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第二章~自由の先で始める当て馬生活~
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程なくして、オーリーが呼んだ応援が駆けつけた。
私とオーリーはその場で洗浄され、その後、まだ意識を失ったままのイヴと痺れと硬直が見られるオーリーはもちろんの事、症状らしい症状はないけれど、スライムの粘液を浴びている私と、念のためエリンもすぐに病院に運ばれ検査を受けることとなった。
検査の結果イヴとエリンは即日に開放され、私は一日経過観察、オーリーはしばらく入院となった。
ただ、イヴとエリンが帰る前、オーリーが喋れる程度に回復してきた時。
比較的静かな病室で私達は……いえ、彼らは今日の出来事を、ポツリポツリと話し合っていた。
それによると、オーリーはひったくりにあい帰りが遅くなったらしく、イヴは殴られる前後の記憶がなく自分が何故意識を失ったのか覚えていなかった。
ひったくり自体は珍しい事じゃないけれど、よりにもよって今日というのは偶然と片付けるには出来すぎている。
そのひったくりはオーリーが何度見失ってもすぐに見つけられたし、最後には奪われた物がまるまる戻ってきたって言うのだから、オーリーを引き留めておくのが役目だったという印象を受けた。
エリンが私にも言ったのと同じく、事前に準備をしてから挑んだのだろうと言った。けれど、その目的はオーリーの殺害じゃないのは誰の目にも明らかだ。
もしかすると、ジェスとクライブが出かけた後にやって来たから、本来の目的は別にあるんだろう。
そんな会話に耳を傾けながら、私は男の行動の違和感に気付いた。
今、よくよく思い返してみれば、家から出てきた私を見た男は驚いていなかったかしら。
誰もいないと思っていたはずの家から人が出てきたら、誰がだって驚く。
けれど、それもおかしな話で、事前に準備をしているはずなのに、数日前からこの家に居候している私の存在に気付いていなかったなんて。
おかしな部分はもう一つある。
どうして、男はエリンを案内役に選んだのか。
仮に、男は守り人を狙って襲撃したように見せかけて、その実、何かを探していたとして、家に詳しいエリンを選んだのは、あの中では一番正しい選択だ。
でも何故その選択ができたのかと考えた時、男の行動はチグハグしたものになってくる。
始めにエリンがこの家に詳しいと私に印象付けたのは、男を気絶させた後ロープを取りに行った時だ。
その時に男がイヴの魔法具で気絶するフリをして、私達の会話を聞いていたとも考えられるけれど、確かにあの時、男に意識はなかった。ちゃんと確認したもの。
男が目を覚ましたのは少なくともロープで縛られた後の、エリン達が魔法具を持って戻ってきた後の、さらには、私がイヴの魔法具を受け取ったその後の事だ。
あの時の私は、手直しできる魔法具はないか見ていた。あのスライムが唐突にこちらに反応のはその時。
男が目を覚ましたのはきっとその時だ。だから、目についたエリンが持っていたナイフと、自分を一度昏倒させたイヴの魔法具を奪った。
私がイブの魔法具を持っているを分からなかった。
そう……男はそれまでの会話を聞いていないはずなのに、エリンがこの家に詳しいと確信しており、連れて行こうとした。
この二つの矛盾の鍵は一体何かしら。
男が一番最初に襲ったのが、油断して背中を向けていた私ではなく、イヴだった事も関係があるのかしら。
「ねえ、私ちょっと気になる事があるんだけど……」
それまで会話をぼんやりと聞いているだけだった私の、唐突な切り出しに三人とも驚いた様子だった。
けれど、私が話せばすぐにそれも訝し気なものに変わる。
今この些細な疑問が、どれだけの意味を持つかなど誰にも分らない。もしかすると私の疑問など、取るに足らないものかもしれない。
それでも真剣に聞いてくれる三人に、私はどこかほっとする。
城で暮らしていた時、我儘王女と名高く見た目の幼い私の話を、勘違いを、間違いを、笑わずに聞いてくれる人は結構貴重だった。
マンナもカクもジージールもルビィも、いつも私の話を聞いてくれた。それから私の勘違いを丁寧に説明してくれる人たちだった。
だから私はいつも安心して相談できていた。
そうね、ここ最近は相談なんてあまりしていなかったから忘れていたわ。
今も何も考えずに口に出してしまったけれど、これからは気を付けなくては。
だってこの人たちは、彼等ではないのから。
自分の発言に責任を持つって大事よね。今までだって無責任に喋っていたわけではないけれど、失態を犯してしまいそうになった時は止めてくれる人がいた。だから、私もそこまで緊張感を持って話していたわけではなかった様に思う。
けれど今は私をフォローしてくれる人はいない。言って良い事と、言ってはいけない事の区別を自分で判断しないと、間違えてしまった時はすべて私の印象として返ってくる。
だから、すごく迷うのだけれど……けれど、どうしても気になって仕方ない時って、やっぱり素直に尋ねるしかないと思うのよね。
さっきの疑問もそうだけれど、もう一つ。どうしても気になっている事がある。
あの時、オーリーはどうして私に抱き付いたのかしら。
けれどそれを尋ねてしまったら、私の当て馬作戦に弊害が起きる気がして、どうしても素直に聞けないのよね。
私とオーリーはその場で洗浄され、その後、まだ意識を失ったままのイヴと痺れと硬直が見られるオーリーはもちろんの事、症状らしい症状はないけれど、スライムの粘液を浴びている私と、念のためエリンもすぐに病院に運ばれ検査を受けることとなった。
検査の結果イヴとエリンは即日に開放され、私は一日経過観察、オーリーはしばらく入院となった。
ただ、イヴとエリンが帰る前、オーリーが喋れる程度に回復してきた時。
比較的静かな病室で私達は……いえ、彼らは今日の出来事を、ポツリポツリと話し合っていた。
それによると、オーリーはひったくりにあい帰りが遅くなったらしく、イヴは殴られる前後の記憶がなく自分が何故意識を失ったのか覚えていなかった。
ひったくり自体は珍しい事じゃないけれど、よりにもよって今日というのは偶然と片付けるには出来すぎている。
そのひったくりはオーリーが何度見失ってもすぐに見つけられたし、最後には奪われた物がまるまる戻ってきたって言うのだから、オーリーを引き留めておくのが役目だったという印象を受けた。
エリンが私にも言ったのと同じく、事前に準備をしてから挑んだのだろうと言った。けれど、その目的はオーリーの殺害じゃないのは誰の目にも明らかだ。
もしかすると、ジェスとクライブが出かけた後にやって来たから、本来の目的は別にあるんだろう。
そんな会話に耳を傾けながら、私は男の行動の違和感に気付いた。
今、よくよく思い返してみれば、家から出てきた私を見た男は驚いていなかったかしら。
誰もいないと思っていたはずの家から人が出てきたら、誰がだって驚く。
けれど、それもおかしな話で、事前に準備をしているはずなのに、数日前からこの家に居候している私の存在に気付いていなかったなんて。
おかしな部分はもう一つある。
どうして、男はエリンを案内役に選んだのか。
仮に、男は守り人を狙って襲撃したように見せかけて、その実、何かを探していたとして、家に詳しいエリンを選んだのは、あの中では一番正しい選択だ。
でも何故その選択ができたのかと考えた時、男の行動はチグハグしたものになってくる。
始めにエリンがこの家に詳しいと私に印象付けたのは、男を気絶させた後ロープを取りに行った時だ。
その時に男がイヴの魔法具で気絶するフリをして、私達の会話を聞いていたとも考えられるけれど、確かにあの時、男に意識はなかった。ちゃんと確認したもの。
男が目を覚ましたのは少なくともロープで縛られた後の、エリン達が魔法具を持って戻ってきた後の、さらには、私がイヴの魔法具を受け取ったその後の事だ。
あの時の私は、手直しできる魔法具はないか見ていた。あのスライムが唐突にこちらに反応のはその時。
男が目を覚ましたのはきっとその時だ。だから、目についたエリンが持っていたナイフと、自分を一度昏倒させたイヴの魔法具を奪った。
私がイブの魔法具を持っているを分からなかった。
そう……男はそれまでの会話を聞いていないはずなのに、エリンがこの家に詳しいと確信しており、連れて行こうとした。
この二つの矛盾の鍵は一体何かしら。
男が一番最初に襲ったのが、油断して背中を向けていた私ではなく、イヴだった事も関係があるのかしら。
「ねえ、私ちょっと気になる事があるんだけど……」
それまで会話をぼんやりと聞いているだけだった私の、唐突な切り出しに三人とも驚いた様子だった。
けれど、私が話せばすぐにそれも訝し気なものに変わる。
今この些細な疑問が、どれだけの意味を持つかなど誰にも分らない。もしかすると私の疑問など、取るに足らないものかもしれない。
それでも真剣に聞いてくれる三人に、私はどこかほっとする。
城で暮らしていた時、我儘王女と名高く見た目の幼い私の話を、勘違いを、間違いを、笑わずに聞いてくれる人は結構貴重だった。
マンナもカクもジージールもルビィも、いつも私の話を聞いてくれた。それから私の勘違いを丁寧に説明してくれる人たちだった。
だから私はいつも安心して相談できていた。
そうね、ここ最近は相談なんてあまりしていなかったから忘れていたわ。
今も何も考えずに口に出してしまったけれど、これからは気を付けなくては。
だってこの人たちは、彼等ではないのから。
自分の発言に責任を持つって大事よね。今までだって無責任に喋っていたわけではないけれど、失態を犯してしまいそうになった時は止めてくれる人がいた。だから、私もそこまで緊張感を持って話していたわけではなかった様に思う。
けれど今は私をフォローしてくれる人はいない。言って良い事と、言ってはいけない事の区別を自分で判断しないと、間違えてしまった時はすべて私の印象として返ってくる。
だから、すごく迷うのだけれど……けれど、どうしても気になって仕方ない時って、やっぱり素直に尋ねるしかないと思うのよね。
さっきの疑問もそうだけれど、もう一つ。どうしても気になっている事がある。
あの時、オーリーはどうして私に抱き付いたのかしら。
けれどそれを尋ねてしまったら、私の当て馬作戦に弊害が起きる気がして、どうしても素直に聞けないのよね。
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