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第二章~自由の先で始める当て馬生活~

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 二人はいつくかの魔法具を抱え、階段を下りてきた。平然としているあたり、まだ魔獣に気付いていないのかもしれない。


「ある事はあったけど、使えるかどうかは……。普通こういうのは厳重に保管しなきゃいけないんだけど、これは引き出しに入っていたから、壊れているのかも」


 二人は男からいくらか離れた所に魔法具を下ろす。 二丁のナイフと一振りの短刀、銃、ブーメラン、金属繊維の網。 狩猟に使う道具がいくつかある。



「多分、これくらいしか使えないと思う」


 イヴが私にナイフを手渡してきた。


 エリンの言った通り、ほとんどの魔法具は壊れていた。

 多分、魔法式が擦り切れ意味をなさなくなっているのだと思うのだけれど、網とかは魔法式が小さすぎて、最早肉眼では見えない。
 銃の式は分解しないとだしそんな時間はない。ブーメランの魔法式に至っては判別不可能だ。


 イヴの言う通り、術式がしっかり残ってるのはこのナイフ1本くらいだった。


 ナイフの刃に刻まれた魔法式を指でなぞり読む。火の魔法式が彫り込まれている。


「これは、慣れていないと扱いが難しそう」


 この手の広範囲に使える魔法具は私には向かない、というか危険でしかない。

 私の様に魔力の細かい操作ができない場合、最大火力となり、この辺り一帯は炎に飲み込まれる。
 もちろん、操っている私自身も巻き込まれるので、火に耐性がない場合間違い死ぬ。


「これは、あなた達のどちらかが持っていた方が良いかも。火が吹き出すナイフ……多分、焼き切る必要がある時に使っていたのでしょうね」


 火に焼かれるのは絶対嫌だもの。


「じゃあ、私がもらうわ。イヴよりは慣れているし」


「そそそそうね。私だったら自分まで燃やすかも」



 ナイフはエリンの手に納まり、イヴは顔を青くして何度も頷いている。


 自分を燃やしちゃうって、まるで私みたい。別にカラス羽というわけではない様なのに、不器用なのかしら。


 使える魔法具がこれだけなのは心もとない。正直なところ、もっと決定打になる何かが欲しいわね。

 私はイヴに頼んで、彼女が持っている魔法具を見せてもらった。この場にある使える魔法具の中で、ダメージを追わせられる可能性があるのは、彼女の魔法具だけだ。


 飾りっけのない無骨でシンプルな腕輪。その内側に魔法式が彫り込まれているのだけれど、私は想像以上のものに言葉を失った。

 これは、想像以上にえぐい魔法だわ。彼女が使うからこそ、相手の魔法を奪ったり、寝たりするだけで済んでいるのね。

 もしかしたら、外の魔獣にも有効かもしれない。


「これ、傷つけても大丈夫なものかしら?何物代えがたい大事な物だったりする?」


 私は内側に掘られた魔法式を見ながら、イヴに尋ねた。実はすでに、頭の中では既に次の手順を考えていたりする。


「別に、そうでもないけど……」


「では、術式を変えても良いかしら?最悪消えてしまうかもだけでど」


「別に良い……って出来るの?」


「ええ、まあね……」


 私は次のイヴの言葉など待たなかった。半分無意識に返事を返していて、手元はすでに作業に映っていた。

 とても簡単だ。指先に魔力を貯め、魔法式の部分を指先で潰すだけ。
 消したのは使用者をイヴに制限する部分。これで、イヴ以外もこの魔法具が使える。


 本当は使用者を私とエリンを加えたかったけど、そんな加工をしている道具も時間もない。


 …………だってほら、また来たわ。



 独特な唸り声を上げながら、外をまた魔獣が通り過ぎていく。


 イヴが両手を口を押さえ、悲鳴を飲み込んだ。
 エリンは玄関から距離を取るのはもちろん、男からも離れた。イヴを背中に隠し、ナイフをグッと握り直す辺り、頼もしさしか感じない。


 けれど、安心して。貴方たちは私がきっと守るから。指一本触れさせないわ。


 男が目を覚ます前に魔獣を片付けるか、それとも男の方をやるか。このイヴの魔法具があれば可能よね、なんて考えている時だった。


 魔獣が玄関の前でピタリと止まったのだ。
 その場でモソモソ動いている。ちょうど周囲を探る時の動物の仕草に良く似ている気がしないでもない。


 魔獣が低く唸る。イヴの息を呑む小さな声が、指の間から漏れ出てしまった。


「ひっ」


 魔獣はピタリと動きを止めた。

 イヴの声は本当に小さな音だった。それでも聞き留めたのだから野生の生き物って、本当に耳が良い。

 始めに止まった時も中の声が聞こえて…………聞こえて?


 違うわ。あの時は誰も喋っていなかった。


 では魔獣は何に反応したのか。


 私は考えるより先に、体が動いていた。


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