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幼馴染の設定は最強だ!

第30話 「新しいお仲間」

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 村に近付いた頃には辺りは真っ暗になっており、イマダンを除く皆んなが交互に明かりの魔法を使い、足元を照らしながら帰り道を歩いていた。

 暗くなったせいかフォモー族とは出逢えず、ブラックドックを倒したご褒美がなんなのか分からずじまいだ。

 村に入る時、イマダンは皆んなのうしろに隠れて様子をうかがっていた。
 村の門番の例のオジサン達を警戒しているようだ。
 あのオジサン達は姿を見せず、別の人達に代わっていたので一安心のイマダンであった。

 一行は宿に戻り、ボスに勝利したお祝いに看板メニューの焼肉定食を頼んだが、時間が遅くもう作らないとの事。
 仕方なくいつもの硬いパンと野菜スープを頼んで皆んなで食していた。

「ボスのケンタロウを倒したんだ、城に戻ったら凱旋パレードでオレたちを出迎えてくれるぞ!」

「まあ、それはないにゃん」

「……城で王から賞金とお褒めの言葉がもらえるかな」

「賞金はもらえるけど、王は会ってくれないにゃん。
 やっぱり最後のボスを倒さないと会ってはくれないにゃん」

「ワタシは故郷のコノノートに早く帰りたいワ」

「城で王やドルイドの長老たちの前で、悪い妖精の大ボスを倒すまで故郷には戻らないと誓ったではないか。
 オレ達は戦士になったんだ。
 戦士の誓いを破ったら、イーケないんだ!」

「エルミナの契約が迫っているのに……」

 俺を含め、イマダンと魔童女は甲冑少女ことエルミナに顔を向けた。
 食事中も兜を脱がない彼女はしばらく黙っていたが、話を変える話題を投げかけた。

「城に帰る道を、山を通る山道にしたいのだけれど……」

「山登りはイヤだ」

 魔童女の駄々を無視した詩人少女は、甲冑少女の考えを読み取って聞いてみた。

「確かに山道を通って城に行く事も出来るけど……それって東部のソノスター地区の山岳地帯の湖に住むボスを退治するって事……にゃん?」

「そのつもりだけど……」

 甲冑少女は血気盛んな女の子なのか、またすぐボス戦に挑むとは……
 あと妖精っ娘が言っていた彼女の契約ってなんの事だ? 
 彼女の秘密を知りたい。

 イマダンに聞いて欲しいがまずい野菜スープを飲み干すのに夢中だ。
 飲み終えた彼はひと段落ついて皆んなを見渡した。
 よし、甲冑少女の契約とやらの内容を聞いてくれ!
 彼は口を開いて皆んなに聞こえるように大声をあげた。

「まずい、もう一杯!」

 彼には甲冑少女の事などどうでもいいのだろう……宿の女将にまずい野菜スープのおかわりをした。
 彼は、ただひたすらお腹を満たす事しか考えていない事だけが分かった。

「う~む……これはいい機会かも知れないな。
 我々が他の討伐隊とは違う所を見せつけるチャンスかも知れない。
 ここでボス二匹を倒したら女で子供のくせにとは誰も言えなくなるからな……特に子供とは言わせん!」

 魔童女はノリノリで鼻息が荒くなった。

「ワタシはそれでイイヨ」

「わたしは……分かったわ……つい会うわよ……にゃん」

 少女たちは全員新たなボス戦に挑む決心をした。
 あとはイマダンの同意だけだ。
 彼女たちは彼を意見を聞こうと注目した。
 その彼はまずい野菜スープに夢中で彼女たちの視線に気付かない。

「うん、まずい!」


   ***


 イマダンの意見を聞かないまま解散して、それぞれの部屋へと休みに入った。
 楽しみだった『みんなの公衆浴場』はもう深夜なので閉店で入れないそうで、彼女たちは明日の早朝に入浴するとの事。

「お風呂か……入りたかったけど……あの二人がいたらヤダし……
 明日の朝ならいないよな……朝風呂、朝シャン……久しぶりだなぁ」

 彼は独り言を言いながら、いつものように全裸になってベットに入った。
 
「今日は疲れたなぁ……」

 すると今夜は自家発電は中止か。
 あんなの見てられないから助かった。
 そう思ったのも束の間、イマダンはモゾモゾ動き始めた。

「まさか、オッパイちゃんに抱きつかれるとはなぁ……まだ胸に感触が残ってる……さ、最高だぁ……」

 結局、今夜も付き合わされる俺……

「オ、オ、オッパイぃぃぃ!」


   ***


 “ドンドンドン!”
「起きろ!」

「ママぁ、学校行きたくないよぉ~」

 魔童女に起こされたイマダンは目ボケたママ、ドアを開けた。
 俺も目が冴えなかったが、イマダンのママ発言にニヤニヤが止まらず頭がスッキリ出来た。

「これから『みんなの公衆浴場』に行くぞ。
 風呂から上がったら宿に帰ってすぐに出発だ。
 分かったなら準備しろ」

「はい……」

 朝の村は人出が多くて、今まで寂しい村だというのは勘違いなのかも知れない。
 朝市などが行われているのだろう、食材が並んでいる。
 公衆浴場をめのまえにして、村の男が話しかけて来た。

「オマエ達だろ、悪い妖精のボスを倒したのは!
 女、子供ばかりだから馬鹿にしていたが凄いんだな……イヤ~スマンなぁ」

「子供とは失礼なヤツだな」

 子供と言うワードに敏感な魔童女が村人に対応した。
 
「本当に助かったよ。
 怖くて村の遠くまで行けなかったからね。
 こんなに幼いのに良く頑張ったね」

 村のオバサンが労いの言葉を言ってくれた。

「我々は戦士だ。
 決して幼くはないんだな」

 幼いと言う言葉も過敏に反応した魔童女。
 いつの間にか人だかりが出来て、公衆浴場に入るまでかなり時間がかかった。

「皆んなに喜ばれるって嬉しいにゃん」
「ああ、人気者は辛いなぁ」
「ミンナ英雄だヨ」
「……」
「お、おれも嬉しい……」

 誰も俺の事、見えてないから無視されたけど……俺も嬉しい。

「ところでティリル……こっちは女湯なんだが」

 皆んなから睨まれるイマダンであった。

 なんとなく女湯に入れそうな雰囲気はあったがダメだったようだ。
 イマダンもガッカリしている。
 だが、ここから気合いを入れなくてはいけない。
 更衣室には誰もいなく、風呂場の扉を恐る恐る開けた。
 客は二人いたが、あの危険な例の二人ではなかったので安心して中に入った。

 イマダンは身体を軽く洗って、湯船に入った。
 さっそく女湯とを隔てた壁に耳を当てて少女たちの声を必死で聞く。
 こんな所は見習わなくてはと思わせる彼の行動力……俺もすかさず壁に耳を当てた。

「キャキャウフフ……」

 大して聞こえないのに興奮するのは何故だろう?
 見えやしないし、別に変な事話している訳でもないのに……これが男のサガと言うものなのか?

 イチモツをそそり上げた状態で風呂から上がったイマダンはそそくさと風呂場から出ようとした瞬間。

「君だったのか、お仲間というのは」
「アイツらが言ってたんだ、若い仲間が浴場に現れるって」

 二人のオジサンが立ってイマダンの道を塞いで、彼のイチモツを拝むと二人のオジサンも立った。

「さあ、やろうか」
「今日の浴場は貸切だ」

「いやぁぁん!」

 イマダンは二人を突き飛ばして逃げ出した。


   ***


 イマダンは宿の部屋で震えながら皆んなの帰りをひとり待っていた。
 服も急いで着たため、乱れた格好になってる。

「もうイヤだ! 早くこの村から出たい!」

 今回はかなりショックだったらしい。
 二人のオジサンを振り切る際、彼らに股間を触られたのが見えながらな。
 さぞ悔しいだろう……
 しかし、この村にはいったい何人いるんだ、彼らのお仲間は?

 彼女たちはなかなか帰って来なかった。
 帰って来たのが聞こえると犬のように一目散に出迎えた。

「何故、公衆浴場で待っていなかったノ?」

 少し怒り気味の妖精っ娘に文句を言われたイマダン。

「いや、違うんだ……いや、早くこの村を出よう」

 皆んなを急かすイマダン。

「そんなにボスと戦って手柄が欲しいのか、この欲しがりめ」

 理由を知らない魔童女がイマダンを鼻で笑った。
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