞれ笑顔でレイロンドを受け入れ、レイロンドは次こそ心からの笑顔で「ありがとう」と三人に礼を言った。
 しかし次の瞬間、レイロンドの表情が険しくなり胸を押さえて膝を付くと、咳き込み始めてしまった。リオはハッとして「兄様ごめん。大丈夫?」と言いながらレイロンドの背中を一生懸命さすり、廊下からはレイロンドの咳を聞き付けた近衛騎士が慌てて入ってきた。
「レイロンド殿下!」
「だ、大丈夫だ。ゲホッ、ゲホッ…いつもの発作、だよ」
「もうお部屋にお戻りください。これ以上は殿下の御体に障ります」
「……分かった。リオ、ザギ、ドラゴン。けほっ、…またね」
 弱々しく、けれども気丈に笑うレイロンドに、リオはシュンとした表情で「うん」と頷き、ザギとドラゴンは訳もわからず混乱したまま頷く事しかできなかった。
 そしてレイロンドは近衛騎士に付き添われて部屋を出ていき、シュンとしたままのリオに代わって、もう一人の近衛騎士が混乱するザギとドラゴンに説明をした。
「レイロンド殿下は生まれつき御体が弱く、病気がちなんだ。だからいつもは私室で療養なさっている。今日は調子が良かったから、リオ殿下と一緒にお前さん達の部屋に来ることが出来たんだ。まあ、発作は突然来るらしいからしょうがない事だと思うぞ」
「そうだったんだ……」
「ねぇねぇ、僕レイド君のお見舞いに行きたい。行っちゃダメ?」
 心配そうな表情で近衛騎士を見上げるドラゴンに、近衛騎士は苦笑を漏らした。
「今はダメだな。陛下の許しなくお前さん達を部屋から出すわけにいかない。だけど、陛下の許しが出たら行って差し上げればいい。喜ぶと思うぞ」
「分かった! “へーか”が許してくれるの待つ!」
「いい子だ。…リオ殿下、今日はもう部屋に戻りますか?」
 よほどレイロンドが元気ではなかった事に気付けなかったのがショックだったのか、しょんぼりしたままのリオに近衛騎士が見かねて声をかけた。
「うん…戻る。ドラゴン、ザギ、また来るね」
「うん。待ってるね、リオ君」
 バイバイと手を振ってリオも近衛騎士と一緒に二人の部屋を出ていき、二人はリオが出ていくとレイロンドが元気になりますように、と祈った。
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