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一章 -幼少時代-

-故郷の記憶- 2 ※暴力表現あり

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 翌朝、ザギとドラゴンは乱暴に開けられたドアの音と機嫌の悪い怒鳴り声で目が覚めた。
「おい、ガキ共! 帰ったぞ! 出迎えも出来ねぇのか!?」
 その声を聞いた瞬間に二人とも慌てて飛び起き、玄関まで走って向かった。
「お、お帰りなさい。お父さん…」
 二人が声を揃えてそう言うも、不機嫌そうな表情は崩さずにヴェルフはずかずかと家に上がった。しかしその際、ドラゴンがたまたまヴェルフの進行方向に立っていて、それが気に入らないと言わんばかりにドラゴンを力任せに押し退けて中に入っていったのだ。突き飛ばされたドラゴンはそのまま転び、その拍子に壁に頭を打った。
「ぃっ……!」
「ドラゴン…!」
 じわりじわりと涙をその目に浮かべるドラゴンにザギは慌てて駆け寄り、今にも泣き出しそうなドラゴンの頭をさすった。
「……大丈夫…兄ちゃんが側にいるから。だから、泣かないで」
 ぐずりはじめるドラゴンを必死になだめ、その小さな体でドラゴンを抱き締めた。ただ一心にドラゴンを守りたいと思いながら。
「おい! 食器くらいちゃんとしまいやがれ!」
 リビングからヴェルフの怒鳴り声が聞こえて来ると、二人はビクッと肩を震わせたが、ザギは怯えるドラゴンを慰めるために無理をして笑顔を作り、優しく頭を撫でた。
「僕が片付けて来るから、ドラゴンは部屋で休んでて? 頭をぶったら休まなきゃいけないってお母さんが教えてくれたから」
「でも……」
 不安そうにザギを見上げるドラゴンに、ザギはニコッと微笑んで「大丈夫」と言った。
「すぐに片付ければ、お父さんだってそんなに怒らないよ。だから、部屋で待ってて?」
 そう言って立ち上がり、ザギがリビングに戻るとヴェルフはソファーに座って不機嫌ながらもくつろいでいて、煙草を吹かしていた。その臭いにザギは若干顔をしかめつつも、口答えは出来ないため黙って食器を片付け始め、どうかこのまま黙っていてくれと思いながら作業をした。しかし、ヴェルフはドラゴンが居ないことに気付くと、黙って食器を片付けるザギに声をかけた。
「おい、ドラゴンはどうした」
 怒鳴った訳ではないヴェルフの声にすら、ザギはビクッと肩を震わせ、様子を伺うようにヴェルフを見て答えた。
「ドラゴンは頭をぶったから、部屋で休んでる。僕一人でも片付けられるから、大丈夫」
「はっ、頭をぶったくらいで休むなんて、軟弱なやつだな。本当に俺の息子か疑っちまうぜ」
 その言葉にザギは今まで抑えていた怒りが噴き上がり、カッと頭に血が上ると無意識に言い返していた。
「僕だって、お父さんが本当に僕達のお父さんか疑うよ! お母さんと一緒だったときはもっと優しかったのに! あの時のお父さんはどこに行ったの!?」
 ザギが叫んだ瞬間、ヴェルフは一瞬表情を暗くして無表情になった。その表情から感情を読み取ることは難しいが、ヴェルフを包む空気は喪失感がにじみ出ているように感じた。
 しかしそれもほんの一瞬の事で、すぐに苛立ちがあらわになるとゆっくりとソファーから立ち上がり、ザギの前に立った。
「あの時の俺は、あの幸せだった時間に置いてきた。親を疑うとはいい度胸だな、ザギ。しつけが足りなかったか?」
 その言葉を聞いた瞬間にザギはハッとして、苛立ちを露にしているヴェルフに恐怖し、震えた。それを見たヴェルフは気を良くするように口の端を上げると、ためらいなくザギの腹を蹴った。ザギは壁際まで吹き飛ばされ、持っていた食器も衝撃によって割れてしまった。そしてその破片はザギの体を傷付け、服に小さな赤い染みを作った。
「ゲホッ、ケホッ……。ごめん、なさい…」
「聞こえねぇなぁ! あぁ? ちゃんと反省してんのか!」
 スイッチが入ってしまったヴェルフは、体を縮こませるザギを踏んだり蹴ったりして痛めつけ、暴言を吐き続けた。
 その怒鳴り声にドラゴンは慌てた様子でリビングに来て、その光景を見た瞬間に恐怖で足がすくんだのか動けなくなり、じわりじわりと涙が溢れてきて泣き出してしまった。
「ドラゴン、うっせぇぞ! 泣いてる暇があったらさっさと食器を片付けやがれ!」
 ヴェルフに怒鳴られたドラゴンは泣きながらも言われた通りに食器を片付け始め、ザギは既にぐったりとした様子でその場にうずくまっていた。ヴェルフはそんな二人を見て苛立たしげに短くなった煙草を灰皿に入れると、不愉快だと言わんばかりにリビングを出ていった。そして足音を立てながら自分の部屋に引き上げ、乱暴にドアを閉めた。その大きな音にドラゴンはビクッと震えたが、全ての食器を片付け終わるとザギの所に駆け寄った。
「兄ちゃん…大丈夫?」
「うん……大丈夫…。少し、休めば…ぅ、良くなるよ。…ごめんね。心配、かけて……」
 痛みをこらえながら笑うザギに、ドラゴンは泣きながら首を横に振り、ギュッとザギに抱き付いた。その際、傷に触れてザギは痛みに少し呻いたが、構わずに優しく抱き締め返した。
「兄ちゃんは悪くない。悪いのは全部お父さんだよ。だから、謝らないでよ、兄ちゃん……」
「うん…ありがとう、ドラゴン……。……ドラゴン。僕が…、僕がドラゴンを守るからね。だから、ドラゴンは安心して僕の後ろにいていいよ」
微笑みながらそう言うザギに、ドラゴンは一瞬頷きかけたが、このまま兄の後ろに隠れている自分を思い浮かべた瞬間「このままは嫌だ」と思い、ザギの目を見てこう言った。
「僕だって、兄ちゃんを守りたい! ううん、守るよ!」
 その優しく健気な言葉にザギは少し涙ぐみ、痛みを訴える腫れた腕で強くドラゴンを抱き締めた。
「ありがとう、ドラゴン。大好き」
「うん! 僕も兄ちゃんの事大好き!」
 ザギの言葉にパッと表情を明るくしたドラゴンは、無邪気に笑いながらそう答え、ザギから離れると早速、ザギの怪我の手当てを精一杯手伝った。
 二人はいつかこの家を出ていき、母親を捜し出して母親と三人で暮らしたいと強く願った。
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