アヒルの子~元王女は世界で一番憎い人と結婚します~

有楽 森

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第二章~自由の先で始める当て馬生活~

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「あのぅ……つかぬことをお伺いしますが……」


 恐る恐る切り出す私。そのつもりはないのに、ついつい手を揉み合わせる。

 唐突に畏まった私に、オーリーは不信感を持ったようで、引きつった顔を今度は歪めた。


「何だよ?」


「……オーリーは生物の記憶媒体に干渉する魔法なんて……使えたりは……」


「……んだそれ」


「つまり、他人の記憶を見たり、変えたりする魔法なんだけど……」


「はぁ!?」


 何を突拍子もない事を。オーリーの顔が雄弁に語る。

 当り前じゃない。私はホッと胸を撫でおろした。

 あれは禁術中の禁術で、はるか昔に封印された魔法。今は魔法式を閲覧するだけでも違法だ。

 オーリーが知っているわけないじゃない。

 ではオーリーがさっき変な顔をしたのは、やっぱり私の振る舞いが子供過ぎたのね。


「そんな便利なもんが使えたらとっくにっ……」


 オーリーが何か言いかけて唇を噛んだ。言い訳めいた瞳が足元に落とされる。

 何を言いかけたのか分からないけれど、もしも私の頭の中を覗いたと言いかけたのだったら、途中で止めて正解。

 そんな事言われたら、いくら私でもどうしたら良いのか分からないもの。

 私は良い気になり、笑みを隠さず首を傾げた。


「いや、何でもない。できるだけ早く帰ってくるから。何かあったら、すぐに連絡するように。良いな?知らないやつが来ても、絶対家に中に入れるんじゃねぇぞ」


 あら?オーリーの態度に懐かしさを覚えて、心の中で首を傾げる。


「分かってるわ。前回で嫌という程学んだもの。安心して。今度こそ無事に留守を預かって見せるわ」


 私は拳で胸を叩く。勇ましい戦士になったつもりで胸を張る。

 私はいたって真面目にしているのに、どうしてかオーリーが口元を抑えた。


「くっくく……」


 漏れ出る苦笑。

 まぁ、失礼しちゃう。


「何で笑うのよ、もう!さっさと行けば良いじゃない」


 私は大人っぽさなんて忘れて、頬を膨らませてオーリーを睨んだ。



「悪かったって。そうむくれるなよ」


 オーリーはまだ笑ってる。謝る人の態度じゃないわ。

 それにこのやり取りって、ジージールみたいじゃない?マンナもそうだけれど、ジージールも結構過保護なにょね。

 やっぱり子供扱いされているだけ?


「何よっもう!私真剣なんだから!この前の事もあるし、留守も預かれないと思われるのは……というか……」


 このままでは、元王女としてのプライドが許さないというか。

 私はそこらへんのちやほやされているお嬢様とは違うんだから。



「とにかく、あなたの信頼を得る為にはお留守番くらいは軽くこなして見せないと」


「俺の?」


 一瞬、オーリーの瞳が艶めく。


「そうよ。あなたやクライブやジェスの信頼が欲しいの」


 私がそう言うと、オーリーは顔から力が抜く。笑ったんじゃない。期待外れ、表情が訴える。
 オーリーは目を瞬かせ、私から視線を逸らした。


「何だって、そんなものが欲しいんだ?」


「あら、あなたが言ったのよ?推薦状があれば組合に入れるって。推薦状を書いてもらうには私という人物がハンターとして実力、人格共に十分であるとあなた達に認めてもらわないと。いつまでもここでお世話になるわけにはいかないもの」


「…………っといれば良いじゃないか」


 オーリーがキュッと口を結んだ。やはり私から視線を逸らしたまま。

 耳はほんのり赤くなっている様な気がしないでもない。


 オーリーは照れているのね。オーリーがお世辞を言うならきっとまっすぐ目を見ているはずだもの。

 やはり、私を好いているに違いないわね。


「なぜそんな事を言うの?」


 私は心の中を態度に出さないように必死だ。ニヤリと笑いそうになり、慌てて済まし顔で尋ねた。

 首を傾げて上目遣いも忘れずに。


「別に……っり、猟も森の管理も楽だしな。行ってくる」


 オーリーが速足で去っていく。
 背中を見送りながら、私はニンマリ笑みを浮かべる。そして姿が見えなくなると、私はグッと拳を握った。


 ずっといれば良いじゃないか、ですって。あぁ!私の美貌が怖い!

 私は興奮しながら、つい独り言ちる。


 「オーリーはおちてる。間違いないわ」


 もしかしてだけれど、この状況は、私の演技力が向上している証ではないかしら。

 人はどこか自分と似たような人に惹かれると思うの。庶民が好きになるのは、きっと庶民。

 だとすると、素直で可愛らしい可憐な女の子を演じられる日も遠くなはず。


 私は腕を組み片手を顎に当てる。
 ニンマリとした笑顔が歪み、先程のセリフも相まっておおよそ王女らしくない。


「私……自分の才能が怖いわ」


「王女としてあるまじき顔になってるぞ」


「あら、もう王女じゃないもの。平気、よ?」


 誰とも分からない声に返事をして、違和感を覚えたのは言い終わろうかという時。

 語尾にはてなマークがつく。語尾が上がるのと同時に、首を傾げた。




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