上 下
19 / 30
俺好みの美少女に間違いない!

第19話 「ゲームオーバー」

しおりを挟む
 なんだ、この強さは! 一撃だ。
 まさに無双、チート、俺TUEEEじゃないか!

 俺の心は今までのうっぷんを晴らすかの如く、浮かれはしゃいだ。
  
 目の前の得点を見た。
 表示には『5000』と記されてあり、五匹いたからレッドキャップ一匹に『1000』ポイントの得点だ。
 女神の言う通りパーティ全体の得点が入ったようだ。
 これが経験値やコインにどのような影響を及ぼすのか分からないが、なんだか楽しみになって来た。

 まだ三分の制限時間まで一分残っているので、いろいろ試してみたい。
 レバーを素早く二回連続で動かした。
 あるゲームの走るコマンドを入力してみたが、イマダンの挙動が不審な動きをしただけだった。

「オマエさっきから変だぞ!」

 ただ魔童女からは突っ込まれた。

 良かった、スタートボタンを躊躇して……明らかに単純な行動しか操作出来ないようだ。
 躊躇しなかったら、そのまま素手で戦う羽目になってゲームオーバー確実だ。

 イマダンの身体の操作も飽きたのでゲーム終了が出来るか、スタートやセレクトボタンを押してみたが反応はなかった。
 返却口のボタンを押しても反応はない。
 タイムオーバーになるまで、このバトルゲームは終わらないらしい。

 そうだ、甲冑少女はどこだ?
 もう一度、彼女の顔が見たくて周りを探した。
 いた!
 彼女はすでに兜を被り、細い剣レイピアの傷み具合をチェックしていた。
 彼女を見たら胸のドキドキが収まらない……怒った顔だけでなく、笑った顔やすました顔も見てみたい……
 でも、どうして普段から顔を見せてくれないのだろう? 美人過ぎるから男避けに隠しているのかも知れないな。

「ふう、疲れたわん!」

 詩人少女は大の字で地面に横たわっていた。
 マジックワンドで魔法ビームを打ちっ放しだったから、魔法疲れか。

 魔童女は……あれは?
 魔童女は自分の手の甲から戦士の紋章を空に浮かび上がらせていた。
 なにか独り言を話している。

「――レッドキャップ五匹退治……オーバー」

 報告?
 冒険者の本部に連絡している? 
 冒険者ギルド? いや、国がお金を出してくれるって言ってたから、国の役人に報告したのか?
 戦士の紋章……手の紋章はスマホみたいに会話なんか出来るのか?
 最近聞く体内にマイクロチップを埋め込むと同じ感覚なのかな?
 だから村に入る時、身分証の代わりにスマホもとい戦士の紋章を見せたのか!
 こちらの方は呪文を唱えると魔法陣みたいなのが上空に浮かび上がって来るタイプだけど。
 時代の先取りって感じで、ちょっとサイバーだ。

 そういえば魔童女は魔法を使わなかった……杖でポコポコ殴っていたよな……まさかその格好はこけ脅しで、魔女っ子服はただのコスプレなのか?

 妖精っ娘がイマダンに近付いて来た。

「やればできるジャン……?」

 イマダンの顔をマジマジと見る妖精っ娘。
 彼の顔の周りをクルクル飛び回って様子をうかがっている。

「なんかヘン……」

 そっか、今のイマダンは俺のマイキャラになっているんだ。
 彼は爺の剣を構えて戦闘態勢を維持したまま微動だにしない。
 しかも長い光の刃を出しっぱなしのままだ。

 ……どんな表情をしているんだ……
 俺はゲーム操作盤ごとクルリと回ってイマダンの前に出た。
 うっ! 正気のない表情をしてるじゃないか、まるで蝋人形だ。

「ミンナぁ、なんか変ダヨ!」

 やばいんじゃない、妖精っ娘が皆んなを呼んでる。
 皆んながイマダンの顔を見に集まってくる。
 時間は? まだ三十秒残ってる!

「オマエどうした?」ツンツン!

 魔童女が杖で突いてくる。

 その様子を見た甲冑少女がイマダンの顔を覗き込んだ。

「……?」

 不安を感じた甲冑少女はイマダンの両肩をつかんで前後に揺さぶっている。

「まさか、蘇生魔法が不完全で魂がどこかに飛んでしまったわん?」

 詩人少女のひと言は、皆んなに衝撃を受けたらしい。

「おい……ホントなのか……魂は定着しなかったのか……
 おい! 嘘だろ、嘘って言ってくれ!」

 魔童女は小さい身体でイマダンの背中を激しく揺すった。
 妖精っ娘がイマダンの頭の上に乗って頭を叩いている。

「シンじゃダメぇー!」

 しまいには髪の毛をむしりながら正気を戻そうと暴れている。

 これはまずい……このままでは彼の頭がハゲてしまう。
 とにかく皆んなから引き離した方がいい。
 操作盤のレバーを百八十度回して遠くへ歩かせる事にした。

「????」

 皆んなはいきなり動いて遠ざかって行くイマダンに驚いて呆気に囚われていた。

 このままあと、十、九、八……カウントがゼロになるまで歩き続ければ……

「おい、どうしたんだ?」

 魔童女が追いかけて来る……ヤバい……

「夢遊病、夢遊病ですわん!」

 詩人少女があたふたわめいている……もうすぐ元に戻るからほっといてくれ!

「シッカリするノ!」

 妖精っ娘はさらにイマダンの髪を思いっきり引っ張った。
 辞めてくれ、彼の頭が本当にハゲてしまう。

 五、四、三……もうすぐ俺の操作から解放される。
 あっ、甲冑少女が駆け寄りイマダンの前を塞いだ。
 俺は操作版のレバーを傾けたままなのでイマダンの歩みは止まらない。 
 
 “ガチャ!”
「きゃっ!」

 イマダンと甲冑少女はぶつかってしまった。
 今の悲鳴は彼女から。
 大丈夫か? 爺の剣が彼女に当たってしまった。
 甲冑越しなのでダメージはないと思うが……

 彼女はイマダンと密着した身体を両手で引き離し、彼の肩をつかんで行進を止めようとした。
 俺の二人の様子をうかがい続けていて、うっかりレバーを離すのを忘れていた。
 二、一……カウントダウンが終了に近付いた。
 甲冑少女が顔を上げてイマダンの顔を見つめた。

「どうしたの! いつものあなたに戻って!」

 彼女の必死の懇願を彼にぶつけた……いつもの……二人の間には長い付き合いがあるような言い方に思えた……それを俺はすぐ一メートル上空から眺めていた……ゼロ。

 “♪ホワンホワンホワンホワンホワ~ン”

 自機がやられて負けて終了した残念な電子音が流れた。
 なんで? 戦闘には勝ったじゃないか!

 【Game over】
 “ゲーム、オーバー”

 目の前には英語でゲームオーバーの文字と共に電子音の疑似音声が流れた。

「うわぁぁぁ!」

 イマダンが驚いて爺の剣を放り投げながら無様に尻もちを突いた。
 自我を取り戻したらしい。

「な、なんじぇ?」

 目の前に甲冑少女がいる事に驚いたようだ。
 イマダンはすかさず土下座を始めた。

「ち、違うんだ! えっ、いや、ごめんなさい!
 ……あれ?」

 自分の立場が分からず戸惑っているようだ。

「あいからわずのオマエだな」
「病気は治ったかにゃん」
「しっかりシテ!」
「……」

 キョロキョロと皆んなを見渡したあと、自分の手のひらを見つめるイマダン。

「おれ……おれ、戦ったんだよな……」

 えっ、なに? DO YOU 事?

 “チャリン、チャリン、チャリン!”

 こ、これは? コイン!
 どこからともなく大量のコインが操作盤の上に溢れ返った。
 モンスターを倒した褒美のお金だ! いったい何枚あるんだ?
 目の前の空間に英語と数字が現れた。

 【Score 5000】

 本来モニターがある部分の中央に得点が表示された。
 続いて経験値と獲得コインが表示された。

 【EXP 50   coin 50】

 経験値五十ポイント? 少ないのか多いのか分からない。
 手元のコインも全部で五十枚ある。
 あの【5000】の数字は本当にただのスコア、得点なのか?
 なんのための得点なのか、分からん?
 ……でも、このコインの数……一日一回で五十日分あるじゃないか!
 当分、食事や寝床に困らないぞ!
 最後はボケたがツッコんでくれる人はいない。

 この時、俺はこのコインの数にひとり浮かれて有頂天になっていた。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

異世界漂流者ハーレム奇譚 ─望んでるわけでもなく目指してるわけでもないのに増えていくのは仕様です─

虹音 雪娜
ファンタジー
 単身赴任中の派遣SE、遊佐尚斗は、ある日目が覚めると森の中に。  直感と感覚で現実世界での人生が終わり異世界に転生したことを知ると、元々異世界ものと呼ばれるジャンルが好きだった尚斗は、それで知り得たことを元に異世界もの定番のチートがあること、若返りしていることが分かり、今度こそ悔いの無いようこの異世界で第二の人生を歩むことを決意。  転生した世界には、尚斗の他にも既に転生、転移、召喚されている人がおり、この世界では総じて『漂流者』と呼ばれていた。  流れ着いたばかりの尚斗は運良くこの世界の人達に受け入れられて、異世界もので憧れていた冒険者としてやっていくことを決める。  そこで3人の獣人の姫達─シータ、マール、アーネと出会い、冒険者パーティーを組む事になったが、何故か事を起こす度周りに異性が増えていき…。  本人の意志とは無関係で勝手にハーレムメンバーとして増えていく異性達(現在31.5人)とあれやこれやありながら冒険者として異世界を過ごしていく日常(稀にエッチとシリアス含む)を綴るお話です。 ※横書きベースで書いているので、縦読みにするとおかしな部分もあるかと思いますがご容赦を。 ※纏めて書いたものを話数分割しているので、違和感を覚える部分もあるかと思いますがご容赦を(一話4000〜6000文字程度)。 ※基本的にのんびりまったり進行です(会話率6割程度)。 ※小説家になろう様に同タイトルで投稿しています。

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

処理中です...