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俺好みの美少女に間違いない!

第23話 「勝利のガッツポーズ」

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「おい、どうしたんだ!」

 魔童女の問い掛けを無視してイマダンは走り抜けた。

「はぁーはぁー! も、もう村には戻らないぞ……はぁー!」

 お前はこの危険な場所で野宿するつもりか?

「いつの間にオジサンと仲良くなったノ?」
「フフッ、ホント、オジサンにモテモテですわん!」
「……?」

 妖精っ娘は不思議がり、詩人少女は勘ぐりに確信を持っているようだ。
 あいからわず甲冑少女は話に入って来ない……まだ知らない世界の話で入って来れない?

 会話はこれだけで、そのあとはひたすら黙って歩くだけだった。
 フォーメーションはいつも通りで、甲冑少女と妖精っ娘が前衛を、イマダンがしんがりを務めた。

 俺の視線は、先を歩く甲冑少女一点張りになっていた。
 彼女の顔を拝めた時、とても輝いていて、そしてなぜか懐かしい気持ちにもなった。
 神に俺の記憶の消去しきれずに僅かに残っていたなにかがあるのかも知れない。
 あの学年一位のアノ子……顔の記憶は消えているが、似てないってのがなぜか分かる。
 もっと昔に出逢ってたのか……ああ、一瞬だったので甲冑少女の顔の記憶が薄れていく! 好きなアイドルや女優の顔が重なって来る……俺とは縁のない女性の顔は記憶消去されていないから時間が経つにつれミックスされて行く。
 メチャクチャ美少女で、しかも俺好みのはずなのに……絶対忘れないくらいインパクトがあったはずなのに……
 俺の好きってレベルはこんなモノなのかな……好きなら忘れないはずだ……

「ほらよ」

 魔童女が懐から干からびた物をイマダンに投げ与えた。

「ひいぃ! ミ、ミイラ⁉︎」

「干し肉だ! いらないなら返せ!」

「いえ、ください!」

 イマダンはいつものように匂いを嗅いでいる……美味しい匂いなのかキモい笑顔になって噛み付いた。

 魔童女はホントは優しくて可愛いし、詩人少女も可愛くてプリンプリンで……俺も揉みたい! 
 俺……皆んなが、ただ可愛いから甲冑少女も好きな気持ちになっただけなのかな……

 昼時なのに悪い妖精は出て来ない。
 絶対数は少ないのか? その方がありがたいが……
 この道筋、この場所は……イマダンがトイレに使った森の側だ。
 そうか、元々の男モトダンはボス戦でやられたんだから、そっちにボスがいるという事か。

「トォクトォクトゥーン! トォクトォクトゥーン!」

 妖精っ娘のレーダーが反応した。

「敵だわん!」

 前方の小高い丘の向こうから赤いとんがり帽子の小ちゃいオジサンが小走りで近付いて来る。

 あれはレッドキャップ! 三匹か!

「あれはダンターだ!」

 ダンターって……彼らもレッドキャップのように廃墟に住み、訪れた人間を音を立てて脅す比較的地味でレアな妖精だ。

 両手になにか持っている……鍋? フライパン?
 人間から奪い取ったのだろう、ボロボロになった調理器具を打ち鳴らした。

 “バンバン! ドンガラガッシャーン!”

 うるさいうるさい!
 脅すというより、ただの騒音オジサンだ!

「ま、またサンタさん!」

 イマダンが後退りする。
 逃げるな! 俺は一日一回しか、お前を操れないんだ。
 ボス戦までゲームはしないって決めてるんだから立ち向かってくれ!
 もどかしい回数制限があるため、今は応援するしかない。

「くっ!」

 イマダンは立ち止まった。
 震えてはいるが爺の剣に手を伸ばしている。

「……お、おれは……ゆ、勇者だ……」

 小声だが、俺には聞こえた。
 そうだ、お前の身体に染み付いた剣裁きは本物だ!
 冷静に対処すれば勝てるはずだ。
 相手のダンターは音を立てて脅すだけの妖精のはずだからだ。

 甲冑少女も詩人少女も攻撃を始めている。
 魔童女が不意に足を止め、こちらに振り向いた。

「サンタっなんだ?」

 戦闘中にそんな事どうでもいい! 疑問質問の方が大事なのか?

「ぐおぉぉ‼︎」

 覚悟を決めたイマダンは、爺の剣を思いっきり股間に突き立てた。

「己のイチモツよ、そそり上がれ!」

 股間が光り輝いた。
 やったぁ、光の刃だ! しかも三十センチも伸びたぞ!

「おおおぉぉ……」

 イマダンは白い光の粒を出し切ったせいか情けない声をあげて、股間の光の刃を満足そうに眺めた。
 呆けている場所じゃないぞ! 爺の剣を構えろ!

 慌てて爺の剣を構えたイマダンは状況を見極めて動かない。
 三匹それぞれの隙を見逃さないように……いや、そうではなく、二の足を踏んで先に進めないのだ。

 イマダンよ、行かなくてはダメだ。
 ダンターはレッドキャップより弱いはずだから、お前の本当の初陣には持って来いだ。
 コイツらで経験と度胸を積んで足掛かりにしないと勇者への道は遠去かるぞ。

 イマダンはゆっくり歩き出した。
 遠くの方で戦闘に参加せずに、鍋とフライパンを叩いてはしゃいでいるダンターを見つけて、そちらに向かっている。
 歩みが少しづつ速くなり、走り出した。

「うおぉぉぉ!」

 イマダンは気合いの雄叫びを上げでの突進した。  
 それに気付いたダンターが戦闘態勢に入った。
 見た目レッドキャップとダンターの差がない同じ赤い三角帽子に醜い小人だ。
 魔童女はどうやって見極めたんだ?

「ホッホー!」

 ダンターもレッドキャップ並みの低音の美声を上げながらイマダンに向かって鍋を投げつけて来た。
 でも手前で落ちたので避ける必要もない。
 まだ距離があるがイマダンは爺の剣を大きく振り上げてダンターに向かって行く。
 あっ! 鍋を捨てた右手には錆びた包丁が!
 ヤツは武器を隠し持っていたのか!
 気をつけろ、イマダン!

「うおぉー! サンタさーん!」

 自分の事をサンタさんと呼ばれたダンターはキョトンとしてしまい、その隙にイマダンは大きく爺の剣を振り落とした。
 凄い! 兜割りだ!

「キョピ!」

 こちらもカワイイ断末魔の叫びだ。

「きゃーー!」

 血飛沫が飛んで女性のような悲鳴を上げてビビるイマダン。
 大丈夫だ、すぐに粒子化して消える。
 一面赤かった地面も肉体と一緒に光の粒となって消えた。
 イマダンは両膝を地面に付けて両手を振り上げた。
 その際、爺の剣を投げ捨てた。

「やったー! おれは勇者だぁ!」

 おいおい、爺の剣を捨てるな! まだ戦いは終わってないぞ!
 俺は残った二匹を探した。
 どうやら彼女たちが仕留めたようだ、ちょうと粒子化して消えさった。
 やはりレッドキャップと比べると大した事なかったようだ。

 イマダンはずっと勝利の余韻に浸り切っている。
 目を閉じて、両手ガッツポーズを維持し続けている。
 初めての戦い、前までの世界では味わえない緊張感、武器で相手の命を奪うという行為……昨日の自分もそうだったかも……なにかが吹っ切れた、そんな気分。
 初戦が上手くいって嬉しいのは分かるが、皆んな出発の準備をしているぞ。

 “コツン!”
「いつまでバンザイしている、出発するぞ!」

 魔童女の杖で頭を叩かれたイマダンは、それでも笑顔のままだ。
 俺はゲーム操作盤のモニターがあるはずの部分をチェックした。
 やはり経験値やコインの表示が出ない。
 コインを入れてイマダンを操作しないと、なにももらえないんだ。

 魔童女が戦士の紋章を空に発動させた。

「こちら二次後発隊、第四番隊、若枝の旅団……ダンター三匹退治……オーバー」

 この物々しいパーティー名は軍隊のような組織なのか?
 そういえば国からの勅命で妖精退治してるんだっけ?
 俺たち以外にもかなり部隊がいるようだ。

「誰に連絡してるの?」

 イマダンは恐る恐る魔童女に聞いた。

「知らないのか⁉︎ 
 知らないか……
 この国のそれはそれは偉いドルイドの長たちに討伐報告をしてるんだ。
 それでオレたち、お給料をもらっているんだ」

 なんと結構現実的な話だった。

「そんなスマホみたいに便利なのが、この世界にあるのかよ」

「スマホってなんだ?」

 イマダンは禁止用語を抑えられないのか?
 それと魔童女は質問癖を抑えられないのか?

「だ、たいたいドルイドってなんなんだよ?」

 イマダンは珍しく強めに言い返した。
 どうした?
 魔童女の答えを言えない質問にイマダンは少しキレたように見える。

「き、貴様ぁ! ドルイドは王様よりも偉いんだぞ!
 ドルイドの力で、この戦士の紋章と城を魔法のパイプで繋いで話せるようにしているんだ!
 そんな事も知ら……忘れたのか⁉︎
 こ、このテ、テ――」

 魔童女はかなりお怒りのようだ。
 テ? 野ウサギ狩りの時にも言いそうになったこの『テ』って、モトダンの名前の頭文字かも知れない。
 魔童女も頭では言ってはならないと分かっているが、心では名前を言いたくて我慢出来ない表情をしている。
 魂の存在である俺には分かる……多分。

「テ、テ」

 ほら、魔童女が続きを言いたくて唇がプルプル震えている!
 イマダンも気付けよ、もっと怒らせればフルネームをうっかり口にするかも知れない。

「テ……」

 小さくて幼い唇が開いたりつぐんだり……子供のような眉毛が困ってへの字になったり……頬も赤子のように真っ赤に染まって……つぶらな瞳が自分の感情に戸惑い、言いたい気持ちを抑えきれずに、うるうるに潤い……ああ、かわゆい、萌え~! ダメだ、自分が抑えきれない萌え~‼︎

「テ、天然が!」

 長い葛藤の末、見た目通り幼い感情よりも年齢通りの知性が勝ち、モトダンの名前は出す事はなく残念ではあった。
 でも俺は魔童女の普段とは違う表情が見れて満足して思わずガッツポーズをした。

「ち、違うんだ!」

 魔童女の葛藤などつゆ知らずイマダンは後退りして、例の如く土下座して頭を下げた。
 そんないつもの光景が始まったその時、どこからか大勢の声が聴こえて来る。

「……ホモ~ホモ! ホモ~ホモ!」

 イマダンが滝のようにもよおした、森の奥から響いて来るようだ。

「ウ~ホモォ‼︎」

「あわわわわ~」

 この有り得ない掛け声にイマダンは震えて腰砕けになった。
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