ざまぁ戦記〜百合がアナタの秘密を薔薇して刺し上げまショウ〜

君の五階だ

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第35話 百合のジャンガリアン

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 この臭い……機械に使う油の臭い、タバコの臭い、アルコールの臭い、密集する人の汗の臭い……なにより、男臭~い!

「ユリ様、狭いですが辛抱してください。
 この部屋は艦長室で飛行船の中では一番立派な部屋です」

 飛行船はもっと夢のある室内だと思っていたけど、簡素で狭くて臭い……

 “ガタガタガタ”

 ……怖いです。

「今、乱気流に入りまして大きく揺れますが、しばらく辛抱していただければ収まります」

 目の前にはヌゥベル・ハウ・バレッシィー親衛隊長が、私の顔をずっと見ながら話している。

「うっ!」

「ユリ様、大丈夫ですか⁉︎」

 ヌゥベルが背中をさそってくれる。
 飛行船酔いです。
 字の如く、飛行機と船のダブルパンチです。

「だ、大丈夫らりぃ~」

 中身が出ないのは、食欲旺盛なこの身体のせいかも……みゃー助のせいで食べた物はすぐ消化してしまう身体になってしまっていた。

「ど、ど、ど、どどど……どこに行くのですか?」

「はい、この船はクルミゴ国の首都、セバスポンのセバス城に向かいます」

「セバス城?」

「はい、リュドミア・ゴスロリスキー捜索の件と、それ以外の任務もありまして……詳しい事は言えません……軍事秘密です、すみません」

「ゴスロリスキー……うっ、ろりろりろりろりろりろり……」

「ユリ様! 大丈夫ですか⁉︎」

「だ、大丈夫らりぃ~」

 私の胃はみゃー助のせいでブラックホールと化しているのでなにも出ない。
 
 リュドミア・ゴスロリスキー……外見は可笑しかったけれど、中身はまともの人であった。

「この飛行船『ジャンガリアン』はただいま試運転のため低速で飛行しておりますが、通常運転ですと半日で着きます」

 うっ、私がこの飛行船にざまぁを掛けて壊しちゃたから通常よりも遅いという事ね……チクリと私のせいって言ってるのねヌゥベルさん。

「補給も入りますので、おそらく明日の朝には着くと思われます」

 私は窓の外を見た。
 太陽が昇り始めて一時間くらいでしょうか。
 丸一日この飛行船に付き合わなくてはならないのか……
 それまでこの乗り物酔いとも丸一日付き合わなくてはならない……

「ろりろりろりろり……」


   ***


 その時、リボンヌ家では緊急会議が行われていた。

「最初からあのオンナは怪しかったわ」

 マアガレットは怒りで一睡も出来ず、荒れていた。

「ワタシのユリが傷モノにされたらワタシ……もう……」

 マアガレットは頭を抱えた。

「大丈夫です、マアガレットお嬢様! ユリお嬢様は貞操を大事になさる方ですから……ただ……推しに弱くて……もの凄くチョロくて……だ、大丈夫じゃありません! どうしましょう、マアガレットお嬢様!」

 カレンダが珍しく慌てている。

「ワ、ワタシはユリお姉様を信じてます! 例えどんな事があっても……でも……責められたら、されるがまま……ユリお姉様が危ない!」

 エルサも不安で居ても立ってもいられない。

「ユリお姉ちゃんはタッチするだけで感じちゃうよ」

 テルザは救いようがないと諦めてしまう。

「ユリの唇はとっても美味しいわ」
「ユリお嬢様が抵抗するのは最初だけで、すぐ受け入れてくれます」
「ユリお姉様は以外と積極的で最後はノリノリです」
「ユリお姉ちゃんは実は皆んなの弱い場所を知ってるから一番エッチだよ」

「ユリの一番好きな場所は……アソコよ」
「ワタシもアソコです」
「アソコです」
「ユリお姉ちゃんはヤッパリ、アソコだね」

 緊急会議の最後はワイ談で終わった。


   ***


 食事は非常食でした。
 パサパサしていて味はしなかったがお腹が満たされたのでヨシとする。
 
「乾燥していて美味しくありませんでしたでしょう。
 飛行船の中は軍の携帯食しかなくて……そうですわ! 食事の時は町に停泊して町で一番の食事処で食べましょう!」

 そう言ってヌゥベルは艦長室の伝声管に向かって艦長に命令した。

「艦長! お昼は町に降りて食べます。
 分かりましたね」

「ヌ、ヌゥベルさ」
 “カポッ”

 艦長が言い終わる前に伝声管の蓋を閉めた。

「ユリ様、お水はいかがですか?
 顔色が良くなって来ましたね。
 あっ、そうだ! 肩をお揉みいたしましょう」

 誘拐犯ヌゥベルはやたらと親切にしてくれる。

「うむ」

 別に肩など凝っていないが、やってもらう事にした。
 しかし……キャッスルランド『セバス城』の用事が終わったら私を我が家に帰してくれるのだろうか?
 そもそも、どうして私を誘拐したのか?
 ただその事を聞いたら、よからぬ展開に進みそうで怖い! 

 そういえば……マアガレットがセバス城の会員パスポートが欲しいって言ってたよね。
 城の中に入ってなにをしたかったのやら……

「ユリ様、この下の町でお昼を食べましょう」

 “きゅるるるるーん”
「うぃやぁぁぁ!」

「マッ、ユリ様ったら」


   ***


「ここにあるのか、例の物は」

「ええ、この城の最上階に……」

「オレに必要なのか」

「アナタはざまぁ力が他の候補者よりも少ないから、それを補うためにはアイテムが必要なのよ」

「またドロボウするなんてヤダなぁ……ふぁ~」

 身長は小学生高学年くらいか……この国の者とは思えない服装の人物は山のような城を見上げながらアクビをした。
 
「それにしてもアナタのような子供が選ばれるなんて思いもよらなかったわ。
 でも、それが運命というもの。
 よいしょっと!」

 そう言って古い時代に作られ、今は朽ち果てた城壁に飛び乗った痩せた黒猫は人物の方を振り向いて付け加えた。

「もうじき、アナタのライバルもこの城へ来るわ。
 でもまだ戦っちゃダメよ」

「ウソー! 初めてだな、どんなヤツなんだ!」

 その人物はワクワクが止まらないって感じて黒猫に近寄った。

「それは……教えない」

 黒猫が笑ったように話したが、表情は変わらない。

「ケチだな。
 いいのか、審判者のクセにオレに味方して?」

 人物は前々から疑問に思っていた事を聞いた。

「今回はイレギュラーな事が起こったから緊急事態よ。
 アナタ達、候補者の身の安全の確保が大事だから」

「変だよな、オレ達戦っているのに」

「決行は明日。
 それまでどこかで休みましょう」

「ウム。
 ざまぁ!」

 その人物と黒猫はその場から一瞬で消えた。


   ***


「ふあぁぁぁ!」

 ベットはいい。
 私は地上の軍の宿舎の士官部屋のベットでくつろいでいた。
 飛行船ジャンガリアンは補給のため、この大タルソーニア皇国が所有する軍施設に停泊していた。
 おかげでこのベットで眠れる訳だ。
 出発は明日の朝だ。
 しかしクルミゴ国の中に皇国が占領している所有地があるなんて、同じ神聖タルタルソーニア帝国なのに……

 それにしてもヌゥベルはなにがしたいのか分からない。
 私を誘拐したにもかからわず、なにもして来ない。
 百合は百合でもただの百合ではないという事か?
 いっそ、私から襲ってみようかしら?
 ……私ってば、ナニを考えているんでしょう。

「ふわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~……
 早よ寝よ」

 私は横になって気付いた。
 この異世界に来て初めて安全に寝れる事に!
 ここには私を襲う餓鬼四人衆がいない!
 私の身体に安らぎが訪れた!
 あぁ神様ヌゥベル様、幸せな安眠をありがとう!

 幸せで満ち溢れている私がウキウキしている頃、隣の士官部屋にはヌゥベルが私がいる部屋に向かって手を合わせて祈っていた。

「あぁユリ様……アナタはワタシの女神です。
 ワタシを導いてくださいまして、ありがとうございます。
 いつまでもお側でお世話したいと思います」

 ヌゥベルの顔は幸せで満ち溢れていた。


   ***


 朝です、いえ、まだ夜です。
 この時間に出発すれば朝にはセバス城に着くという事だ。
 私は乗り込んですぐ酔い始めた。

「ぐるしいよ~」

「ユリ様、あと小一時間でセバス城に着きますから辛抱してください」

 ヌゥベルは私の背中を撫でながら元気付けてくれる。
 昨日の夜は幸せ過ぎてウキウキしていたため寝不足になってしまった。
 それで余計、乗り物酔いが激しくなってしまった。

「リュドミア・ゴスロリスキーはざまぁ大会の最終日まで城に通っていたそうです。
 でも失踪の原因は掴めないと思われます……」

 リュドミア・ゴスロリスキー……あのゴスロリの小さい帽子とゴスロリの小さい傘は役に立ったのでしょうか……

「ろりろりろりろり……」

「ユリ様!」

 やはり私の胃袋はブラックホールなのでなにも出ない。
 ヌゥベルが私のために水を用意してくれた時、飛行船ジャンガリアンのスピードが遅くなり、停止した。

「セバス城に着いたようです」

 私は久しぶりのセバス城が見たくて窓までお婆ちゃんのようにヨタヨタ歩きをして覗き見た。
 城はあいからわず山のようで大きい。
 上から見ると迷路のような造りで守りは鉄壁だ。
 鉄塔もいくつかあり、てっぺんからアンテナのようなものが伸びている。
 私はさっそく城に行くため艦長室からヨタヨタ出ようとした。

「ユリ様、どちらに行かれます?」

「城にちょっと……」

「ユリ様、ユリ様は城には行けません。
 ここで待っていていただけますか」

 え~、なんでぇ~! じゃぁ、この飛行船の旅はなんだったのですかぁ! ただ乗り物酔いをしただけなの!

「わ、わ、私も行きたい……」

「ダメです、軍人しか行けません」

 私はエレェイヌと一緒に城を冒険した事を思い出した。
 楽しい思い出……
 そう私はまだ城の全貌を解き明かしてはいない!
 マアガレットが欲しがっている会員パスポートの理由の全貌も謎のままだ!
 どんなアトラクションが私を待っているか、その全貌もまだだ!
 私があのまま王の娘になったのなら、どんなスイートルームに住めたのか知っておきたい!

「行きたい行きたい行きたいぃぃ!」

 私は駄々を捏ねた。

「ユリ様!」

 ヌゥベルは困り顔で私をあやした。

 シュワワワワ……ソーダ! その時、私はいい事を思い付いた。

「私に軍服を着せてください! そうすれば軍人さんになれます!」

 私はヌゥベルに拝み倒した。
 ヌゥベルはしばらく悩んだが私の聡明さに気付いたのか、目を見開いて開眼した。

「そ、そうですね! さすがはユリ様です。
 一緒に城に入りましょう」

 私の入城は決まりです。
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