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第二章~自由の先で始める当て馬生活~

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 エリンが私を言葉を選び庇う。そしてオーリーが警戒を解いたかと思えば、次の瞬間には、私はオーリーの腕の中に抱きしめられていた。

 オーリーの逞しい腕と温もりが私を包み込む。
 何故、どうして。頭を困惑が支配して、オーリーが口にした私の名に込められた熱っぽさに、私は全く気が付いていなかった。


「オーリー?あなたどういうつもり?」


 オーリーに銃を向けられる。まったく驚かないといえば嘘になる。けれど、それは仕方ないと納得できた。

 彼らが私を監視していたのは気付いていたし、状況を理解できない中で最悪を警戒をするのは最もだから。


 けれど、どうしてそれが私を抱きしめる事になるのかしら。しかも、よりによってエリンの前で。


 想い人と当て馬が抱き合っている、もしくは抱き合っているかの様に見える場面を、偶然見てしまう主人公。

 正直なところ、嫌いじゃないシチュエーションではあるの。寧ろ好きともいえるかしら。

 けれど、こういうイベントはストーリー序盤よりも、もっと主人公が順調に彼との仲を深めていった後で起こった方が盛り上がると思うの。
 諦めるつもりで忘れようとしても忘れらない展開でも、その場で乱入して当て馬と火花を散らす展開でも、どちらでも私は好きだ。

 誤解が解けるまでのすれ違いは、もどかしくも切なくて恋愛小説の醍醐味ともいえる。

 けれど現実に駆使するテクニックとして考えた場合、タイミングを間違えてしまえばその効果を最大限に発揮できないどころか、そのまま破局へと繋がる諸刃の剣と化す。


 万が一エリンのショックが大きすぎて、やる気がそがれしまったら元も子もないじゃない。まずはエリンの独占欲を育ててからじゃないと、こういうイベントは逆効果よ。



 そう言った物凄い個人的な事情もあり、私は、私を抱きしめたままのオーリーにどういうつもりなのか問う。
 そう言えばオーリーは、私から離れると思ったから。

 だって、私はもう子供の体じゃない。
 姿を変えているとはいえ16歳の体をしていて、見た目にも立派な淑女のはず。みだりに体に触れたり、触れさせるものじゃないって知っている。
 たとえ初めてでなくとも、男の人に抱き付きられれば恥ずかしい。けれど、それは些末なことだ。

 ただ私が言いたかったのはそんなことではなくて、もっと別の事だった。

 私はオーリーに説教をするつもりだったのだ。警戒を解くなんて危機感が足りないのではなくて、と。

 けれど、次の瞬間状況は一変する。


「わ、わる……い」


 そう言いながら、オーリーが足から崩れ落ちたのだ。腕は硬直し、私を抱き締めたまま倒れ込む。

 私もとっさにオーリーを支えようとしたけれど、魔力を込めるのが間に合わなかった。気が緩んでいたのは私も同じだったみたい。

 辛うじて膝立ちの状態でオーリーを受け止める。


「オーリー!?しっかりして!」


「たい、じょ……しひっれ、て……だ、けったから」


 痺れているだけ? どうして? スライムの毒かしら? けれど、私は何ともないわ。 私は体を毒に慣らしているから、何ともないだけ? だとしたらスライムの毒は特別な物ではないかしら。

 未知の生物なのに?持っている毒は未知ではない?

 それともスライムとは別の? 仲間がいる?  もしそうだとしたら、今は抵抗できないわ。

 
 
「エリン! イヴと一緒に隠れて!男の仲間がいるかもしれない!」


 
 エリンが背後で息を呑む気配がして、慌ただしく足音が遠ざかる。


「ぁ゛ぃ……」


  喋りたくとも言葉にならないオーリーの、吐く息が首筋をくすぐり、奇妙な感覚が残る。

 良く考えれば、身内以外で体を密着させるのってアートとネノス以外ないのよね。この二人も厳密にいえば身内ともいえるし。


 私より筋肉質で固く、太い腕に抱き締められている。
 結構恥ずかしいしちょっとだけドキドキするけど、もう何度目かになると思ってたよりは緊張しないものね。

 ネノスの時はとにかく初めてで、恥ずかしさよりも驚きが勝った。

 アートの時は……………… もっと心臓が早くて、強くて、苦しかった。



「…………っ!」


 途端に、心臓がズキンと痛む。一瞬息がつまり、吐き出す吐息に微かに嗚咽に似た声が混じる。


 オーリーに気付かれないよう、私は下唇をグッと噛んだ。

 私の心はいつだってそれを求めていて、だから、ずっと拒んでいた。

 けれど思い出してしまったから。しまった。失敗したわ。


 あぁ、思い出したくなかった。ポロリポロリ涙が溢れ頬を伝い落ちる。


「だい、じょ、ぶよ……きっと」


 
 内から沸き上がる恐怖に手が震え、オーリーを抱える腕に力が入った。

 苦しくて目を閉じれば、あの日テレビに映し出された、私のお葬式の映像が脳裏に甦る。


 きっと大丈夫。心の中でもう一度自分自身に言い聞かせる。


 何がこれ程怖いのかって、あの映像にはアートが映ってなかった。


 私たちが襲われた、あの日。私はアートを逃がしたつもりでいた。


 けれど、本当にだけだったら?


 あの時、外に出たアートが敵に襲われていたとしたら?


 確認する方法なんて、どうすれば良いのかわかってる。簡単な事。

 けれど、その簡単な事が、私にとっては果てしなく困難で。

 会いに行く勇気が出なくて、今もここに留まっているのだから。






 


 

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