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幼馴染の設定は最強だ!

第25話 「古代遺跡を巡るツアー」

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 草木の少ない荒地に出た。
 見通しが良いので敵を見つけ易いが、逆に敵にみつかり易い地形だ。
 なので遥か前方にある石柱がずっと気になっていた。
 それは石を組み上げたドルメン、支石墓である。
 地球では新石器時代から造られている巨大石の積み木だ。

 デカイ石が上に乗っかってバランスが悪いのに、よく崩れないなぁと関心したりもする。
 古代遺跡を直で観れて感動しているとイマダンがトンデモない事を言い出した。

「あの乗っかってる大きな石、落としてもいいか?」

 キサマァ、古代ロマンを感じないのか?
 太古の不思議を発見して喜ぶ俺と、価値が分からずに破壊衝動を止められないイマダンの性格というか趣味の違いに、俺たちは合わないんじゃないかと思わざるおえない。

「トォクトォクトゥーン! トォクトォクトゥーン!」

 妖精っ娘の悪い妖精レーダーが反応した。
 のんびり遥か古代の息吹を体験をしていた俺たちに緊張が走った。
 
「遠くにある方のドルメンの中にいるヨ!」

 皆んなが戦闘態勢に移行した。
 今度はどんな妖精が現れるのか、でも俺は見ているだけ。
 一日一回の活躍の場はラスボスまで取っておかなくてはならない。
 頼んだぞイマダン!

「あっ、いたぁ!」

 さっそく頼りにしたイマダンが悪い妖精を発見した。

 遠くの古代遺跡の大きな石の隙間から赤い三角帽子の小人がヒョイっと飛び出して来た。
 なんだなんだ、またしてもレッドキャプかダンターのお出ましか。

「あれはレプラホーンだ」

 レプラホーン……靴屋を経営している妖精、身体は小さく赤い三角帽子を被り、顔はあいからわず醜い……外見は皆んな一緒……まさに間違い探しレベルじゃないか!

 魔童女はどうやって判断しているんだ?
 確かに違いの特徴のメガネをかけているし、赤い服にエプロンはレプラホーンなのかも知れないが……ここの妖精って皆んな似たり寄ったりで、なんか個性ないなぁ。

「メッタメタのギッタギタにしてやる!」

 ダンターを一撃で倒して調子に乗ったイマダンは威勢よく飛び出した。

「待て、早まるな!」

 魔童女は、はやる気持ちのイマダンを杖で突いて制御した。
 かけ声だけで止まると思うのだが、彼女は一撃も加えたいらしい。

「レプラホーンはこちらから攻撃しなければ、なにもしない妖精だ。
 いなくなるまで待とう」

「え~、ぶっ殺した方がいいよぉ~」

 コイツ、調子に乗るとすぐ天狗になって物騒な乱暴者になる……良くない傾向だ。
 ひょっとしてチマタで騒がれるサイコパス的傾向があるのかも知れない。

「いいから見ておけ。
 無駄な殺生はそのうちバチが当たるぞ」

「妖精なんか全部始末した方がいいのに……」

 納得いかないイマダンはブーブー言いながら地面に腰を下ろして待つ事にした。
 オマエ、俺専用の美少女可動フィギュアこと妖精っ娘を目の前にして、よくそんな事が言えるな。

「なぁにぃ~! 今、なんと言った!」

 魔童女がかなり怒った表情でイマダンに喰ってかかった。
 ほかの女子全員も彼の言動に怒りの表情を見せた。

「な、な、な? ど、どうして怒るの?」

 テンパったイマダンは笑顔で皆んなに対応した。
 でも皆んなはその笑顔には釣られず、ますます怒りを増していった。

「わたし達、それぞれの種族がいるの教えたにゃん。
 それぞれ出身地が違う以外にも、妖精との関わりが違うのも特徴なのにゃん」

 いろいろな種族があるのは詩人少女から聞いたが、妖精との関わり方とか彼女が言いたい話の要領が掴めない。

「オ、オレはダンナー族なんだよな」

 彼女から聞いたのを思い出したイマダンはボソボソと呟いた。

「キサマ! 『永遠にダンナァーン』我々は女神ダァナの血を受け継ぐダンナー神族だ、神族を付けて言え!」

 魔童女は女神由来の種族である事にこだわりがあるようだ。

「この事は記憶を思い出す、出さまいは関係なく、知っておいた方がいいわん!」

 詩人少女はこの異世界の種族の事を語り始めた。

「ダンナー神族やフォモー族は少しだけど妖精の血が混ざってると言われているにゃん。
 そのおかげで魔法が使えるにゃん。
 ただ、わたしのようなミレン人も魔法が使えるから、実際よく分かってないのだけど……にゃん」

 俺たちにはピンとこない種族の話だけど重要な事らしい。
 とにかくイマダンの身体はダンナー神族で妖精の血が混ざっているらしい。

「お、おれの身体は妖精なの?」

 いま詩人少女が言ったばかりじゃないか!
 オマエの身体は半分妖精なんだ、つまり半妖なんだ!
 それでいいんだよね?

「早く人間になりたい……」

 イマダンはどこかで聞いたフレーズを語った。

「ところでミレン人とはなんなの?」

 今のイマダンの質問はナイスだ。

「アヴァレン島の人間のほとんどがダンナー神族って呼ばれてるにゃん。
 わたしは隣の島のフリテン島で産まれたにゃん。
 でも元々はその隣の大きな大陸の国カリヤンからやって来たにゃん。
 アヴァレン島の外から来た人間がミレン人と呼ばれてるにゃん。
 わたしの一族は商人で町から町へ店舗拡大の経営戦略の一貫で、わたし達家族はここアヴァレン島に来たにゃん。
 お越しの際は、ぜひ購入してくださいにゃん」

「ワタシ達、四人は西のコノノート村の幼馴染なんだヨ」

 妖精っ娘が示したのは魔童女以外の四人だ。
 俺とイマダンは仲間外れの魔童女をつい見てしまった。

「フン、オレは悪い妖精討伐のチラシを見て参加したんだ。
 オレは……多くのパーティーから引っ張りだこだったんだが、オマエ達が一番弱そうだったから仲間に加わったんだ。
 け、決して寂しそうにオマエ達を眺めていた訳ではないからな!」

 なんとモトダンを含む四人が幼馴染で、独りぼっちの魔童女か可哀想だから仲間に加えて出来たのがこのパーティーだったのか。

 甲冑少女と幼馴染……それで蘇生魔法の時、あんなに頑張っていたのか……
 幼馴染と言えばラブコメの定番だからな……なんだか興奮して来たぞ。
 子供の頃から一緒にいろいろ遊んだはずだ……ままごとだったり、お医者さんごっこだったり、一緒に川や海で遊んだり……お風呂も一緒……一緒にベットで寝てたりしたんじゃないのか……お、大人のマネなんかして、触りっこなんか……ダメだ、妄想が止まらない!
 やっぱりモトダンは羨ましい男なんだ!

「そ、それじゃ、一緒に裸でお風呂に入ったとか?」
 
 イマダンも同じ事を考えていた。
 俺たち男だ! やっぱり男はこういう所を知りたいよな、ナイスな質問だぞ。

 “バン!”
「痛っ!」

 イマダンの後頭部に細い剣の鞘がぶつかって来た。
 うしろを振り向くと甲冑少女がレイピアを鞘ごと持って立っている。

「なんだよ~」

 イマダンが振り向くと甲冑少女もうしろを振り向いて顔を見せない。
 でも俺は振り向く前の顔を見た。
 色白の肌なので、明らかに赤面しているのがバレバレだ。
 俺とイマダンの妄想が必ずしも的外れではない証拠だ。
 くそ、その頃に転生したかった。

「無駄話をしているうちにレプラホーンはどこかへ行ってしまったぞ。
 早くボス退治に行こう」

 甲冑少女が長台詞を言った。
 いつのまにかレプラホーンは消えてなくなっていた。
 でももっと重要なのは彼女が普通に話した事だ。
 もっと彼女の声が聞きたい……

「そうだな……もうそろそろヤツの領域だ。
 引き締めて行くぞ」

 魔童女の号令で一行は再出発を始めた。
 再出発をしても会話は続いていた。

「わたしは六年前にこの島にやって来たからあなたと一緒にお風呂に入った事はないにゃん……ウフ!」

「ワタシも同じ頃に出会ったからハダカを見られた事なんかないノヨ」

 詩人少女と妖精っ娘は本当の幼馴染ではなかった。
 真の幼馴染は甲冑少女という事か。
 幼馴染なんかラブコメでは最高の設定じゃないか。

 しばらく歩いていると、また前方に石柱が見えて来た。
 今度はたくさん集中している。
 あっ、あれはストーンサークルじゃないか!
 綺麗に石が丸く並んでいる、環状列石というヤツだ。
 しかも造られたばかりのように綺麗に整っている。
 ミステリー好きにはたまらん、ワクワクするぞ!

「気をつけろ! 前回もこの中からボスが現れたんだ」

 魔童女の合図で皆んな戦闘態勢に入った。
 イマダンも慌てて爺の剣とG風の盾を携えた。

 ストーンサークルは異次元へのワープゲートなのか。
 それとも魔界の入り口なのか。

 皆んな慎重に近付いて行く。

「トォクトォクトゥーン! トォクトォクトゥーン!」

 妖精っ娘が反応した。
 ストーンサークルの中が黒い渦を巻き始めて異次元とのゲートが開く。
 危険なのは分かっているが、さらにワクワクするシチュエーションで異世界に来たって感じかする。

 黒い渦の中から黒い巨大な物体が出現した。

「出たぁ~!」

 イマダンよ、皆んな分かっているから声を出さなくてもいい。

 とにかく大っきいぞ、二・五メートル以上あるんじゃないか!
 ピンと立っている耳と大きくて鋭い牙、四本足で身体は真っ黒だが、その鋭い目は炎のように爛々と赤く輝いている。
 ……犬だ……デッカイ黒い犬だ。

「……ワンコだ……」

 確かにワンコだが、そんなに可愛いもんじゃないぞ。
 大きくて悪い妖精で、この地域のボスだ。

「おすわり!」

 動物好きのイマダンは大型犬の扱いにも慣れているようだ。
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