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三章 ―旅立ちの時― (ここからが本番)
―不穏な予兆― 2
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居酒屋のドアを開けると、酒と料理と男のにおいが混ざった空気と賑やかな声が二人を出迎え、リオは物珍しさにキョロキョロと店内を見回した。
「いらっしゃーい! あら~、ドラゴンさんじゃなーい! 珍しいわねぇ」
真夜中でも元気のいい店員の声に、奥で騒いでいた部下たちが「隊長が来た!?」「嘘だろ!」「天変地異の前触れかよ!」などと好き勝手に叫び、どたどたと入口まで雪崩れ込んできた。
「うわっ! 本当に来てくれた!」
「うわ、とはなんだ。お前が来いと言ったんだろう。あと、他の客の迷惑になるから道をふさぐな。お前たちのせいで他の客が困るだろう」
ルータンが真っ赤な顔をしつつもちゃんとドラゴンを出迎えるが、その第一声にドラゴンはこめかみに少し青筋が立った。
「待ってましたよ、隊長!」
「もう一回乾杯するぞー!」
「エール! お姉さん、エールもう一杯ずつ持ってきて!」
ドラゴンが青筋を立てている事も気にせず、周りはわいわいと騒いでドラゴンをグイグイと引っ張った。
「お前、大人気なんだな!」
「リオ、笑ってないで何とかしろ」
「無理~!」
リオは部下に囲まれているドラゴンを見て嬉しそうに笑うと、対照的にドラゴンを囲んでいた騎士達がピシリと動きを止めた。
「り、リオ…?」
「ま、まさか、後ろにいる方は……」
「あ、今日は王子としている訳じゃないから、改まる必要は無いよ。みんなと一緒に飲みたくて、来たんだ」
急激に酔いが覚める騎士達にリオは慌ててそう言うが、リオの朝の挨拶回りを受けたことがない世代であるため、緊張するように直立の姿勢になった。
「お前達、楽になれ。…紹介する。こいつは俺の親友の、リオだ。王子のリオは城に置いてきた。気兼ねしないで、仲良くしてやってくれ。じゃないとコイツ、拗ねるぞ」
「うんうん、俺、拗ねちゃう…って、拗ねないよ! 多分!」
「力強く多分と言っている辺り、怪しいな。という事だ。こいつを王子と思うな。奥で飲んでいたんだろう。通路で立ち止まってないで飲むぞ」
つかつかと店の奥に行き、通路に出てきていなかった部下たちを見つけて座敷の部屋に入ると、空いている席に着きリオが少ししょんぼりしているのを見た。
「やっぱり拗ねているじゃないか」
「拗ねてないけど、寂しいんだよ~。まさか、ここまで緊張されるとは思ってなかった~」
「まあ、俺の部下たちはお前との接点が少ないからな。ルータン、アゼル、こっちに来い」
リオの登場でどよめく中呼ばれた二人は、恐る恐るドラゴンの所に来てドラゴンの隣に正座をした。
「リオ、紹介する。この二人が俺の腹心のルータンとアゼルだ。俺がお前の側近として働いている間、この二人が俺の代わりに隊を動かしてくれている」
「そっか、俺がドラゴンを借りている間、二人がドラゴンの代わりとして頑張ってくれているんだ。ありがとう」
「いえ、俺…私達は己の任務を遂行しているだけです」
ルータンが堅い言葉でリオに言葉を返すと、リオが苦笑をして「そっか」と言い、小さくため息をつくとすくっと立ち上がってニッと笑った。
「もしかしたら知っているかもしれないけど、俺は今、22歳だ。俺もみんなと同じくらいの年齢で、能力だってきっとみんなとそう変わらない。ただ俺が、王家に生まれてきて、君たちが近衛騎士を目指して王宮に来たという違いだけなんだ。だけど俺は、俺が王族だからとか、君たちが騎士だからとか、あまり気にしていないんだ。ドラゴンだって、元は行き倒れ…イッ!」
「行き倒れてはいない。道に迷って門まで来ただけだ」
ドラゴンがリオの足を思い切り指ではじいてうずくまらせると、すかさず訂正をした。その容赦のないドラゴンの行動に部下たちは驚き、内心冷や冷やしながら二人の様子を見ていた。
「うぅ…でも、あの状況じゃ行き倒れになるのも時間の問題だっただろうが。まあとにかく、ドラゴンだってもともと平民だけどこうして俺と仲良くしてくれている。俺は、身分が違うからと敬遠して欲しくないんだ。俺達は同じ人間という種族だ。何も変わりはない。だから、俺の友達になってくれ!」
演説をするかのごとく堂々と言い放つリオの言葉はその場にいた誰もが聞き入り、ドラゴンは密かに口元を緩めて人を惹きつける能力を持つリオは確かに王の器を持っていると肌で感じた。
「……じゃ、遠慮なく。俺の方が年上だからリオ君って呼ばせてもらいますね~」
誰もがリオの言葉に聞き入り広間に沈黙が下りたが、その沈黙をアゼルがニッと笑って破り、足を崩してあぐらをかいた。そしてアゼルを皮切りにほかの騎士達も「よろしく、リオ!」「やべぇ、王子と友達になったぞ!」「俺達、運良くね!?」などとわいわい騒ぎ始め、頼んでいたエールが全員分届くと誰かが「カンパーイ!!」とジョッキを掲げ、賑やかに乾杯が交わされた。
「アゼル、ありがとう」
エールを一気飲みしていたアゼルにリオが笑顔で感謝を述べると、アゼルはニッと笑って「どういたしまして」と返した。
「それにしても、リオ君って近くで見ると本当にきれいな顔ですね。陛下も確か50くらいになるのに、まだ30代のような顔をしていますし、王族方々は年齢不詳感が半端ない」
「そう言われてみれば、父上も母上もあまり老けてないね。あ、でもドラゴンは老けたよね」
「誰のせいだと思っている」
少し哀れむように言われたドラゴンは、つまみを摘まみながらムッと言い返した。
「少なくとも俺達じゃないよね」
「あぁ、俺達は真面目に業務してるしな~」
「俺だって、毎日書類と格闘してるからね!?」
「この場にいる全員のせいだと俺は認識しているが?」
ニマニマとちゃっかり責任逃れをしようとする部下達と、全く自分のせいだと思っていない王子に、ドラゴンは苛立たし気に腕を組んだ。それでも、どこか穏やかな表情であるため、本気で怒っている訳ではない事はすぐに見て分かった。
そうしてわいわいと酒を飲み交わしていくと、ドラゴンが食器を下げに来た女性店員に声をかけた。
「すまない。注文をしたいのだが、いいだろうか?」
「はい、もちろんです! あ、もしかして龍殺しですか? 今日、ちょうど入荷したので持って来ることが出来ますよ!」
「では、それを頼む」
ドラゴンは満足そうに笑むと、その笑みを見た店員は「キャー」と頬に手を当てて頬を赤らめながら逃げるように部屋を出ていった。
龍殺しとは、その昔、天空を支配していた龍が地上に降りてきて美しい娘を何人もさらって行っては暴れていき、人々の生活を困窮させる龍がいた。その龍に娘を奪われた酒蔵を管理する父親と娘の婚約者は娘を取り返すべく、龍をも酔わせる酒を造り、娘を奪われた者達と一緒に国の英雄にその酒を託して娘を助けて欲しいと嘆願した。英雄は娘を奪われた者たちの嘆願を受け止め、酒を手に人々を困らせる龍のもとへ向かった。そしてその英雄が龍に酒を飲ませて酔わせ、その隙に龍を殺したことから命名された酒だった。その為とてもアルコール度数が高く、酒に強い人でも一口で酔い、一杯飲めば泥酔して倒れるほどの代物だった。
「相変わらず、隊長は女性にモテて羨ましい……」
「俺達だって努力してるのによ~。隊長はそんな努力を嘲笑うかのように女性の視線を持っていくよな~」
「隊長! 顔を交換してくれ!」
その様子を見ていた隊員たちがドラゴンに絡みながら好き勝手に言い、ドラゴンはうるさそうに手を振ると「くっつくな。ウザいぞ」と容赦のない言葉を投げかけた。
「俺は、好きでこの顔に生まれたわけじゃない。女性がキャーキャー言うから任務に集中できない時もあるんだ。それが困る」
「ドラゴン、それ嫌味かよ~」
「そーだそーだ! 隊長、それは嫌味ですよ!」
リオの言葉に便乗して部下たちも笑いながらそう言い、ドラゴンはエールを飲むと「リオは俺の味方じゃないのか」とジト目でリオを見ながら言い返した。
「だって、ドラゴンは俺に冷たいし~」
「それはお前がいつも仕事をさぼろうとするからだろうが」
ドラゴンがそう言ったところで頼んでいた龍殺しが届き、それを見た全員が呆れた眼差しをドラゴンに注いだ。
「相変わらず、隊長はそれが好きですよね」
「俺、その酒をロックで飲もうと思うその神経が考えられないっす」
「…ドラゴン、相変わらずえげつないものを飲むよな……」
「そこまでドン引くか? これはうまい酒だぞ?」
ドラゴンはみんなの反応に首を傾げつつ、クッとグラスを傾けて何のためらいもなく酒を一口飲んだ。そして顔色一つ変えずに「やっぱり美味いな」と微笑みながら呟いた。
「何度見ても、隊長の酒豪っぷりにはついていけないっす……」
「隊長、本当に美味しいんすか? 一口ください」
まだ若い騎士が疑わし気にドラゴンの所に来るとそう言い、了承も得ずにドラゴンのグラスに口を付けた。
「あっ、バカ! ぶっ倒れるぞ!」
彼の班長が慌てて彼の首根っこを掴んだがすでに数口飲んでいて、さっきまで全く酔っていなかったにもかかわらず、顔を真っ赤にしてぶっ倒れてしまった。
「あーあ、言わんこっちゃない」
「おい、大丈夫か? 水を飲め。あと、了承を得ずに俺の酒を飲むな。だからこうなるんだ」
「ふぁい…」
介抱されながら部下は何とか返事をし、素直に水をコップ二杯分飲んだ。
「たいひょ~、つよしゅぎれす……」
「俺はザルらしいからな。お前は今日はもう飲まずに大人しくしてろ」
ドラゴンはポンポンと部下の肩を叩いてそう言うと、残りの龍殺しをグイッと一気にあおった。
「ぃよっ、男前!」
「茶化すな、リオ」
「龍殺しを飲んでもピンピンしてる隊長が怖い……」
「いや、さすがに一杯飲んだら酔うぞ?」
「顔色一つ変えずに言う言葉じゃないっすよ!?」
「ははっ、確かにそうだな」
ドラゴンは声を上げて軽く笑い、突っ込みを入れた部下の肩を組むと反対の手でわしゃわしゃと撫でた。
結局ドラゴンは龍殺しを三杯ほど飲んで飲み会がお開きとなり、ドラゴンはリオの肩を借りて店を出た。
「ドラゴン、さすがに三杯は飲みすぎだって~」
「ははっ、まだ俺は飲めるぞ? 俺は古の龍であろうとも負けるつもりはないからな!」
「何と張り合ってるんだよ!? おかしいだろ!?」
「さすが隊長!」
「カッコいいっすよ!」
突っ込みを入れるリオとは逆に、部下達は楽しそうに笑いながらドラゴンを持ち上げて、賑やかな帰路となった。そして楽しいことが好きなリオが、途中から騎士達とわいわい騒いで帰った事は言うまでもないだろう。
そして城に戻ると、酒が飲めない騎士がリオを部屋まで送り、酔っ払いは各々部屋に戻ってこの日は終わりを告げたのだった。
「いらっしゃーい! あら~、ドラゴンさんじゃなーい! 珍しいわねぇ」
真夜中でも元気のいい店員の声に、奥で騒いでいた部下たちが「隊長が来た!?」「嘘だろ!」「天変地異の前触れかよ!」などと好き勝手に叫び、どたどたと入口まで雪崩れ込んできた。
「うわっ! 本当に来てくれた!」
「うわ、とはなんだ。お前が来いと言ったんだろう。あと、他の客の迷惑になるから道をふさぐな。お前たちのせいで他の客が困るだろう」
ルータンが真っ赤な顔をしつつもちゃんとドラゴンを出迎えるが、その第一声にドラゴンはこめかみに少し青筋が立った。
「待ってましたよ、隊長!」
「もう一回乾杯するぞー!」
「エール! お姉さん、エールもう一杯ずつ持ってきて!」
ドラゴンが青筋を立てている事も気にせず、周りはわいわいと騒いでドラゴンをグイグイと引っ張った。
「お前、大人気なんだな!」
「リオ、笑ってないで何とかしろ」
「無理~!」
リオは部下に囲まれているドラゴンを見て嬉しそうに笑うと、対照的にドラゴンを囲んでいた騎士達がピシリと動きを止めた。
「り、リオ…?」
「ま、まさか、後ろにいる方は……」
「あ、今日は王子としている訳じゃないから、改まる必要は無いよ。みんなと一緒に飲みたくて、来たんだ」
急激に酔いが覚める騎士達にリオは慌ててそう言うが、リオの朝の挨拶回りを受けたことがない世代であるため、緊張するように直立の姿勢になった。
「お前達、楽になれ。…紹介する。こいつは俺の親友の、リオだ。王子のリオは城に置いてきた。気兼ねしないで、仲良くしてやってくれ。じゃないとコイツ、拗ねるぞ」
「うんうん、俺、拗ねちゃう…って、拗ねないよ! 多分!」
「力強く多分と言っている辺り、怪しいな。という事だ。こいつを王子と思うな。奥で飲んでいたんだろう。通路で立ち止まってないで飲むぞ」
つかつかと店の奥に行き、通路に出てきていなかった部下たちを見つけて座敷の部屋に入ると、空いている席に着きリオが少ししょんぼりしているのを見た。
「やっぱり拗ねているじゃないか」
「拗ねてないけど、寂しいんだよ~。まさか、ここまで緊張されるとは思ってなかった~」
「まあ、俺の部下たちはお前との接点が少ないからな。ルータン、アゼル、こっちに来い」
リオの登場でどよめく中呼ばれた二人は、恐る恐るドラゴンの所に来てドラゴンの隣に正座をした。
「リオ、紹介する。この二人が俺の腹心のルータンとアゼルだ。俺がお前の側近として働いている間、この二人が俺の代わりに隊を動かしてくれている」
「そっか、俺がドラゴンを借りている間、二人がドラゴンの代わりとして頑張ってくれているんだ。ありがとう」
「いえ、俺…私達は己の任務を遂行しているだけです」
ルータンが堅い言葉でリオに言葉を返すと、リオが苦笑をして「そっか」と言い、小さくため息をつくとすくっと立ち上がってニッと笑った。
「もしかしたら知っているかもしれないけど、俺は今、22歳だ。俺もみんなと同じくらいの年齢で、能力だってきっとみんなとそう変わらない。ただ俺が、王家に生まれてきて、君たちが近衛騎士を目指して王宮に来たという違いだけなんだ。だけど俺は、俺が王族だからとか、君たちが騎士だからとか、あまり気にしていないんだ。ドラゴンだって、元は行き倒れ…イッ!」
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「うぅ…でも、あの状況じゃ行き倒れになるのも時間の問題だっただろうが。まあとにかく、ドラゴンだってもともと平民だけどこうして俺と仲良くしてくれている。俺は、身分が違うからと敬遠して欲しくないんだ。俺達は同じ人間という種族だ。何も変わりはない。だから、俺の友達になってくれ!」
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「……じゃ、遠慮なく。俺の方が年上だからリオ君って呼ばせてもらいますね~」
誰もがリオの言葉に聞き入り広間に沈黙が下りたが、その沈黙をアゼルがニッと笑って破り、足を崩してあぐらをかいた。そしてアゼルを皮切りにほかの騎士達も「よろしく、リオ!」「やべぇ、王子と友達になったぞ!」「俺達、運良くね!?」などとわいわい騒ぎ始め、頼んでいたエールが全員分届くと誰かが「カンパーイ!!」とジョッキを掲げ、賑やかに乾杯が交わされた。
「アゼル、ありがとう」
エールを一気飲みしていたアゼルにリオが笑顔で感謝を述べると、アゼルはニッと笑って「どういたしまして」と返した。
「それにしても、リオ君って近くで見ると本当にきれいな顔ですね。陛下も確か50くらいになるのに、まだ30代のような顔をしていますし、王族方々は年齢不詳感が半端ない」
「そう言われてみれば、父上も母上もあまり老けてないね。あ、でもドラゴンは老けたよね」
「誰のせいだと思っている」
少し哀れむように言われたドラゴンは、つまみを摘まみながらムッと言い返した。
「少なくとも俺達じゃないよね」
「あぁ、俺達は真面目に業務してるしな~」
「俺だって、毎日書類と格闘してるからね!?」
「この場にいる全員のせいだと俺は認識しているが?」
ニマニマとちゃっかり責任逃れをしようとする部下達と、全く自分のせいだと思っていない王子に、ドラゴンは苛立たし気に腕を組んだ。それでも、どこか穏やかな表情であるため、本気で怒っている訳ではない事はすぐに見て分かった。
そうしてわいわいと酒を飲み交わしていくと、ドラゴンが食器を下げに来た女性店員に声をかけた。
「すまない。注文をしたいのだが、いいだろうか?」
「はい、もちろんです! あ、もしかして龍殺しですか? 今日、ちょうど入荷したので持って来ることが出来ますよ!」
「では、それを頼む」
ドラゴンは満足そうに笑むと、その笑みを見た店員は「キャー」と頬に手を当てて頬を赤らめながら逃げるように部屋を出ていった。
龍殺しとは、その昔、天空を支配していた龍が地上に降りてきて美しい娘を何人もさらって行っては暴れていき、人々の生活を困窮させる龍がいた。その龍に娘を奪われた酒蔵を管理する父親と娘の婚約者は娘を取り返すべく、龍をも酔わせる酒を造り、娘を奪われた者達と一緒に国の英雄にその酒を託して娘を助けて欲しいと嘆願した。英雄は娘を奪われた者たちの嘆願を受け止め、酒を手に人々を困らせる龍のもとへ向かった。そしてその英雄が龍に酒を飲ませて酔わせ、その隙に龍を殺したことから命名された酒だった。その為とてもアルコール度数が高く、酒に強い人でも一口で酔い、一杯飲めば泥酔して倒れるほどの代物だった。
「相変わらず、隊長は女性にモテて羨ましい……」
「俺達だって努力してるのによ~。隊長はそんな努力を嘲笑うかのように女性の視線を持っていくよな~」
「隊長! 顔を交換してくれ!」
その様子を見ていた隊員たちがドラゴンに絡みながら好き勝手に言い、ドラゴンはうるさそうに手を振ると「くっつくな。ウザいぞ」と容赦のない言葉を投げかけた。
「俺は、好きでこの顔に生まれたわけじゃない。女性がキャーキャー言うから任務に集中できない時もあるんだ。それが困る」
「ドラゴン、それ嫌味かよ~」
「そーだそーだ! 隊長、それは嫌味ですよ!」
リオの言葉に便乗して部下たちも笑いながらそう言い、ドラゴンはエールを飲むと「リオは俺の味方じゃないのか」とジト目でリオを見ながら言い返した。
「だって、ドラゴンは俺に冷たいし~」
「それはお前がいつも仕事をさぼろうとするからだろうが」
ドラゴンがそう言ったところで頼んでいた龍殺しが届き、それを見た全員が呆れた眼差しをドラゴンに注いだ。
「相変わらず、隊長はそれが好きですよね」
「俺、その酒をロックで飲もうと思うその神経が考えられないっす」
「…ドラゴン、相変わらずえげつないものを飲むよな……」
「そこまでドン引くか? これはうまい酒だぞ?」
ドラゴンはみんなの反応に首を傾げつつ、クッとグラスを傾けて何のためらいもなく酒を一口飲んだ。そして顔色一つ変えずに「やっぱり美味いな」と微笑みながら呟いた。
「何度見ても、隊長の酒豪っぷりにはついていけないっす……」
「隊長、本当に美味しいんすか? 一口ください」
まだ若い騎士が疑わし気にドラゴンの所に来るとそう言い、了承も得ずにドラゴンのグラスに口を付けた。
「あっ、バカ! ぶっ倒れるぞ!」
彼の班長が慌てて彼の首根っこを掴んだがすでに数口飲んでいて、さっきまで全く酔っていなかったにもかかわらず、顔を真っ赤にしてぶっ倒れてしまった。
「あーあ、言わんこっちゃない」
「おい、大丈夫か? 水を飲め。あと、了承を得ずに俺の酒を飲むな。だからこうなるんだ」
「ふぁい…」
介抱されながら部下は何とか返事をし、素直に水をコップ二杯分飲んだ。
「たいひょ~、つよしゅぎれす……」
「俺はザルらしいからな。お前は今日はもう飲まずに大人しくしてろ」
ドラゴンはポンポンと部下の肩を叩いてそう言うと、残りの龍殺しをグイッと一気にあおった。
「ぃよっ、男前!」
「茶化すな、リオ」
「龍殺しを飲んでもピンピンしてる隊長が怖い……」
「いや、さすがに一杯飲んだら酔うぞ?」
「顔色一つ変えずに言う言葉じゃないっすよ!?」
「ははっ、確かにそうだな」
ドラゴンは声を上げて軽く笑い、突っ込みを入れた部下の肩を組むと反対の手でわしゃわしゃと撫でた。
結局ドラゴンは龍殺しを三杯ほど飲んで飲み会がお開きとなり、ドラゴンはリオの肩を借りて店を出た。
「ドラゴン、さすがに三杯は飲みすぎだって~」
「ははっ、まだ俺は飲めるぞ? 俺は古の龍であろうとも負けるつもりはないからな!」
「何と張り合ってるんだよ!? おかしいだろ!?」
「さすが隊長!」
「カッコいいっすよ!」
突っ込みを入れるリオとは逆に、部下達は楽しそうに笑いながらドラゴンを持ち上げて、賑やかな帰路となった。そして楽しいことが好きなリオが、途中から騎士達とわいわい騒いで帰った事は言うまでもないだろう。
そして城に戻ると、酒が飲めない騎士がリオを部屋まで送り、酔っ払いは各々部屋に戻ってこの日は終わりを告げたのだった。
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