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第二章~自由の先で始める当て馬生活~
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私は自分が特別だっていう自覚がある。
それは何も、高貴であるとか尊いだとかいうんじゃなくて、特殊な生い立ちだというだけの事で。
私は強くあらねばならなかった。訓練は辛くとも投げ出せず、結果、同い年の女の子よりははるかに戦えるようになった。
けれど、私自身が武力を好むかといえば、それは違っていて、私は平穏が好きだし、できれば戦いとは無縁で過ごしたい。
痛いのは嫌いだし、武力で解決するのは好きじゃない。
けれど、今は、この拳を振るうのに躊躇はない。
私は男目掛け、床を蹴った。
「ま、まて……」
男がよろめきながらも、二人に手を伸ばす。もしかすると、魔法を使うつもりだったのかもしれない。
男が呪文らしき言葉を紡いだが、光もしない暖かな空気が、私の頬を撫でただけ。
勝負にもならないわね。
「あの子たちの勝ちよ」
私は思いっきり、男の顔面に拳を叩きこんだ。
「ぐぇっ」
男が変な声で仰向けに倒れていくのを、私は勝ち誇り鼻で笑った。
とはいえ、魔法を使ってくる相手は本当に油断ならない。さあ畳み掛けようかという時「待って!」少女のどちらか、声が上がった。
「え?」
私は今まさに男を踏みつけようとしていた足を避けて下ろし、後ろを振り返った。
私と目が合うと、エリンが首を横に振った。
「そこまでしなくても大丈夫。さっき魔法具使ったし、そいつ、もうまともに魔法は使えないから」
まともに魔法が使えなくても、そこを何とかしてしまう魔法師を知っている。
マンナっていうのだけれどね。
そのマンナの教えでは、魔法師だろうと戦士だろうと、敵の戦意は徹底的に叩き折るべきとなっていて、逃げられないように念入りにとも教わった。
もっともマンナの場合、例え、喋れないように顎を外し手足の骨を折り縛り上げても、攻撃してきそうなのだけれど。
マンナは化け物じみた強さだったけれど、あれでも全盛期と比べれば劣るというのだから、マンナの敵じゃなくて良かったって、何度思ったことか。
「油断はできないわ。逃げるかもしれないし」
「でも、よく見て、気を失ってるじゃない」
「え?」
私は言われて初めて、男が全く動かない事に気がついた。
確かに…………ピクリとも動かないわね。 けれど気絶したふりかもしれない。
「万が一って事もあるし……その、念には念を入れて、喋れないよう顎を外すとか、逃げれない様に骨を折るとか……」
私は魔法師である男をこのままにしておく方が不安なのだけれど、何故かしら。
二人ともドン引きしてない?アートも変な顔してたけど、あれはアートが過保護に育てられたからじゃないの?
もしかして逃げない様に骨を折ったり、魔法を使えない様にちょっっっっと手荒な事をするのって、庶民の間では普通じゃないのかしら。
私の命を狙ってくるのは、エグモンドおじ様が雇ったプロだったりするから、本当に油断できなくて、敵は常に疑えというのが私の中の常識だった。
けれど裏を返せば、それは、私にマンナやカク、ジージールといった警護がついているからであって、一人で行動する庶民に手練の殺し屋などというのは無用なのかもしれない。
そうなると、二人の反応からして……たぶん……というか絶対、やり過ぎている……気がする。
暴力と無縁――かもしれない――の二人から見れば、突然襲ってきた男も、その男に暴力を振るう私も大した違いはないのかもしれない。
万が一、同類と思われたら、かなりショックだ。
「ち、違うんです!ロープがないから、仕方なくです!悪い人は治安部隊に引き渡さないといけないじゃない!?逃がさないのが大事かと思ってですね。私普段は戦闘よりもお花とダンスが好きで、決して暴力が好きだとか、慣れているだとか、ましてや人を殺したいなんてそんな事もまったくないんです!」
焦って早口で余計なことまで繰り出してしまった弁明に、少女たちは微妙な表情のまま気の抜けた返事をするだけで、私納得してくれた様子はない。
これって完全に失敗してない?寧ろ墓穴掘ってない?
私は無害アピールをして、推薦状を貰うつもりだったのに、もしもこの事がオーリーの耳に入ったら?
初めての留守番を成功させて、イメージアップを図るつもりだったのに、これじゃあきっと、危険人物だって推薦状書いてもらえない。
エリンとイヴが互いに視線を交わし、困惑げに私を見る。
私はというと、とても二人の顔を見れる気分じゃなくて、肩を竦め背中を丸める。もう泣きたい気分。
エリンが大きく溜息を吐いた。
「ロープのある場所なら知ってる。私取ってくる」
そう言うと、エリンは気を失っている男をひょいと飛び越え、奥のリビングへ入っていく。
エリンが男を飛び越える瞬間、彼女じゃなくて私が肩を竦めた。
いきなり足を掴まれたらと怖かったのだけれど、まあいいわ。男は本当に気絶しているみたいだし、今は出来る事をしておかなくてはね。
まずは、この男が本当に気絶してるのか確かめないと。
「ねえあなた、イヴといったかしら?教えてほしいのだけれど」
イヴはいきなり私に話しかけられ、驚いたようだった
体をビクつかせ、初対面で気の強さが嘘のように、今は心もとなげにリビングの扉を見つめている。
「この男が気絶しているって、魔法具の効果なんしょうか?」
「え?えぇ、そうよ」
「どのくらい目を覚まさないのかわかりますか?」
「それは……確かな事はわからないの。以前は三十分は目を覚まさなかったけれど、その前は二十分くらいで目を覚ましたし。でも、効果が続いている時はよほどの事がないと目を覚まさないはず…………そう聞いてる。」
という事は、二十分より早く目覚ます可能性すらある。もしもの時の為に、男が持つ手段を奪うべきだ。
急いだほうが良いわね。
魔法具は捕まった時に、表に見えていたものは全て取られてしまったので、魔法を封じる道具もない。
拘束するだけなら、隠し持っている物があるけれど、できれば使いたくない。
となれば、あとは男の服を脱がして検分するしかないのだけれど…………よく考えなくても、出来ないというよりやりたくなくないわね。
殿方の衣服を引ん剥くなんて破廉恥な真似、淑女としてあるまじき行為無理よ。
よし、こうなったらさっさと町へ逃げたましょう……って、これは初めにあの子達がやろうとしてたことよね?
私が引き止めたからこうなったのに、結局逃げましょうってなったら……なんか、こう……恥ずかしい…………じゃなくて無責任よ。
しかも理由が男を裸にしたくないからって、凄く卑猥に聞こえるわ。
それは何も、高貴であるとか尊いだとかいうんじゃなくて、特殊な生い立ちだというだけの事で。
私は強くあらねばならなかった。訓練は辛くとも投げ出せず、結果、同い年の女の子よりははるかに戦えるようになった。
けれど、私自身が武力を好むかといえば、それは違っていて、私は平穏が好きだし、できれば戦いとは無縁で過ごしたい。
痛いのは嫌いだし、武力で解決するのは好きじゃない。
けれど、今は、この拳を振るうのに躊躇はない。
私は男目掛け、床を蹴った。
「ま、まて……」
男がよろめきながらも、二人に手を伸ばす。もしかすると、魔法を使うつもりだったのかもしれない。
男が呪文らしき言葉を紡いだが、光もしない暖かな空気が、私の頬を撫でただけ。
勝負にもならないわね。
「あの子たちの勝ちよ」
私は思いっきり、男の顔面に拳を叩きこんだ。
「ぐぇっ」
男が変な声で仰向けに倒れていくのを、私は勝ち誇り鼻で笑った。
とはいえ、魔法を使ってくる相手は本当に油断ならない。さあ畳み掛けようかという時「待って!」少女のどちらか、声が上がった。
「え?」
私は今まさに男を踏みつけようとしていた足を避けて下ろし、後ろを振り返った。
私と目が合うと、エリンが首を横に振った。
「そこまでしなくても大丈夫。さっき魔法具使ったし、そいつ、もうまともに魔法は使えないから」
まともに魔法が使えなくても、そこを何とかしてしまう魔法師を知っている。
マンナっていうのだけれどね。
そのマンナの教えでは、魔法師だろうと戦士だろうと、敵の戦意は徹底的に叩き折るべきとなっていて、逃げられないように念入りにとも教わった。
もっともマンナの場合、例え、喋れないように顎を外し手足の骨を折り縛り上げても、攻撃してきそうなのだけれど。
マンナは化け物じみた強さだったけれど、あれでも全盛期と比べれば劣るというのだから、マンナの敵じゃなくて良かったって、何度思ったことか。
「油断はできないわ。逃げるかもしれないし」
「でも、よく見て、気を失ってるじゃない」
「え?」
私は言われて初めて、男が全く動かない事に気がついた。
確かに…………ピクリとも動かないわね。 けれど気絶したふりかもしれない。
「万が一って事もあるし……その、念には念を入れて、喋れないよう顎を外すとか、逃げれない様に骨を折るとか……」
私は魔法師である男をこのままにしておく方が不安なのだけれど、何故かしら。
二人ともドン引きしてない?アートも変な顔してたけど、あれはアートが過保護に育てられたからじゃないの?
もしかして逃げない様に骨を折ったり、魔法を使えない様にちょっっっっと手荒な事をするのって、庶民の間では普通じゃないのかしら。
私の命を狙ってくるのは、エグモンドおじ様が雇ったプロだったりするから、本当に油断できなくて、敵は常に疑えというのが私の中の常識だった。
けれど裏を返せば、それは、私にマンナやカク、ジージールといった警護がついているからであって、一人で行動する庶民に手練の殺し屋などというのは無用なのかもしれない。
そうなると、二人の反応からして……たぶん……というか絶対、やり過ぎている……気がする。
暴力と無縁――かもしれない――の二人から見れば、突然襲ってきた男も、その男に暴力を振るう私も大した違いはないのかもしれない。
万が一、同類と思われたら、かなりショックだ。
「ち、違うんです!ロープがないから、仕方なくです!悪い人は治安部隊に引き渡さないといけないじゃない!?逃がさないのが大事かと思ってですね。私普段は戦闘よりもお花とダンスが好きで、決して暴力が好きだとか、慣れているだとか、ましてや人を殺したいなんてそんな事もまったくないんです!」
焦って早口で余計なことまで繰り出してしまった弁明に、少女たちは微妙な表情のまま気の抜けた返事をするだけで、私納得してくれた様子はない。
これって完全に失敗してない?寧ろ墓穴掘ってない?
私は無害アピールをして、推薦状を貰うつもりだったのに、もしもこの事がオーリーの耳に入ったら?
初めての留守番を成功させて、イメージアップを図るつもりだったのに、これじゃあきっと、危険人物だって推薦状書いてもらえない。
エリンとイヴが互いに視線を交わし、困惑げに私を見る。
私はというと、とても二人の顔を見れる気分じゃなくて、肩を竦め背中を丸める。もう泣きたい気分。
エリンが大きく溜息を吐いた。
「ロープのある場所なら知ってる。私取ってくる」
そう言うと、エリンは気を失っている男をひょいと飛び越え、奥のリビングへ入っていく。
エリンが男を飛び越える瞬間、彼女じゃなくて私が肩を竦めた。
いきなり足を掴まれたらと怖かったのだけれど、まあいいわ。男は本当に気絶しているみたいだし、今は出来る事をしておかなくてはね。
まずは、この男が本当に気絶してるのか確かめないと。
「ねえあなた、イヴといったかしら?教えてほしいのだけれど」
イヴはいきなり私に話しかけられ、驚いたようだった
体をビクつかせ、初対面で気の強さが嘘のように、今は心もとなげにリビングの扉を見つめている。
「この男が気絶しているって、魔法具の効果なんしょうか?」
「え?えぇ、そうよ」
「どのくらい目を覚まさないのかわかりますか?」
「それは……確かな事はわからないの。以前は三十分は目を覚まさなかったけれど、その前は二十分くらいで目を覚ましたし。でも、効果が続いている時はよほどの事がないと目を覚まさないはず…………そう聞いてる。」
という事は、二十分より早く目覚ます可能性すらある。もしもの時の為に、男が持つ手段を奪うべきだ。
急いだほうが良いわね。
魔法具は捕まった時に、表に見えていたものは全て取られてしまったので、魔法を封じる道具もない。
拘束するだけなら、隠し持っている物があるけれど、できれば使いたくない。
となれば、あとは男の服を脱がして検分するしかないのだけれど…………よく考えなくても、出来ないというよりやりたくなくないわね。
殿方の衣服を引ん剥くなんて破廉恥な真似、淑女としてあるまじき行為無理よ。
よし、こうなったらさっさと町へ逃げたましょう……って、これは初めにあの子達がやろうとしてたことよね?
私が引き止めたからこうなったのに、結局逃げましょうってなったら……なんか、こう……恥ずかしい…………じゃなくて無責任よ。
しかも理由が男を裸にしたくないからって、凄く卑猥に聞こえるわ。
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