英雄の末裔も(語り継がれないけど)英雄

E.ARS(アリサ)

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一章 -幼少時代-

―悠久の友、信頼の臣の始まり― 2

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 現れた人物に、門番二人は驚いた表情を浮かべた後慌てて跪いて頭を垂れ、リオは途端に警戒心を解いてパッと表情を明るくし、その男性をこう呼んだ。
「父様!」
「父様って…もしかして、人間王陛下…?」
 ザギが信じられないと言わんばかりの表情でそう言うと、リオは王に抱き付きながら満面の笑顔で頷いた。
「そうだよ! 父様はすっごく立派な王様なんだよ!」
「ありがとう、リオ。ところで、随分と親しげに話していたようだが、この子達は誰だい? 父にも紹介してくれないか?」
 リオを抱き上げて目元を柔らかく細めながらザギとドラゴンを見てそう言うと、リオは星達の瞬きにも負けないくらい輝く、キラキラとした笑顔で意気揚々と口を開いた。
「スカイラインの英雄・ザラギの末裔のザギとドラゴンだよ! それでね、僕の友達! でもね、二人は二人の父様から逃げてきて、二人は母様を探してここまで来たんだって。でも、母様の居場所は分からないんだって。ねえ、父様。二人の母様を捜すことって出来る? 僕、二人にずっとここにいて欲しい。父様が捜してくれるなら、二人はここにいてもいいよね?」
「……リオ、お前の気持ちは分かるから、父としてはその頼みを聞いてやりたい。しかし、王としてそれは出来ないのだ」
 困ったような、申し訳なさそうな表情でそう言う王に、リオは唇を尖らせて膨れっ面になると、悔しさからか涙がその大きな目から溢れ出てきた。
「むぅー……いいじゃん…! 僕も友達欲しいよ…! 僕はザギとドラゴンと友達になるの! 同じ英雄の末裔だったらいいじゃん…! グスッ……父様の意地悪」
 小さな手で涙を拭いながら拗ねたようにそう言うリオに、王は困り果てた表情となりつつもリオの頭を撫でてなだめ、呆然と成り行きを見ていたザギとドラゴンを見た。
「君達がザギとドラゴン…だね? フム…紫の〈ソウル〉…ザラギの末裔の証か。……少し、その剣を私に見せてくれないかい?」
「あ…は、はい。…どうぞ」
 ドラゴンはチラッと門番二人を見てどうすればいいのか視線で助けを求めると、それを察知したダナンがハンカチを用意してドラゴンにその上に乗せるよう眼で示した。ドラゴンはホッとしたように息を吐くとダナンに魔法剣を預けて、ダナンが王に魔法剣を渡した。王は「ありがとう」と一言言ってダナンから魔法剣を受け取り、真剣な眼差しで〈ソウル〉を見た。
 そしてしばらく眺めたあと、おもむろに目を伏せて一瞬何かを憂うような表情を浮かべたが、すぐに元の表情に戻って穏やかな声でリオに声をかけた。
「………どうやら、本物のようだね。リオ、この子達を受け入れるか否か決めるため、父に一週間の猶予をくれないか?」
「一週間も待てない!」
「まあ、待ちなさい。なにも会いに行ってはいけないとは言っていない。ちゃんと授業を受けた日は会いに行けるように手配しよう」
 そう言いながらリオの頭を撫でると、リオは嫌そうな顔をしたが渋々といった態度で「…分かった。頑張る」と答えた。その答えに王は相好を崩して「偉いなぁ」と父親の顔になったがすぐに、またも会話に混じれず居心地悪そうにそわそわとするザギとドラゴンの方を向いて口を開いた。
「ザギとドラゴン。我が子のわがままで話を進めていたが、君達はこれからどうしたいのだ? もし行く当てがないのであれば、私は君達を保護すべく動こう。しかし、行く先が決まっているのであれば、私は君達を引き留めるような真似はしない。……リオとて目的を妨げてまで友になりたいとは言わぬであろう。私もリオもそなた達の意思を尊重するゆえ、正直に申すといい」
 ザギとドラゴンが答えやすいように王は二人の前にしゃがんで目線を合わせ、声も優しい声で二人の意思を問いかけた。
「えっ、と…僕達は…お母さんの所に行きたい…です。でも、お母さんがどこにいるか分からないし、僕達のせいでまた人が死ぬのもヤダ……。もう、どうすればいいのか分からない……!」
 今まで堪えてきた思いが一気に溢れ出たかのように頭を抱えてしゃがみこみ、年相応に泣きじゃくり始めた。ドラゴンはそんな兄を心配するようにザギの背中をさすり、自分の思いも言葉にするために王を見上げた。
「兄ちゃん……。…ぼ、僕は…僕は…お母さんに会いたいけど……リ、リオ君と……お友達になりたい!」
 ドラゴンの言葉にリオはとても嬉しそうに表情を煌めかせて、満面の笑みが広がった。そして王の腕から飛び降りると、ドラゴンにぎゅーっと抱き付いた。
「ドラゴン! ドラゴン! ありがとう! 僕とても嬉しいよ!」
「わわっ…! えへへ…僕も、ありがとう」
 ドラゴンもはにかみながら控えめにリオを抱き締め返すと、王はそのほのぼのとした空気にフッと口元を緩めて、何かを決めたように頷いた。
「二人の意思、しかとこの耳で聴いた。私は君達を保護し、母親を捜す手助けをしよう。しかし、その手続きを行うにはやはり最低一週間の時が必要だ。ゆえに一週間は城内の部屋にて監禁させてもらう。異論はないか?」
 『監禁』という言葉に怯えた表情が浮かんだが、顔を上げてなんとか泣き止もうとするザギとリオに抱き付かれたままのドラゴンは、コクリと頷いた。
「うむ、君達の覚悟と絆も強いようで何より。では、武器となる魔法剣は責任を持って私が預かろう。手続きが済めばきちんと返すゆえ、心配せずともよい。あらゆる疑いが晴れるまでは私に預けてくれるな?」
「う、うん…。分かった」
 ドラゴンはチラリと王の持つ魔法剣に目を向けて心配そうな表情を浮かべつつもおずおずと頷いて承諾し、兄と一緒に王の付き添い警護をしていた近衛に連れられて城内へと足を踏み入れた。
 こうして二人は王城にて保護され、リオも念願だった友を得る事が出来たのだった。
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