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第一章~王女の秘密~

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 槍使いの一撃目は耐えた。
 けれどその瞬間、魔法具はさらにヒビを増やし、敵の女は目ざとく見止めると、ニヤリと笑った。


「やっぱりそうだ!お前の防御魔法はもう長くは持たない!魔法具さえなければ、魔法が使えないカラスなんて怖くないんだ!」


 高らかに笑う女の声が庭中に響き渡り、下品な笑みを浮かべた仲間たちが武器や杖を構え、私ににじり寄ってきた。


「おめでたい方たちね」


 魔法具がなくなれば、私を簡単にやれると思い込んでいるなんて。
 
 足をより強化するわ。
 この場の誰よりも早く、目に止まらない程の速度で駆ける足を作るわ。


 私に残された時間は少ないみたい。
 元よりそのつもりだったし、アートが逃げる時間を稼げればそれで良かった。

 けれど、ちょっとだけ欲が出た。 

 アートと一緒の未来を見てしまい、あり得ないと思いつつも期待した。

 私の王子に対する感情だって、アートと接している内にいつか消える日が来るんじゃないかって、そう思えた。


 ここに来てかなりの進歩よね。私、すごいわ。


「私、体力には自信があるのよ」


 両手の棒を強く握り絞め、私は武器を強く振るった。


 四つ折りの棒はいきなり倍に伸び、刀身へと変化を遂げた武器は、浮足立った敵の腹を切り裂いた。

 切られた敵が地面に膝を付く前に、振り抜きながら、隣で呪文を唱える男に切付け、後ろから襲い掛かろうと剣を振りかぶった女の腹を一突きした。

 ただその間も、魔法具は何度も魔法を弾き、五人目が地面に沈んだ時、ついに効力を目に見えて落とし始めた。


 バチン!

 魔法を弾く音がした。
 けれど敵の放った魔法が威力を落としつつも、私のこめかみを捕え、私は軽いめまいを覚えた。

 ゲスい笑いが敵から沸き上がった。

 生まれた隙を突き、死角から伸びてきた槍を、魔法具は完全に防げず急所を逸らしつつも、槍は脇腹を掠めた。

 風を纏った刃が突き刺さると同時に、傷口がまるでミキサーにかけているかのように抉り、細切れにされる。
 私は歯を食い縛り痛みを堪えた。


「ぐぅぅっ……」


 槍が伸びてきた方、左に体を捻りつつ、片方の武器をさらに伸ばした。

 倍に伸びた武器は、今度は柔らかな鞭に変化して、槍使いの首に巻き付いた。

 私は間を入れず鞭を引き寄せ、もう片方の武器の刃で彼女の腹を突き刺し、真横に振り抜く。

 彼女は一瞬にして事切れ、苦し気に歪んだ表情のまま地面に崩れ落ちた。

 厄介な敵を一人屠ったと思った次の瞬間、背中にこん棒が振り下ろされた。

 釘が私の皮膚を削り、ジワリと血が染み出してくる。


「攻撃がぬるいじゃなくって!?」


 私は鞭を剣に戻しつつ、回転しながら相手の足をすくう……つもりだったが、一歩遅かった。

 敵の男は刃の僅かに届かない所で、血の付いた棍棒を振り回しながら、ニヤニヤと私を見て笑っている。


「仲間が殺されてるっていうのに愉快なんて、さすが外道ね」


「いってろ。俺たちには俺たちの正義がある。仲間の仇を取れるって時に喜ばないやつはいねぇよ」


 そこからはまさに乱戦だった。
 私一人を、まだこれだけいたのかと思う程の敵が襲い、私は徐々に追い詰められていった。

 噴水の横を通り過ぎ、雑草だらけの花壇を踏み荒しながら、私は刃を振るった。

 そしていつの間にか、屋敷の柵を越え、屋敷の東側にある崖に来てしまっていた。


 最後の方は誰を切ったのかさえ、よく覚えていない。

  気が付けば棍棒を持ったあの男は消えて、屋敷の三階で銃を構えていた女が銃の代わりに杖を構え、私に対抗する為か、槍使いの女が持っていた槍を、別の男が持っていた。


 どれだけの時間が経ったのか、検討もつかない。
 夜はすっかり明けて、太陽はそろそろ屋敷の向こうから顔を出そうとしている。

  
 無事でいる者など誰もいなかった。


 敵も至るところから血を流し、一人は地面に片足を付けながら、私に杖を向けている。

 私はというと脇腹は切られ、ズタズタにされた借り物の上着は血が滲み染みになっている。

 むき出しの足も無数の切り傷と痣とで、こうして立っているのも辛いくらいだ。

 骨も折れているかもしれない。

 息は荒く、頭から流れ落ちてくる血が目に入り、 まともに開けられない。

 顔もアザだらけで、今の私を王女だと言って、誰が信じるだろう。


 それにしても…………


 アートは無事誰かと合流できたかしら。


 もう、良いかしら。私――――




 一瞬、本当に僅かな時間、気が逸れ力が抜けた。


「くたばれ!」


 ハッとした時には、もう杖から魔法が放たれた後で、私は正面から迫ってくる水の塊に目を見開いた。

 切る事も打ち散らす事もできず、かといって避ける事もできず、私は崖の向こうへ、海へ落ちてしまったのだった。


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